15. 6月 2016 · (282) ブルックナー・リズムの元?? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

ブルックナーと言えば、2+3のブルックナー・リズム。4/4拍子の1小節の前半に4分音符2つ、後半(の4分音符2つ分)に3連符を入れるリズム(3連符が先の3+2の場合も)。4分音符5つのうち、後の3つが前の2つより1/3拍ずつ短い。タンタンタタタとタンタンターターターの中間だから、タンタンタ-タ-タ- かな。

交響曲第4番《ロマンティッシェ》にも、た〜くさん出てきます。第1楽章では第1主題の後(43小節〜)や、第3主題(練習番号D)。第3楽章のスケルツォ主題も。ここは2/4拍子なので、8分音符のブルックナー・リズム、しかもアウフタクト付きです。終楽章の序奏部後半では、このスケルツォ主題をホルンが回想。29小節から4分音符、35小節からは8分音符のブルックナー・リズムの掛け合いがみられます1

見た途端、聴いた途端にブルックナーだ!とわかるこのリズム。いつ、どうやって思いついたのか知りませんが、もしかしたら「元」はこれ? 譜例1をご覧ください(クリックで拡大します)。

譜例1:ブルックナー《ロマンティッシュ》終楽章1874年稿自筆譜(W-An, Mus.Hs.6082)

譜例1. ブルックナー:交響曲第4番終楽章1874年稿自筆譜(A-Wn, Mus.Hs.6082)603小節〜

《ロマンティッシェ》終楽章コーダ、自筆譜の1ページです。上から3段(フルート、オーボエ、クラリネット)と、1段(ファゴット)おいた5、6段目(ホルン)。1小節に四分音符が5つずつ。おおお、ここにもブルックナー・リズム!??   あれれ、上に5、5、5と書いてあります。つまり、これは5連符!

5連符なんて知らない!と言われそうですが、これは1874年作曲の第1稿。上3段は、繰り返し記号の小節もやはり5連符。下5段の弦楽器(うわぁ、ヴィオラが「III」と略されている!!! サード・ヴァイオリン?? アルト記号の記譜ですが)は16分音符と8分音符。割り切れな〜い。演奏が大変そう。

譜例2:ブルックナー《ロマンティッシュ》終楽章1878年2稿自筆譜(W-An, Mus.Hs.19476)

譜例2. 同上1878年稿自筆譜 (W-An, Mus.Hs.3177, Band 3) 468小節〜

譜例2は、1878年に改訂した終楽章(”Volksfest”)。5連符は無くなっています。上から3段(フルート、オーボエ、クラリネット)は四分音符と八分音符のタンタカタンタン。次の3段(ファゴットとホルン)をとばして、上から7、8段目(トランペット)は3+2のブルックナー・リズムですね。タ-タ-タ-タンタンとタンタカタンタンが、同時進行。

さらに、その下の段(なぜかここにティンパニ)をとばした次の3段(10〜11段目のトロンボーンと12段目のテューバ)を見ると……。この小節にも音符が5つ。でも、さっきと逆の2+3!! ということは、2種類のブルックナー・リズム、タ-タ-タ-タンタンとタンタンタ-タ-タ-が同時進行。演奏は5連符よりずっと楽ですが、タンタカタンタンも重なって何だかわからない。まだ5連符に未練がある?2

1880年稿の終楽章(譜例3、ハース版)では、前半の3連符と後半の3連符のみ採用され、6連符に。5連符もダブルのブルックナー・リズムも無くなって、すっきり。演奏はとても楽になりました。ただ、紆余曲折の痕跡が全く残っていなくて、何だかちょっと残念な気もしますね(来週の聖フィル♥コラムはお休みさせていただきます)。

譜例3:ブルックナー交響曲第4番終楽章1880年稿自筆譜 (W-An, Mus.Hs.19476) 537小節〜

譜例3. 同上1880年稿自筆譜 (W-An, Mus.Hs.19476) 537小節〜

  1. さらに39小節からは3+2と2+3のブルックナー・リズムが重ねて用いられています。
  2. 金子建志『ブルックナーの交響曲』音楽之友社、1994年、129ページ。
27. 3月 2013 · (126) チャイコフスキーと《兎のダンス》 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番第1楽章の第1主題は、3連符の3つ目が休みの「たらっ、たらっ、たらっ、たらっ」というリズム(譜例1、 (120) チャイコフスキーのピアノ協奏曲はなぜ変ロ短調か参照)。先日、練習中に高橋先生が「《うさぎのダンス》にならないで」と注意していらしたのですが、後からふと、意図が伝わっているか心配になりました。高校を卒業したばかりのメンバーもいたからです。

