21. 10月 2011 · (51) 藤森亮一先生のアンコール《森の静けさ》 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

聖フィル第5回定期演奏会においでくださった皆さま、どうもありがとうございました。お楽しみいただけましたでしょうか。藤森亮一先生のドボコン、圧巻でしたね。さらにアンコールが2曲も! バッハの無伴奏チェロ組曲第1番プレリュードを鮮やかに弾かれた後の2曲目は、初めて耳にする方も多かったと思います。今回はこのアンコール曲、ドヴォルジャークの《森の静けさ》について書きます。

もともとはチェロではなく、ピアノ用に作られました。4手連弾のための小品集《ボヘミアの森から Ze Šumavy》op. 68、全6曲中の5曲目です。ドヴォルジャークの連弾曲といえば、後から作曲者本人によってオーケストラ用に編曲された《スラブ舞曲集》(第1集 op. 46と第2集 op. 72)が有名ですね。《ボヘミアの森から》は、その第1集と第2集が作曲される間の1883年8月から翌年にかけて作られ、オーストリア皇太子妃ステファニーに献呈されました。

他の連弾曲集とは異なり、6曲それぞれに《紡ぎながら》《暗い湖のほとりで》《悪魔の宴》《見張りをしながら》《森の静けさ》《嵐の時代から》と、タイトルが付けられています1。このような、題名を持つ叙情的なピアノ小品集は、キャラクター・ピース(性格的小品)と呼ばれ、ロマン派の時代に流行しました。ただ、ドヴォルジャークは題名選びに苦戦。「ふさわしいタイトルは既に全部、シューマンが使ってしまったみたいだ」2。「私は音楽はたくさん持っているけれど、タイトルは全然持っていない」とこぼしたそうです3

ドヴォルジャークがこのピアノ連弾曲集の中の《森の静けさ》を、ピアノ伴奏付きのチェロ独奏曲にアレンジしたのは1891年末。翌年1月3日から5月末まで、ラハナー(ヴァイオリニスト)とヴィハン(後に、彼の求めに応じてドボコンを作曲することになるチェリスト)とともに行った、渡米前のお別れコンサート・ツアー用です。《ドゥムキー 》op. 90 等のピアノ・トリオを中心とするプログラムに華を添える、ヴィハンの独奏用としてでした。

さらに1893年10月にアメリカで、このピアノ・パートを小オーケストラ用に再アレンジ。翌年の秋に、ベルリンのジムロック社から出版されました。第5曲の原題 Klid は、チェコ語で「静けさ」「平穏」の意味でしたが、 Die Waldesruhe(ドイツ語で「森の静けさ」)のタイトルで出版されました。

曲は終始、静かにゆっくり奏されます。A—B—A 形式のA部分は、フラット5つの変ニ長調。シンコペーションのリズムでゆるやかに降りてくるメロディーを、独奏チェロが静かに歌います。B部分はシャープ4つの嬰ハ短調4。三連符が使われて少し動きが出るこの中間部には、独奏チェロが管楽器と短く歌い交わすロマンティックな部分も。シンコペーションによるAのメロディが戻り、最後に三連符のリズム(Bの特徴)で盛り上がった後、すぐに静まって終わります。

チェコ南西部、ドイツやオーストリアとの国境近くに広がるボヘミアの森。ヴルタヴァ(モルダウ)河の水源もこのあたりです。(41) 涼しくなる (?!) 音楽でご紹介した、魔物が住む暗く恐ろしいボヘミアの森の一側面とは全く異なる、静まりかえった平和な情景が描かれた《森の静けさ》は、藤森先生のリリカルで暖かいチェロの魅力を伝えるのに、まさにうってつけの曲でしたね。

  1. これらの日本語タイトルは、『ピアノ連弾の楽しみ:模範演奏編』(Sony Classical, 1995)の濱田滋郎の解説によります。
  2. シューマンは《謝肉祭》や《子どもの情景》など、多くのキャラクター・ピースを作曲しました。
  3. Bartoš, František, Antonín Dvořák: Ze Šumavy (Bärenreiter, c1957) の解説、p. vi.
  4. 難しそうに聞こえますが、変ニ(レのフラット)と嬰ハ(ドのシャープ)は異名同音なので、2つの調はピアノの同じ鍵盤から始まる長調と短調です。
11. 10月 2011 · (50) 藤森亮一先生 特別インタビュー はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

白いチェロ・ケースとともに、聖フィルとの2回目の練習に颯爽と現われた藤森先生。聖光学院弦楽オーケストラ部の生徒さんたちが見守る中で行われた、ドボコンの合わせのみならず、なんとその後、《未完成》の練習にもつきあってくださいました。1列目で静かに穏やかにチェロを弾かれただけなのに、その圧倒的存在感安定感安心感!

