18. 5月 2016 · (280) 主題が3つ!!? ブルックナーのソナタ形式 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , ,

ブルックナーの交響曲は、第1楽章:ソナタ形式、第2楽章:歌謡的な緩徐楽章、第3楽章:スケルツォとトリオ、そして第4楽章:ソナタ形式の4楽章構成。第8番で緩徐楽章とスケルツォの順番を入れ替えた以外、全部同じです。ブラームスのように、終楽章で突然パッサカリアを使ったりしません(でも、あのパッサカリアもソナタ形式の枠内で作られていましたね。(251) ただのパッサカリアではない!参照)。

ブルックナーのソナタ形式と言えば、3主題ソナタ形式。2連符と3連符を組み合わせた「ブルックナー・リズム」や、ベートーヴェンの《第九》から影響を受けた「ブルックナー・オープニング」と並んで有名です。ソナタ形式は通常、性格が異なる2つの主題で構成しますが、ブルックナーは主題を3つも使うのです(主題1つなら単一主題ソナタ形式。モーツァルトの例は(189) 第1主題=第2主題!?のソナタ形式参照)。

第4番《ロマンティッシェ》第1楽章(第2稿)の場合、第1主題は冒頭のホルン独奏(主調=変ホ長調、譜例参照)、第2主題はヴァイオリンによる「シジュウカラのツィツィペーという鳴き声」を伴うヴィオラの旋律(変ニ長調、練習番号B)、第3主題は弦楽器ユニゾンのアルペジオ上で、ホルンやテューバなどがブルックナー・リズムで下降する旋律(D5度上の変ロ長調、D)。

譜例:ブルックナー作曲 交響曲第4番 第1楽章の3主題

譜例:ブルックナー作曲 交響曲第4番 第1楽章の3主題

展開部(G)の後、Mから第1主題がフルートのしみじみとした対旋律とともに、主調で再現されます。第2主題はOの3小節目から、なんとシャープが5つ必要なロ長調で登場。フラット3つの主調から、ものすごく遠い調です。第3主題は、Qからお約束通り主調で再現。Sからコーダ。長いクレッシェンドの頂点でホルンが第1主題の5度動機を高らかに吹き、第1楽章終了。

3つの主題のうち、第1主題は主調で提示&再現、第3主題は主調の5度上の属調で提示され、主調で再現されています。ということは、通常のソナタ形式の2主題と同じ関係。ここでは第3主題が、従来の第2主題にあたるようですね(表参照。(88) さらに刺激的(!?)により再掲)。

表:ベートーヴェン以降のソナタ形式

表:ベートーヴェン以降のソナタ形式

それでは、遠隔調の変ニ長調で提示され、さらに遠いロ長調で再現される第2主題は何に当たるのでしょうか? ソナタ形式の第1主題から第2主題へ移る部分は「推移」と呼ばれます。例えば長調の曲の提示部では、主調で第1主題を提示した後、第2主題を出す前に属調まで転調し、新しい調で落ち着かなければなりません。ソナチネのような小曲であれば、推移の部分はほんの数小節。でも、規模が大きいと推移も長くなり、その部分の旋律が第1主題に対抗しうる独自の性格を持つ「主題」に昇格(!?!)したわけです。

ブルックナーのソナタ形式は、提示部の主題部間に推移の部分がほとんど無いと言われますが、こんな事情があったのですね。使い古されたソナタ形式の枠組みを守りながら、新しい要素を組み込んだブルックナー。《ロマンティッシェ》終楽章では、第1主題を主調の変ホ短調(P)、第2主題をかなり遠いニ長調(S)で再現。第3主題の再現は省略して、コーダ(V)に進んでいます。

都合により、来週のコラムはお休みします。

06. 4月 2016 · (275) 《古典交響曲》の古典的でないところ はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , , ,