譜例1: チャイコフスキー作曲ピアノ協奏曲第1番第1楽章第1主題

譜例1: チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1楽章 第1主題

「そそらそらそらうさぎのダンス」なんて童謡、今時の若者は知っているかしら? 正確なタイトルは、漢字で《兎のダンス》。最初の「そ」はアウフタクト((39) アウフタクトの3つの意味参照)なので、強拍に下線を付けると

 ら ら ら さ の ン  タッタッタッタッタッタッタ

一方、チャイコフスキーの第1主題は譜例1のように初めが拍頭なので

らっ らっ らっ らっ

でも、油断すると1つ目の「た」がアウフタクトになって

っ たっ たっ た

ほうら、あっと言う間に《兎のダンス》の出来上がり〜(歌詞まで同じ)! そうならないようにというご注意だったわけです。

日本の伝統的な音組織の1つである、ファとシを欠く四七抜き(よなぬき)音階をうまく使った《兎のダンス》。2/4拍子で、タッカタッカの付点リズムで作曲されています。でも動画を聴くと、2つ目の「そ」と次の「ら」(歌詞だけではなく音もソとラ)は、付点型の3:1ではなく、3連符の2:1の長さで歌われていますね。このゆるさ、とても日本的。地にどっしりと足をつけた農耕民族を祖先とする私たち、跳ね上がる鋭いリズムに今ひとつ馴染めなかったのでしょう((110) 3分割から始まった参照)。

作詞の野口雨情は、63年の生涯で童謡、地方民謡、校歌など2000余の詞を残しました1。作曲は中山晋平。65年の生涯で1770曲(童謡818、新民謡282、流行歌462など)を作曲しているそうです2。このコンビは他にも「こがねむしーは金持ちだー」の《黄金虫》、「しゃーぼんだーまーとんだ」の《シャボン玉》、「しょっ、しょっ、しょーじょーじー」の《證城寺の狸囃子》などの名童謡を作りました3。今から90年も前に作られたのに(《黄金虫》《シャボン玉》は大正12年=1923年、《兎のダンス》は同13年、《證城寺の狸囃子》は同14年の作)、どれも容易に口ずさむことができますね。現在の日本は J-Pop や洋楽に席巻されているように見えますが、童謡や唱歌は私たちの心の奥に活き続けています。

ところで、平成生まれの若者には、童謡よりむしろ動画の説明が必要かもしれません。回っているのは、CDが普及する前に音楽などの録音に使われた、レコード。我が家ではレコード・プレーヤーも現役ですが、さすがに78回転には絶句……。あれあれ、チャイコフスキーからずいぶん遠く離れてしまいました。

  1. 北茨城市歴史民俗資料館野口雨情記念館のHPによる。
  2. 信州・中野中山晋平記念館のHPによる。
  3. 《船頭小唄》《波浮の港》などもこのコンビの作。
06. 3月 2013 · (123) 《白鳥の湖》の物語を音楽で説明するには? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

《白鳥の湖》のストーリーを説明するためにチャイコフスキーが用いたのは、登場人物と調性を結びつける((122)「音楽の悪魔」参照)だけではありません。今回は、2つの音型とその意味について書きます。

1つ目は、悪の力を表す音型。譜例1は、組曲の第1曲目《情景》、白鳥の主題の後半。虚しく助けを求めるように少しずつ上行しながら、次第に断片的になっていく主旋律に対して、低音はファ#、ミ、レ、ド、シ♭、ソ#、ファ#と、悲劇に引きずり込むように静かに不気味に下降しています。各音の間はすべて半音2つずつの全音音階。半音が存在しないので、導音から主音(社長秘書と社長。(79) ドレミは階級社会?参照)に解決して落ち着くことができません。特殊な音階です。この全音音階の下行形が、悪の力の象徴1。グリンカ以来のロシア音楽の伝統です。

