09. 5月 2012 · (80) 音楽における解決 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , ,

ドレミは階級社会?で、D→Tの進行によりドミナント和音が持つ緊張が解消されることを、「解決」(以下「 」を省略)と言うと書きました。導音が主音に進むと、旋律的に確かに解決感を得られます。でも、音楽における解決は、本来、不協和音から協和音に進むことです。

たとえば、属和音ソシレの上に3度をもう1つ重ねた、属7(V7)の和音ソシレファ。一番下のソと一番上のファが作る7度は不協和音程なので、不協和音です。このソシレファから主和音ドミソに進むとき、導音シが主音ドに半音上行すると同時に、不協和の原因ファがミに半音下行し、不協和が解消されます。これが解決。属7もドミナント和音ですが、トニカ和音に安定しようとする力が、属和音ソシレよりも強くなります。

トニカ和音として、ドミソの代わりにラドミ(VI)を使うこともあります。ラドミでも、属7ソシレファの中の導音シが主音ドに、不協和なファがミに進めます。ただ、Iに解決するのと比べて終わった感じが弱いので、V→VIの進行は偽終止と呼ばれます(考えてみるとひどい名前ですね。ちなみにV→Iは完全終止)。

V7からIやVIに解決するたびに、音楽が同じように安定するわけではありません。たとえば、ベートーヴェンの交響曲第1番ハ長調第1楽章の冒頭部(譜例1)。1小節目に響くドミソシ♭の和音は、ヘ長調の属7。3拍目のファラドで、ヘ長調のIへ解決(①)。2小節目ソシレファは、主調ハ長調の属7。3拍目ラドミで、VIへ解決(②)。3小節目のレファ♯ラドは、ト長調の属7(主調ハ長調の属調の5度なので、ドッペルドミナントと呼ばれます)。4小節目のソシレで、ト長調のIに解決(③)。

譜例1:ベートーヴェン作曲交響曲第1番第1楽章冒頭(クリックで拡大します)

でも、①②③はいずれも終わった感じは強くありません。②は偽終止ですし、①と③は主調に解決しないからです(①のヘ長調も③のト長調も、主調ハ長調の下属調と属調ですからとても近い調なのですが。(77) 近い調、遠い調参照)。4小節目のソシレはハ長調のVなので、この後いよいよ主調の主和音が出るのかと期待すると……。6小節目で初めて登場するIの和音は、ドミソではなくミソド(第一転回形)。低音楽器がドではなくミを弾いているので、やはり安定感は今一歩です。8小節目でようやくドミソが響きますが、すぐに他の和音へ。結局、12小節間の序奏部の中で、ドミソはこのたった2拍だけ。

主和音を意図的に避け続け、不安定なままアレグロの主部になだれ込むと、ようやくドミソ。主和音にしっかり解決すると、今までを埋め合わせるように、あるいは目的地に達した開放感を楽しむように、そのまま5小節。ベートーヴェンは、音楽における緊張をうまくコントロールして、解決への期待を高めました。主部に対して序奏部全体が、主和音に解決するドミナント和音のような役割を果たしています。

主和音で始まって主和音で終わるのがお約束の古典派時代。不協和音が協和音に進み、緊張が解ける解決はとても大切でした。メロディーの区切りだけではなく、しっかり安定する解決と、終わった感じが弱い解決が、響きにおける読点や句読点として使われています。ロマン派の時代になると不協和音が頻繁に用いられるようになり、しかも(トニカ和音に進まない属7によって、遂げられない愛を表現する《トリスタン》のように)解決は厳格に行われなくなりました。