ずうずうしくも練習後のインタビューをお願いしたところ、快く受けてくださいました。学校の食堂で、団員からの質問を交えながらお話を伺っていたら、途中で食堂を閉める時間になり、最後は立ち話に。藤森先生、お疲れのところ本当に申しわけありませんでした1

——最初に、共演させていただくドボコンについて伺います。この曲の魅力は何でしょうか?

藤森亮一先生(以下敬称略) ソロはもちろんですが、なんと言ってもオーケストラのパートが充実していて、弾きごたえがあることです。その分、ソロにかぶりやすいので(オケとソロの)バランスが難しいのですが、(聖フィルでは)マエストロがうまく整理をしてくださるので、弾きやすいですね。チェロはふくよかな音色を持ち、音域も広い機能的な楽器ですが、音の通りが良くない。ソロを弾くときはそのへんを考えて、たとえ p と指示されていても実際には f で弾くこともあります。

——ドボコンのここが好きというところは?

藤森 (間髪入れず)ホルン! 1楽章(第1提示部)第2主題や、2楽章の3本のハーモニーなど、素晴らしいですね。独奏チェロでは、旋律と伴奏の分担を交代したりするオーケストラとの絡みが好きです。

——逆に、ここが難しいというところは?

藤森 音楽的に弾こうとすることから生まれる難しさがあります。楽器の都合で、ソロはイン・テンポで弾くのがとても難しいけれど、間を空けずにすっと続く方が音楽的だという箇所ですね。たとえば3楽章の185小節。オケは前の小節でクレッシェンドしてそのまま入りたいのに、ソロに跳躍があるのです(ソリストとオケ奏者と両方なさる藤森先生ならではのコメントです)。

——先ほどの《未完成》は、ずいぶん控えめにお弾きになっている感じでしたが。

藤森 いえ、あれでもいつもより大きめに弾きました。特に1楽章のオープニングは、本当はもっと静かです。

——N響やいろいろな室内楽でお忙しい毎日ですが、どのように練習なさるのですか?

藤森 オケで難しい新曲を演奏するときなどは、予め楽譜を見てどの部分の練習がどれくらい必要かを見きわめ、本番から逆算してさらいます。朝、N響の練習場へ早めに行って、練習することもあります。複数のプログラムを平行して準備しなければならないことが多いのですが、難しいものが2つ続いていても、どうしても差し迫った方が気になってしまって。実は、来週のメシアン(N響定期のトゥランガリラ交響曲)の後に、プレヴィンが作曲したトリオの日本初演(ピアノは作曲者本人)が控えていて、準備が大変です……。

——貴重なお時間を、本当にありがとうございます。次に、楽器について伺います。ラ・クァルティーナ演奏会ではストラディヴァリウスをお使いでしたね。

藤森 あれは日本音楽財団に返してしまったので、楽器は1台だけです。弓は折れたのを使っています(通りかかったコンミスさんが「藤森先生、よく弓を折られるんですよ。」えーっ?!!)。ケースに入れている2本とも、弾いている時に折れました。20年くらい使い慣れて気に入っている方は、先が飛んじゃった。くさびでつないだけれど、やはりちょっと調子が良くない。もう1本はまっ二つに折れたわけではなかったので、にかわで着けてひもを巻いて使っています。2本の弓を、用途によって使い分けるということはありません。弦は切れるまでそのままですが、室内楽やオケで1日10時間くらい弾くことも多いので、頻繁に切れてしまいます。弓の毛もすぐにすり減ってしまうので、2本の弓を毎月毛替えしてもらっています。使っている弦はごくスタンダードに、上2本がラーセン、下2本はスピロコアのタングステン巻です(企業秘密を教えてくださってありがとうございます!)。

——チェロを始める前の音楽経験は?

藤森 3歳の時にピアノを習わせてみたけれど、椅子に座ると泣いて固まってしまうのでやめたそうです(自分では覚えていません)。その後は学校で習う音楽だけでしたが、中学校の音楽教師だった父が、家で歌ったりクラシックのレコードをかけたりするのを聞きながら育ちました。

——11歳でチェロを始められたきっかけは?