譜例1:チャイコフスキー《情景》の全音音階

譜例1:チャイコフスキー《白鳥の湖》の全音音階(《情景》)

探してみたら、グリンカのオペラ《ルスランとリュドミラ》序曲で見つけました。皆で一目散に走っているような第1主題と、のびのびとした第2主題がチェロによって再現された後、ファゴットやトロンボーン、低弦が2分音符の下行全音音階を奏しています(譜例2A)。実はこれ、新郎ルスランの目の前で新婦リュドミラがさらわれる場面で使われる、悪い魔法使いチェルノモールの動機の予示(譜例2B)。まさしく悪の力ですね。ボロディンの《イーゴリ公》序曲にも、最後に Animato になる16小節前から、トロンボーンとヴィオラ、チェロのパートに下行全音音階があります。

譜例2:グリンカ《ルスランとリュドミラ》の全音音階(A:序曲、B:第1幕)

譜例2:グリンカ《ルスランとリュドミラ》の全音音階(A:序曲、B:第1幕)

もう1つは、バレエ(および組曲)終曲の「死の動機」。間違いに気づいた王子が絶望するオデットのところに駆けつける冒頭の雄大な旋律は、すぐにオーボエによる白鳥の主題に。アレグロで1拍目を欠いたシンコペーションの伴奏が、アジタート(急き込んで)の雰囲気を作ります。「音楽の悪魔」3全音の和音が併置され、白鳥の主題はだんだん細切れになって切迫。もう1度初めから、白鳥の主題が白鳥の調ロ短調で高らかと奏され、さらに同主調のロ長調に。強拍を3等分する「死の動機」は、ここで登場(譜例3)。幻想序曲《ロメオとジュリエット》の終結部でも、同じリズム型がティンパニによって不気味に奏されます2

同じリズム型は、《白鳥の湖》第2幕第2曲で「悪魔の動機」としても使われました3。トランペットとトロンボーンが唐突に奏する譜例4は、王子とオデットの語らいを邪魔しに来る、フクロウに身を変えた悪魔ロートバルトの象徴です。音型だけではなく、調も悪魔の調へ短調と関係が深いハ長調で始まります(ヘ短調の属音から始まる長調)。

人物や事象、観念と音楽を結びつけてストーリーを表す手法は、ヴァーグナーらのオペラで多用されました。バレエ音楽でもアダンの《ジゼル》(1841初演)やドリーブの《コッペリア》(1870)などに見られ、チャイコフスキーは帝室劇場の図書館からスコアを借りて研究したそうです。交響曲やオペラの手法、フランス・バレエやロシア音楽の伝統なども取り入れ、登場人物の内面を描き出した《白鳥の湖》。でも、残念ながら評判は良くありませんでした。

譜例3:《白鳥の湖》終曲「死の動機」。譜例4:第2幕「悪魔の動機」

譜例3:《白鳥の湖》終曲「死の動機」。譜例4:第2幕「悪魔の動機」

  1. 森垣桂一『音楽之友社ミニチュア・スコア』の解説、x ページ。正確には、調の2番目の音が半音低くなった「ナポリの2度」(この場合はド#→ド)が含まれる下行全音音階が、悪の力の象徴です。譜例1はスコアの xi ページ、譜例3は xvi ページの譜例をもとに作りました。
  2. 森垣氏は幻想序曲《ハムレット》終結部のティンパニ・パートもあげていますが、これは弱拍が3等分されたリズムです。
  3. 小倉重夫「チャイコフスキー《白鳥の湖》」『名曲解説全集5』音楽之友社、1980、189ページ。
27. 2月 2013 · (122) 「音楽の悪魔」in《白鳥の湖》 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , ,

《白鳥の湖》の悪魔って、フォン・ロートバルトでしょ。ヒロインのオデットは彼の魔法で白鳥の姿にされ、真実の愛を得ないと人間に戻れないのよね1。でも、王子はオデットではなくオディールに愛を誓ってしまう。悲劇よねぇ……。いえいえ、登場人物ではなく「音楽の悪魔」。3全音がこのように呼ばれます。