前回ご紹介したように、《古典交響曲》はプロコフィエフがハイドン風に作った交響曲です。しかし、ハイドン的ではない点もあります。

まず思い当たるのは、第3楽章がメヌエットではないこと。ベートーヴェンがスケルツォに変えるまで((81) 交響曲の中の冗談参照)、4楽章構成の交響曲の第3楽章は、3拍子のメヌエットでした。もともと急ー緩ー急の3楽章構成だった交響曲をより楽しめるように、当時流行していた踊りの音楽を加えたのでしたね((87) 流行音楽メヌエット参照)。

ところが、《古典交響曲》の第3楽章はガヴォット。古典派より前のバロック時代に組曲などに使われた、フランス起源の舞曲です。トリオが挟まる AーBーA’ の形をしてはいますが、4/4拍子でしかも pesante(重く)。むしろ、ゆっくりながら3拍子の第2楽章が、古典的で優雅なメヌエットに近い音楽です。

第2に、楽器の高音域が使われていること。たとえば、《古典交響曲》ではファースト・ヴァイオリンの最高音はレ。五線の上に加線2本のレの、そのまた1オクターヴ上です。加線6本!

ベートーヴェンは交響曲で、ヴァイオリンのラより高い音を使いませんでした((99) 高音域を使わない理由参照)。ハイドンの時代はさらに、使用する音域が狭かったようです。彼が最後に作った104番の交響曲((158) ハイドンの交響曲は106曲!参照)を調べてみたら、第1楽章の展開部の終わりでソを繰り返し使っているものの、他はほとんど加線2本のレ以下。第3ポジションで弾ける範囲です。フルートも、同じくソまででした(《古典交響曲》では、その上のドが当たり前に使われています)。

でも、何よりハイドンっぽくないところは、転調のし方でしょう。ハイドンの時代は、属調(5度上)、下属調(5度下)、平行調(同じ調号を持つ長調と短調)、同主調(同じ音から始まる長調と短調)などの近親調へ、さりげなく転調しました。ところがプロコフィエフは、平気で(?!?)遠隔調へ移ります。

特に目立つ(?)のが、ニ長調からハ長調への転調。主調であるニ長調ではファとドにシャープがつきますから、ハ長調の主音ドはニ長調に含まれません。ところが、この遠い調への転調をプロコフィエフは第1楽章冒頭でいきなり断行。2小節間の上行アルペジオの序奏に続いて、8小節から成る第1主題を主調のニ長調で提示した後、そのままハ長調で繰り返すのです(主題の「確保」と言います)。

ニ長調からハ長調に転調すると、落ち込む感じがします。主音がレからドに1音下がることだけが理由ではありません、シャープ2つの調から調号無しの調への転調は、(シャープが減ることになるので)フラット方向への移動。これが「ずり落ち」感を強めています。第1楽章第1主題がハ長調で再現される際も同様。

落ち込む感じがずっと続くのが、終楽章の第2主題部(43小節〜)。アルベルティ・バス音型による伴奏の和音は、2小節、ときには1小節ごとに自由に目まぐるしく変化。最低音が「レード♯ーシーラーソ♯ーファ♯ーミーレ♯ーレード♯ード」と順次進行で下るにつれて、和音もどんどん下降していきます。「ハイドンがもし今日生きていたら作曲する」ような交響曲という、プロコフィエフの意図が分かりやすく現れた、この曲の聴きどころです。

27. 2月 2013 · (122) 「音楽の悪魔」in《白鳥の湖》 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , ,

《白鳥の湖》の悪魔って、フォン・ロートバルトでしょ。ヒロインのオデットは彼の魔法で白鳥の姿にされ、真実の愛を得ないと人間に戻れないのよね1。でも、王子はオデットではなくオディールに愛を誓ってしまう。悲劇よねぇ……。いえいえ、登場人物ではなく「音楽の悪魔」。3全音がこのように呼ばれます。

