02. 1月 2013 · (114) ヨシとアシ はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , ,

明けましておめでとうございます。今年も、聖フィル♥コラムをよろしくお願いいたします。

新年と言えば日本音楽(というのも変なのですが。(9) 新年の音楽参照)。今回は、雅楽で主旋律を担当する縦笛、篳篥(ひちりき)についてです((52) なぜ管弦打楽と呼ばないのか参照)。長さ18cmほどの竹製(下図左)で、オーボエのようなダブル・リード属。リードはヨシで作ります。ヨシは、沼や川岸などの湿地に茂るイネ科の多年草(図中)。2〜3mも伸びる軽くて丈夫な茎は、よしずの材料です。

以前、大阪府高槻市に住んでいた時、篳篥奏者の友人が、東京からヨシを取りに来たことがあったので、高槻の淀川河川敷にある鵜殿(うどの)に自生するヨシが、篳篥のリード(盧舌)としてベストであることは知っていました。この鵜殿のヨシ原の上を横断する高速道路の着工が決定されたと聞き、雅楽の伝承の危機!と計画見直しの署名集めに協力したのですが、考えてみたら、篳篥のリードがどういうものでヨシからどうやって作るのか、全くわかりません。この機会にと、友人に聞いてみました1

篳篥に使うヨシは、外径11.5mmくらい。節の間を6cmほどの長さに鋸で切り(図右A)、吹き口になる方の外皮を繰り小刀で削ります(B)。そして、割れないように和紙を張りつけて(C)水に濡らし、炭火の上で温めながら鉄のこてでひしぐ(=押しつけてつぶす。D)。丸くて堅いヨシを水蒸気で柔らかくし、形を変えるのです。それをさらに薄く削って調整します(E)。平らにした部分は丸く戻ろうとするので、ちょうどよい形に保つために、真ん中あたりに「セメ」をはめます(F)。

図1左:篳篥、中:ヨシ、右:盧舌製作の過程(クリックで拡大します)

図左:篳篥  中:ヨシ  右:盧舌製作の過程(クリックで拡大します)

ダブル・リード属でも、篳篥のリードは(つぶされていますが)単体2。よい音を出すためには良いリードが不可欠であることは、オーボエやクラリネット、ファゴットなどと同じ。篳篥のリードとして使用するためには、ヨシの繊維の密度、茎の太さ、肉の厚みなど、微妙な条件を満たさなければなりません。雅楽を伝承する宮内庁式部職楽部では、鵜殿のヨシのみを使用。琵琶湖や利根川などのヨシも試したものの、鵜殿のヨシに叶う品質ではなかったのだそうです3。高速道路を作ってみて、やはり環境に影響があった、ヨシが減ってしまった、ヨシの質が落ちて良い音が出なくなった、では遅すぎますね。

さて、署名集めに協力していただく中で出た素朴な疑問:オーボエのリードもヨシ?

オーボエ奏者さんに「いいえ、ヨシではなく葦(アシ)です!」と言われて、そうかー、篳篥とは違うのねーと、皆といっしょに納得した私。そもそもリード reed って、英語で葦のことだし。

でも! アシとヨシは同じもの。アシは「悪し」に通じるため、「良し」と呼び替えられたのです。さきほど触れた「よしず」は漢字で「葦簀」あるいは「葭簀」、いずれもアシ。篳篥用リードである盧舌の盧もアシですね。

ただ、オーボエやファゴット、クラリネット用リードのアシ=ヨシ材(Arundo donax)は、篳篥用リードのヨシ=アシ(Phragmites communis または Phragmites australis)と異なります。日本語で暖竹(ダンチク)と呼ばれ、径が2〜4cmにも達するイネ科多年草。関東以西から中国、インドなどに広く分布していますが、地中海沿岸に自生しているものがリードとして使われるのだそうです。

  1. このコラムを書くために詳しい情報をくださった htm3nkmrさん、どうもありがとうございました。また、yu-tontonさんにも感謝いたします。
  2. 13/1/17追記:一方、たとえばオーボエのリードは、丸いアシをうすい舟形にし、水につけて半分に折り、裏表両側を削って加工。さらに、折った先端をカットして微調整するというプロセスで作るそうです。したがって、もとは単体ですが、最終的に2枚は離れています。IsaMorimさん、ありがとうございました。
  3. 東儀兼彦の言葉。「SAVE THE 鵜殿ヨシ原:雅楽を未来につなぐ」パンフレットより。図の写真もすべて同パンフレットより(http://www.save-udono.com/)。