3全音とはその名のとおり、全音3つから成る音程(全音は半音2つ分)。ファからシ、ドからファ#などの増4度音程のことです。この2音は続けて歌いにくいし、同時に鳴らすと不協和。3全音はソルミゼーションを考案したグイード・ダレッツォ((76) ドレミの元参照)に禁止され、多声音楽において「音楽における悪魔 diabolus in musica(ラ)」と呼ばれ、忌み嫌われました。

チャイコフスキーはこの3全音を、組曲《白鳥の湖》第1曲《情景》の中で効果的に用いています。オーボエが始める白鳥の主題は、バレエ全体の中で最も有名ですね。この曲の途中でメロティーが3連符になるところの低音に注目。1小節ごとにドとファ#が交代します。初めは間にミの音を挟んでいます(譜例A)が、すぐにドとファ#が直接交代するように(譜例B)。後者もメロディーには、ファ#の倚音ソが挟まれているものの、響いている和音はそれぞれドミソとファ#ラ#ド#2。もの悲しい静かな雰囲気の冒頭とは一変。3全音の関係にある2和音の併置・交代が、落ち着かない3連符のリズム((110) 3分割から始まった参照)とともに緊張感を高めています。

譜例1:チャイコフスキー作曲《白鳥の湖》より《情景》、譜例A:35〜37小節、譜例B:38〜39小節。かっこで結んだ2音が音楽の悪魔

チャイコフスキー:組曲《白鳥の湖》より《情景》、譜例A:35〜37小節、譜例B:38〜39小節

チャイコフスキーがここで、中世から禁則とされた「音楽の悪魔」を用いた理由は? 彼は《白鳥の湖》の中で、歌詞が無いバレエ(当たり前ですが)のストーリーを聴衆に伝えるために、様々な音楽の象徴法を用いました。調の選択もその1つです3

バレエ全体の中心となる調は、第1幕の前に奏されるイントロダクション(組曲には含まれません)で使われる、シャープ2つのロ短調。先ほどの《情景》も同じロ短調で、これが白鳥を象徴する調になります。第2幕のオデットと王子による愛の踊り(独奏ヴァイオリンのあま〜いメロディー付き)は、ロ短調と関係が深い変ト長調(ロ短調のドミナント=属音→嬰ヘ音=変ト音。(79) ドレミは階級社会?参照)。

一方、悪魔の調はフラット4つのヘ短調です。第3幕の、娘オディールと共にロートバルトが城の舞踏会に登場する場面。チャイコフスキーは先ほどの白鳥の主題を使って、黒鳥オディールが白鳥オデットとよく似ていることを表現します。ただし、テンポを上げ、fff で木管に主旋律、トランペットに合いの手を演奏させて、オデットとの性格の違いを暗示。ここまではすぐに気づくと思いますが、さらに調でも一工夫。ロ短調ではなくへ短調を使い、音楽だけで(そっくりだけれども別人というだけではなく)実は悪魔なのだと告げています(下の画像 0:18くらいから。シンバルのずれは気にせずに)。

悪魔の調の主音ヘ音と白鳥の調の主音ロ音は、3全音の関係。チャイコフスキーは、互いに相容れない忌み嫌われる関係の調を設定して、正義と悪の構図を鮮明にしました。《情景》(譜例AB)で対置されるドミソとファ#ラ#ド#は、悪魔の調と白鳥の調のドミナント和音4。第2幕のオープニングとエンディングで演奏されるこの曲で、「音楽の悪魔」は白鳥・王子(正義)と悪魔(悪)の対決を予示しているのです。

  1. プティパとモデスト・チャイコフスキーが改訂した台本による。オリジナルではオデットは妖精の娘で、祖父の計らいによって白鳥になりました。小倉重夫「チャイコフスキー《白鳥の湖》」『名曲解説全集5』音楽之友社、1980、178ページ。
  2. ここでは他に、ファ#ラ#ド#をファ#ラ#ド#ミの7の和音に替えて、ドミソとの共通音を作り出しています。
  3. Wiley, Roland John, “Tchaikovsky” New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 25. Macmillan, 2001, pp. 152-53. 森垣桂一『音楽之友社ミニチュア・スコア』の解説、ixページ。 
  4. 和声学的に言うと、このドミソはロ短調の II の和音の根音を半音下げた「ナポリの和音」です。