3全音とはその名のとおり、全音3つから成る音程(全音は半音2つ分)。ファからシ、ドからファ#などの増4度音程のことです。この2音は続けて歌いにくいし、同時に鳴らすと不協和。3全音はソルミゼーションを考案したグイード・ダレッツォ((76) ドレミの元参照)に禁止され、多声音楽において「音楽における悪魔 diabolus in musica(ラ)」と呼ばれ、忌み嫌われました。

チャイコフスキーはこの3全音を、組曲《白鳥の湖》第1曲《情景》の中で効果的に用いています。オーボエが始める白鳥の主題は、バレエ全体の中で最も有名ですね。この曲の途中でメロティーが3連符になるところの低音に注目。1小節ごとにドとファ#が交代します。初めは間にミの音を挟んでいます(譜例A)が、すぐにドとファ#が直接交代するように(譜例B)。後者もメロディーには、ファ#の倚音ソが挟まれているものの、響いている和音はそれぞれドミソとファ#ラ#ド#2。もの悲しい静かな雰囲気の冒頭とは一変。3全音の関係にある2和音の併置・交代が、落ち着かない3連符のリズム((110) 3分割から始まった参照)とともに緊張感を高めています。

譜例1:チャイコフスキー作曲《白鳥の湖》より《情景》、譜例A:35〜37小節、譜例B:38〜39小節。かっこで結んだ2音が音楽の悪魔

チャイコフスキー:組曲《白鳥の湖》より《情景》、譜例A:35〜37小節、譜例B:38〜39小節

チャイコフスキーがここで、中世から禁則とされた「音楽の悪魔」を用いた理由は? 彼は《白鳥の湖》の中で、歌詞が無いバレエ(当たり前ですが)のストーリーを聴衆に伝えるために、様々な音楽の象徴法を用いました。調の選択もその1つです3

バレエ全体の中心となる調は、第1幕の前に奏されるイントロダクション(組曲には含まれません)で使われる、シャープ2つのロ短調。先ほどの《情景》も同じロ短調で、これが白鳥を象徴する調になります。第2幕のオデットと王子による愛の踊り(独奏ヴァイオリンのあま〜いメロディー付き)は、ロ短調と関係が深い変ト長調(ロ短調のドミナント=属音→嬰ヘ音=変ト音。(79) ドレミは階級社会?参照)。

一方、悪魔の調はフラット4つのヘ短調です。第3幕の、娘オディールと共にロートバルトが城の舞踏会に登場する場面。チャイコフスキーは先ほどの白鳥の主題を使って、黒鳥オディールが白鳥オデットとよく似ていることを表現します。ただし、テンポを上げ、fff で木管に主旋律、トランペットに合いの手を演奏させて、オデットとの性格の違いを暗示。ここまではすぐに気づくと思いますが、さらに調でも一工夫。ロ短調ではなくへ短調を使い、音楽だけで(そっくりだけれども別人というだけではなく)実は悪魔なのだと告げています(下の画像 0:18くらいから。シンバルのずれは気にせずに)。

悪魔の調の主音ヘ音と白鳥の調の主音ロ音は、3全音の関係。チャイコフスキーは、互いに相容れない忌み嫌われる関係の調を設定して、正義と悪の構図を鮮明にしました。《情景》(譜例AB)で対置されるドミソとファ#ラ#ド#は、悪魔の調と白鳥の調のドミナント和音4。第2幕のオープニングとエンディングで演奏されるこの曲で、「音楽の悪魔」は白鳥・王子(正義)と悪魔(悪)の対決を予示しているのです。

  1. プティパとモデスト・チャイコフスキーが改訂した台本による。オリジナルではオデットは妖精の娘で、祖父の計らいによって白鳥になりました。小倉重夫「チャイコフスキー《白鳥の湖》」『名曲解説全集5』音楽之友社、1980、178ページ。
  2. ここでは他に、ファ#ラ#ド#をファ#ラ#ド#ミの7の和音に替えて、ドミソとの共通音を作り出しています。
  3. Wiley, Roland John, “Tchaikovsky” New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 25. Macmillan, 2001, pp. 152-53. 森垣桂一『音楽之友社ミニチュア・スコア』の解説、ixページ。 
  4. 和声学的に言うと、このドミソはロ短調の II の和音の根音を半音下げた「ナポリの和音」です。
19. 4月 2012 · (77) 近い調、遠い調 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , ,

