27. 3月 2013 · (126) チャイコフスキーと《兎のダンス》 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番第1楽章の第1主題は、3連符の3つ目が休みの「たらっ、たらっ、たらっ、たらっ」というリズム(譜例1、 (120) チャイコフスキーのピアノ協奏曲はなぜ変ロ短調か参照)。先日、練習中に高橋先生が「《うさぎのダンス》にならないで」と注意していらしたのですが、後からふと、意図が伝わっているか心配になりました。高校を卒業したばかりのメンバーもいたからです。

譜例1: チャイコフスキー作曲ピアノ協奏曲第1番第1楽章第1主題

譜例1: チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1楽章 第1主題

「そそらそらそらうさぎのダンス」なんて童謡、今時の若者は知っているかしら? 正確なタイトルは、漢字で《兎のダンス》。最初の「そ」はアウフタクト((39) アウフタクトの3つの意味参照)なので、強拍に下線を付けると

 ら ら ら さ の ン  タッタッタッタッタッタッタ

一方、チャイコフスキーの第1主題は譜例1のように初めが拍頭なので

らっ らっ らっ らっ

でも、油断すると1つ目の「た」がアウフタクトになって

っ たっ たっ た

ほうら、あっと言う間に《兎のダンス》の出来上がり〜(歌詞まで同じ)! そうならないようにというご注意だったわけです。

日本の伝統的な音組織の1つである、ファとシを欠く四七抜き(よなぬき)音階をうまく使った《兎のダンス》。2/4拍子で、タッカタッカの付点リズムで作曲されています。でも動画を聴くと、2つ目の「そ」と次の「ら」(歌詞だけではなく音もソとラ)は、付点型の3:1ではなく、3連符の2:1の長さで歌われていますね。このゆるさ、とても日本的。地にどっしりと足をつけた農耕民族を祖先とする私たち、跳ね上がる鋭いリズムに今ひとつ馴染めなかったのでしょう((110) 3分割から始まった参照)。

作詞の野口雨情は、63年の生涯で童謡、地方民謡、校歌など2000余の詞を残しました1。作曲は中山晋平。65年の生涯で1770曲(童謡818、新民謡282、流行歌462など)を作曲しているそうです2。このコンビは他にも「こがねむしーは金持ちだー」の《黄金虫》、「しゃーぼんだーまーとんだ」の《シャボン玉》、「しょっ、しょっ、しょーじょーじー」の《證城寺の狸囃子》などの名童謡を作りました3。今から90年も前に作られたのに(《黄金虫》《シャボン玉》は大正12年=1923年、《兎のダンス》は同13年、《證城寺の狸囃子》は同14年の作)、どれも容易に口ずさむことができますね。現在の日本は J-Pop や洋楽に席巻されているように見えますが、童謡や唱歌は私たちの心の奥に活き続けています。

ところで、平成生まれの若者には、童謡よりむしろ動画の説明が必要かもしれません。回っているのは、CDが普及する前に音楽などの録音に使われた、レコード。我が家ではレコード・プレーヤーも現役ですが、さすがに78回転には絶句……。あれあれ、チャイコフスキーからずいぶん遠く離れてしまいました。

  1. 北茨城市歴史民俗資料館野口雨情記念館のHPによる。
  2. 信州・中野中山晋平記念館のHPによる。
  3. 《船頭小唄》《波浮の港》などもこのコンビの作。