藤森 これもはっきりは覚えていないのですが、学研の月刊誌「学習」に、パブロ・カザルスの伝記が載っていたんですよ。それと、家にあったチェロのレコードを聴いて、これはいいなと思ったからでしょうか。小学校5年生の終わりにチェロをやりたいと自分から頼み、6年生からやらせてもらいました(下線筆者)。

——練習をさぼることはありませんでしたか? 他にもやりたいことがたくさんある時期だと思いますが。

藤森 練習がいやということは全然無かったですね。もちろん遊びたかったけれど、音楽が好きだったので。ただ、中学1年から毎週、京都から東京までレッスンに通ったため、吹奏楽部に入部できませんでした。いろいろな楽器をやりたかったのですが(やはり、本人が上手くなりたいと思わないとだめなんですね。子どもに楽器を習わせている親としてため息……。気をとり直して)。

——カラオケがお好きと伺ったのですが、レパートリーは?

藤森 チェロを始めるまでテレビっ子でしたので、歌謡曲(なつかしい言葉!)を毎日聞いて、歌ったり踊ったりしていました。郷ひろみ、野口五郎、西城秀樹の新御三家や、山口百恵、桜田淳子の時代で、今も車の中で聞いています。カラオケで歌うのはサザンの桑田さんとかチューブの前田さんなど。女子で好きなのは今井美樹さん。

——体調管理のために注意されていることは何ですか?

藤森 チェロを習い始めるまで運動していました。剣道は段を持っていますし、水泳もかなり速いですよ(すごい! だから、スリムなのに筋肉質でたくましい体型なのですね)。今は、オケでチェロを弾くことが運動みたいなものです。それと、肉ばかりではなく野菜を食べるとか、1日30品目など種類を多く食べるようにするとか、食事に気をつかっています。

——最後に、アマ奏者である聖フィル・メンバーに、何かアドヴァイスをお願いします。

藤森 (かなりお考えになったあげく)練習の始めに必ず弾くルーティンを作ったら良いと思います。長いものでなく、たとえば30秒くらいでも。バッター・ボックスに入る時などに、毎回同じことをする野球選手がいますよね。私も、楽器を出すたびにする、自分の調弦法と最初に必ず弾くスケールのルーティンがあります。全部で1分くらいですが、楽器をひととおり動かしてみるのです(次の合わせの前や、本番前にも弾かれるそうです。みなさん、注目!)。チェロはケースから出すだけでも面倒ですが、忙しくて練習するのが難しいときも、ケースを開けて30秒のルーティンを毎日弾くだけで違うと思います。そういうつきあい方をしてみたらいかがでしょうか。

練習中は寡黙で近寄り難い方かと思ったのですが、とても気さくにあれこれ教えてくださった藤森先生。お忙しい中、インタビューにお答えくださいまして、本当にありがとうございました。弦楽器のプロでいらっしゃるのに、歌謡曲やカラオケがお好きという意外な一面(音楽学関係者でも、カラオケ好きは聞いたことがありません)のほかに、録音用の古いデジカメをさりげなくチェックなさるなど、ラ・クァルティーナ演奏会のプログラムに書かれていた「メカ好き」の一面も、垣間見ることができました。

今回のインタビューで最も印象に残ったのは、藤森先生が聖フィル・メンバーのためのアドヴァイスを、時間をかけて考えてくださったこと。プロの音楽家はアマとは異なった次元にいるのですから、アマのためのアドヴァイスは答えに窮する質問だったのですね。しかし先生は通り一遍の答えではなく、私たちのためになることを一生懸命に探してくださいました。その誠実さは、先生が作るドボコンの音楽にも現れています。

演奏会まで残すところわずかですが、私たち聖フィルは、藤森先生の音楽を受けとめ、それに応える準備を整えておかなければと改めて思いました。

  1. このコラム執筆のためにお世話になった方々に、お礼申し上げます。たくさんの質問に答えてくださった藤森先生、原稿チェックや連絡のためにお世話になった sonorous Ryoichi Fujimori Official Website さん(http://www.vc-fujimori.jp/ 本文中のコンサート情報もこちらからご覧いただけます)、情報を提供してくださった chezUedさん、どうもありがとうございました。質問の順番は変えているのもあります。