《第九》第1楽章のオープニング。セカンド・ヴァイオリンとチェロのかすかな刻みの上に、ファースト・ヴァイオリンが第1主題の断片を「ちゃらーん……ちゃらーん……」と繰り返します。「ちゃらーん」の「ちゃ」は32分音符。8分音符の1/4の音価(音の長さ)です。一方、かすかな刻みは6連符。四分音符に6つですから、八分音符の1/3の音価。伴奏なのに「ちゃ」と微妙にずれています。空虚5度の響き(どのパートもラとミだけ。真ん中にドかド♯が加われば、長調か短調かはっきりするのですが)と相まって、この先、何が始まるのかわからない、なんとなく落ち着かない雰囲気が続きます。

落ち着かない3分割で思い出すのが《魔王》。病気の息子を抱いた父親が嵐の中、馬を走らせるというゲーテの詩に、シューベルトがつけたピアノ伴奏は、最初からずーっと3連符。疾走する馬の描写ですが、それだけではありません。左手の3連符による上向音階とともに、心急く様子、不気味さ、ただならぬ雰囲気を醸し出しています。もしも16分音符だったら(速過ぎて弾けないのはともかく)、これほどの切迫感は得られなかったでしょう。

2本足で歩く私たちには2拍子系の拍子は身についています。特に日本人は、地面にどっしり足をつけた農耕民族。3拍子には縁がありませんでした(騎馬民族なら、早馬のリズムから3拍子を体感できた?)。民謡はもちろん、唱歌・軍歌・童謡もほとんどが2拍子系。ぱっと思い浮かぶ例外は、「ぞーうさん、ぞーうさん、おーはながながいのね」の《ぞうさん》(團伊玖麿作曲)くらい。1拍を3等分する3連符は、さらに人工的で不安定に感じられます。3拍子の舞踏が珍しくないヨーロッパにおいても同様なはず。単に、8分音符ではもの足りなくて16分音符では細かすぎるから3連符にするわけではありません。《第九》のオープニングや《魔王》のピアノ伴奏も、3分割特有の不安定さをうまく利用しています。

ところが!! 西洋音楽の歴史において最初に生まれたのは、3分割でした(と突然、アマ・オケ奏者のための音楽史 (9) に変身)。3はキリスト教の三位一体を象徴する神聖な数。このため3等分は、より完全な分割法と考えられたのです。それに対して2分割は、不完全分割と呼ばれました。

グレゴリオ聖歌の記譜に使われたネウマは、音高を示すことはできます((82) 1000年前の楽譜参照)が、音価を示すことはできませんでした。音符の形によって音価を表す現在のような記譜システムが考えられたのは14世紀。音符は長い方から、マキシマ、ロンガ、ブレヴィス(■)、セミブレヴィス(◆)、ミニマの5種類。ブレヴィス1個をセミブレヴィスに分けるとき、3つに完全分割することと、2つに不完全分割することが可能でした。そのセミブレヴィスをミニマに分けるときも、2種類。これらを組み合わせた4種類の体系が図1です。

図1;ブレヴィスの分割(クリックで拡大します)

各分割を表す記号、メンスーラ記号も考え出されました(図1の最上段)。円は完全を表す記号で、1番左の⦿は、ブレヴィスからセミブレヴィスへも、セミブレヴィスからミニマへも完全分割であることを示します。左から2番目の○は、ロンガからブレヴィスへのみ3分割でブレヴィスからセミブレヴィスは2分割の印です。一方、ロンガからブレヴィスが不完全分割の場合、右側2つのように円ではなく右側が欠けた半円の記号が使われました。

あれれ、1番右側の記号?! そうです。現在、4分の4拍子の記号として使われている C は、アルファベットの C ではありません。14世紀に、不完全分割を表す記号として工夫された半円形です。それ以来何百年もの間、2分割=不完全であることを示し続けているのです1

  1. 14世紀の音楽家や理論家たちは様々な記号を考えましたが、その中で生き残ったのがこの4つです。金澤正剛『中世音楽の精神史』講談社選書メチエ、1998、211−2(図1も)。実際に楽譜に使われるようになったのは、もっと遅いようです。