26. 6月 2013 · (139) 実はいろいろ! ハ音記号 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , ,

凹んだところが真ん中のドを示すハ音記号。ピアノの楽譜(大譜表)で使われるト音記号(出発点の高さがト=ソ)やヘ音記号(2つの点で挟まれた高さがヘ=ファ)ほど出番は多くありませんが、実は中世から存在していました((82) 1000年前の楽譜参照)。オケ奏者には、ヴィオラの音部記号としておなじみですね。五線の3本目に凹みが向き、五線の中にきれいに収まります。

ヴィオラ初心者は、慣れるまで読譜に一苦労でしょう。なぜわざわざ読みにくい記号を使うのか!とお怒りの方も多いと思います。でも、もしト音記号を使うと、ヴィオラの最低音(真ん中のドの1オクターヴ下のド)を書くには、加線(短い線)が4本も必要。上の音域がはみ出すヘ音記号は、問題外。加線1本だけで最低音を示すことが出来るこの記号、まさにヴィオラのために存在するようなものです。

ところで、ヴィオラの記号=ハ音記号と思っている人が多いようですが、正確にはアルト記号。ハ音記号は他にもあります。チェロ・パートの高音域には、第4線(五線は下から数えます)が凹んだハ音記号も使われますね。これはテノール記号。

アルトとテノールがあるなら、ソプラノも?と思った方、鋭い! もちろんあります。第1線に凹みが向いていて、加線を使わなくても、真ん中のシ(?!)から1オクターヴ+4度上のミまで、書き記すことができます。でも、ハ音記号のバス記号はありません。ヘ音記号がバス記号。

五線のうち、第1、3、4線に凹みが向く記号があるのに、2と5は無いの?と思った方も鋭い! もちろんあります。ソプラノ・アルト・テノール・バス以外にも、まだ声の種類があるじゃありませんか。第2線がドなのはメゾ・ソプラノ記号。第5線がドなのはバリトン記号ですが、実際には下にずれたヘ音記号(第3線がファなので、第5線がドと同じ)が使われます。つまり音部記号は、ト音記号1、ハ音記号4、ヘ音記号2の合計7種類(図1参照)。

図1:音部記号

図1:音部記号(クリックで拡大します)

この一覧表を見ると、大学のソルフェージュ(音楽の基礎訓練。楽譜を見てすぐに歌う「新曲視唱」や、聴いた音を楽譜に書く「聴音」など)の時間に「クレ読み」させられたことを思い出します。「クレ」とはフランス語で音部記号のこと(英語では最後の f も発音するので「クレフ」)。途中でどんどん音部記号が変わっていく旋律を、初見で(見てすぐ)歌うのですが、メゾ・ソプラノ記号やバリトン記号などは特に難しい。当時は、こんな練習がいったい何の役に立つの?と疑問に思ったものでした。

でも、やはり読めた方がよいのです。譜例1、バッハの《マタイ受難曲》自筆譜合唱パートに注目! ソプラノ・パートはソプラノ記号、アルトはアルト記号、テノールはテノール記号、バスはバス記号で書かれています。バッハのハ音記号はKの右上からの線が極端に短いものの、シャープの位置から逆算できます(テノール声部の2ヶ所のシャープは両方ファ)。加線を書く手間が省ける(アルト・トロンボーンやテノール・トロンボーンの場合も同様)各種音部記号、このように当たり前に使われていたのです。

譜例左:バッハ作曲《マタイ受難曲》自筆譜第1ページ第1合唱合奏体部分。譜例右:同左合唱部分。

譜例1左:バッハ作曲《マタイ受難曲》自筆譜第1ページ上半分、第1合唱合奏体部分。譜例1右:同合唱声部部分

 

 

24. 5月 2012 · (82) 1000年前の楽譜、ネウマ譜 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

アマ・オケ奏者のための音楽史第6回は質問から。約1000年前の楽譜に存在しなかったものは?

  1. 小節線
  2. 音部記号(ト音記号など)
  3. 譜線(五線など)

    譜例1:ネウマ譜(イタリア、15世紀)

1000年前は11世紀、中世。クラシック音楽のルーツ、グレゴリオ聖歌が整えられていった時代です((65) グレゴリオ聖歌はいくつあるのか参照)。聖歌が、譜例1のような黒くて四角い「ネウマ」で書かれていたことをご存知の方もおられるでしょう。譜線は4本。聖書の言葉をぼそぼそ唱えているよりも、節をつけて歌った方が神様にも喜ばれるだろうと生まれたグレゴリオ聖歌ですから、歌と言っても音域が狭いのです。4線譜で十分でした。現代でも、グレゴリオ聖歌集はネウマで記されます。

音部記号もありますね。譜例1(クリックで拡大します)の中のAは、ヘ音記号。現在と同様、右側の2つの点に挟まれた線がファですから、右隣のネウマはラ。主の降誕のシーンが細密画で描かれた、大きなPのイニシャルの右側には、現在、ヴィオラの記譜に使われるハ音記号のCが書かれています(B)。Cに挟まれた線がドですから、白い楕円が重なった右隣のネウマはレ(ヘ音記号もハ音記号も、4線のどれにでも付けられます。聖歌の歌い手は男性だったので、ト音記号はありませんでした)。ということは、上の3つのうちで1000年前に存在しなかったのは、小節線だけ?

この黒く四角いネウマは、13世紀ころから一般的になった新しいタイプ。それ以前は、地域によってネウマの形や書き方が異なっていました。譜例2は、1030年頃に南フランスで作られたネウマ譜(聖パウロの日のための聖歌)。ラテン語の祈りの言葉(=歌詞)が小さく書かれた上の、茶色っぽい点々がネウマです。小節線はもちろん、音部記号もありません。だいたい、音部記号を書くにも線が無いし……。

譜例2:ネウマ譜(アクィタニア式記譜法、1030年頃)

あれれ、歌詞と歌詞の間に白っぽい線が見えます(拡大して見てください)。これが、ファを表す譜線。先が尖ったもので、羊皮紙を傷つけてあるのです。よく見ると、まるでこの線の上下に等間隔に線が引かれているかのように、音符の高さが揃っています。これなら、歌うことができますね。というわけで、1000年前の楽譜に存在しなかったのは、小節線と音部記号。もちろん、さらに古い時代には、譜線もありませんでした(譜例3参照)1

私たちが日頃お世話になっている楽譜は、数えきれないほどあるグレゴリオ聖歌の覚え書きとして始まりました。聖歌の歌詞の上に、旋律線を示すような簡単な印(ネウマ)を記し、メロディーを思い出せるようにしたのです。11世紀初めに、譜例2のようにファの譜線が刻まれるようになり、その後、ファの線が赤インクで書かれる→色違いのドの線が加わる→音部記号の導入と進み、正確な音高表記が可能に。四線譜の発明は、グイード・ダレッツィオ((78) ドレミの元参照)に帰せられています。小節線が加わるのは、まだまだ先です。

譜例3:ネウマ譜(ザンクト・ガレン式記譜法、950〜975年)

  1. 譜例1と3に書かれた聖歌は、両方とも、降誕祭のためのアンティフォナ《Puer natus est nobis 我らに幼な子が生まれ給えり》です。