「アマ・オケ奏者のための音楽史」はまだ中世をうろうろしているというのに(すみません、もうすぐ再開します)、新シリーズ「アマ・オケ奏者のための楽典」開始! 第1回目は調について。《レ・プレ》を弾きながら、調号(=調の記号。五線譜の左端のシャープやフラット)を見るだけで、新しい性格の曲と見当がつくなと考えていました。16分ほどの曲の中で調号が、無し→♯4→無し→♯4→無し→♯3→無しと変わります。変わる回数が多いだけが理由ではありません。

調は全部で24あります。長調が12、短調が12。ピアノの鍵盤を思い浮べてください。1オクターヴの中にある12の音(ドレミファソラシだけでなく、黒鍵もお忘れなく!)それぞれを主音として、長調と短調が始まります。たとえば、ハニホヘトイロのハであるドの音からはハ長調とハ短調、レの音からはニ長調とニ短調という具合1

この中には、互いに近い調と遠い調があります。2つの調の音階に共通した音が多ければ近く、少なければ遠いと考えます。近い調を近親調、遠い調を遠隔調と呼びます。近親調は:

  • 属調:ある調の主音から5度上の音(=属音)を主音とする調。たとえば、ハ長調に対してハニホヘトと5つ上がったト長調、ハ短調に対してト短調(その音から数えるんですよね。(62) 新年と音程参照)
  • 下属調:ある調の主音から5度下の音(=下属音)を主調とする調。たとえば、ハ長調に対してハロイトへと5つ下がったヘ長調、ハ短調に対してヘ短調
  • 同主調:同じ主音から始まる長調と短調。たとえばハ長調とハ短調、ニ短調とニ長調
  • 平行調:同じ調号をもつ長調と短調。短調は長調の3度下から始まります。たとえば、ハ長調とイ短調(調号無し)、ニ長調とロ短調(♯1つ)

    24の調

    譜例1:24の調(久保田慶一編『音楽通論』、アルテス、2009、97ページ)

属調は、元の調に較べて調号の♯が1つ増え(♭の場合は1つ減り)ます。調号無しのハ長調の属調ト長調の調号は、♯1つですね。逆に下属調は、調号の♭が1つ増え(♯の場合は1つ減り)ます。調号無しのハ長調の下属調ヘ長調の調号は、♭1つです(譜例1参照。クリックで拡大します。各調の属調は右隣、下属調は左隣)。

属調や下属調に転調しても、元の調と違うのは増えた(減った)調号の音1つだけ。他の6つの音はそのままです。だから近い調なのです。逆に、《レ・プレ》の転調のような、調号無しのハ長調と♯3つのイ長調や♯4つのホ長調は、共通する音が少ない遠い関係。遠隔調です。

(72) 第2主題はようこその気持ちでのソナタ形式の表を思い出してください。第2主題は、主調が長調のときは5度上の調(=属調)へ、主調が短調のときに3度上の長調(=平行調)で提示されます。属調も平行調も近親調。無理無く自然に転調できますし、調号を変えなくても、変化した音に臨時記号を付ければ済みます。

最も近い属調や平行調へ転調させるのが自然すぎてつまらなくなると、《レ・プレ》のように、主調がハ長調なのに第2主題を遠いホ長調で提示したりするようになります((75) 《レ・プレ》とソナタ形式参照)。その代表的な作曲家は……というお話は、また改めて。

  1. ファとソの間の黒鍵を主音とする長調は、嬰へ長調と変ト長調の2つありますが、このような異名同音調は1つと考えます。