30. 3月 2016 · (274) 《古典交響曲》の古典的なところ はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

10日後に迫った聖フィル第14回定期演奏会のオープニングは、プロコフィエフの交響曲第1番ニ長調作品25(これがまた難しくて……という個人的な愚痴は脇に置いておいて)。1891年に生まれたプロコフィエフが、今から99年前の1917年に完成させた音楽。今までに聖フィルが取り上げた中で、最も新しい曲です(今回の2曲目《エスタンシア》は、さらに新しいのですが。(272) (273) 参照)。

別名《古典交響曲》。プロコフィエフは、「ハイドンがもし今日生きていたら、彼が前にやったように、しかし同時に彼の作曲法において何か新しいものを含むように、作曲すると思った。私はそんな古典派様式の交響曲を作りたかったのだ」と語っています1。マーラーが第10番交響曲を未完のまま亡くなったのが1911年。ストラヴィンスキーがロシア・バレエ団のために《春の祭典》を完成したのが1913年。それより後に作られたにもかかわらず、この曲には確かに、ハイドン的(?!)な点がたくさんあります。

  1. オーケストレーション:フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦。トロンボーンとテューバはもちろん、ピッコロやコントラファゴットなども無し。ホルンとトランペットも2つずつ。ハイドンが第2期ザロモン交響曲で完成させた2管編成です ((146) フルートは持ち替えだった:2菅編成完成まで参照)。
  2. 構成:4楽章構成、第2楽章は緩徐楽章。
  3. 調性:主調はシャープ2つの二長調。古典派オーケストラの核である弦楽器が良く響くので、この時代に多用された調です。モーツァルトが彼のおよそ50曲の交響曲((14) モーツァルトが作った交響曲はいくつ?参照)で最も多く使ったのも、ニ長調。第1、第3、第4楽章が主調、第2楽章が属調のイ長調なのも、ハイドン時代の典型。
  4. 長さ:全楽章で10〜15分足らず。交響曲が開幕ベル代わりだった時代、コンサートの枠組みだった時代の長さです((16) 交響曲は開幕ベル参照)。
  5. 和音:3和音(ドミソのような、3度を2つ重ねた3つの音から成る和音)が基本。アルベルティ・バスが使用されています。アルベルティ・バスは古典派時代に鍵盤楽器(例えばフォルテピアノ)などで使われた伴奏法で、ドソミソのような分散和音のパターン。プロコフィエフは第4楽章で、第2主題の伴奏に使用(これがまた超難しくて……という個人的な愚痴も脇に置いておきます)。
  6. 形式:第1、第4楽章はソナタ形式。提示部、展開部、再現部の3部分から成ることや、展開部が提示部や再現部よりもずっと短いことはハイドン的。ソナタ形式の基本形をコラムできちんと説明していませんでしたが、ベートーヴェンが《エロイカ》第1楽章で展開部とコーダを拡大するまで、前者は提示部と再現部のつなぎ、後者は曲を締めくくる、文字通りしっぽに過ぎませんでした。

ハイドンやモーツァルトの交響曲のような、古典派的な要素がたくさん。この時代の、キュートで肩の凝らない交響曲ですが、そこはやはりプロコフィエフ。古典的ではない要素もあります(続く)。

  1. 英文は Redepenning, Dorothea, ‘Prokofiev, Sergey,’ New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 20. Macmillan, 2001, p. 408.
14. 8月 2013 · (146) フルートは持ち替えだった:2管編成完成まで はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , ,

オーケストラで楽器の持ち替えと言えば、フルート奏者がピッコロ、オーボエ奏者がイングリッシュ・ホルン(コーラングレ)、クラリネット奏者が E♭クラやバス・クラ、ファゴット奏者がコントラファゴットという具合に、サイズ(→音域)が異る同族楽器の掛け持ちを思い浮かべると思います(ホルン奏者がワーグナーチューバを持ち替えるのは、少し事情が異なりますが)。フルートが持ち替えって、どういうこと??

盛期古典派とそれに続く時期の、標準的なオーケストラ編成の復習から始めましょう。管楽器(特に4種類の木管楽器、フルート・オーボエ・クラリネット・ファゴット)が2つずつなので、日本では専ら2管編成と呼ばれます。典型は:

フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、
ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦

ハイドンがこの編成を使ったのは、最後の第2期ザロモン交響曲群(1794〜95年作曲)だけ。さらに早い1788年に交響曲を書き終えたモーツァルトは、特殊な状況下で作った《パリ》と《ハフナー》交響曲だけしか、2管編成を使うことができませんでした((115) 愛の楽器? クラリネット(2)など参照)。

一方、第1番交響曲(1800年完成)からこの編成を使ったベートーヴェン(やスポンティーニ、メユール、ロッシーニら同時代の作曲家たち)は、変形を始めます。チェロと同じ旋律を演奏していたコントラバスに独自のパートを与え、弦楽4部から弦楽5部へ。また、ホルンを増やしたり(3つ:《エロイカ》、4つ:《第九》)、トロンボーンを加えたり(《運命》《田園》《第九》)しています。

それでは、この編成にたどり着く前はどのような編成だったのでしょうか。初期古典派(1740年代から80年ころ)の標準的なオーケストラ編成は:

オーボエ2、ホルン2、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ファゴット、
鍵盤楽器(チェンバロかオルガン)、オプションでトランペット&ティンパニ

ヴァイオリン1とオーボエ1、ヴァイオリン2とオーボエ2は、多くの場合、同じ旋律を演奏。チェロ、コントラバス、ファゴット、鍵盤楽器の左手は、同じ低音旋律を演奏(チェロとファゴットは、独自の旋律をもらう場合も)。鍵盤楽器の右手は、和音充填を担当((132) 楽譜どおりに演奏しても足りない場合参照)。

この編成は、ヨーロッパ中のイタリア・オペラ劇場、私的・公開コンサート、重要な礼拝、舞踏会などのオーケストラで使われました。特別な機会では弦の数を増やし、管を倍に。また、特殊効果のために例外的に加えられる楽器も(黄泉の国のシーンでトロンボーン、羊飼いのシーンでシャリュモーなど)。逆に低予算の場合、弦楽器は各パート2人、あるいは1人に減らされたそうです1。やがて

ファゴットが独自のパートをもらって独立、管はオーボエ2、ファゴット2、ホルン2に。
フルートが加わり、フルート1、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2に。
フルート2になり、フルート2、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2に。
クラリネット2も加わって、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2に。トランペットやティンパニも必須の楽器になり、盛期古典派の編成が完成!2

初めの疑問に戻って。フルートはいったい何と持ち替えだったのでしょう? 答えはオーボエ。古典派の初期においてフルートは、しばしばオーボエ奏者によって演奏されたのです。この2つの楽器は交換可能で、同時に用いられないのが普通でした。モーツァルトのフルート協奏曲第1番第2楽章で、第1・3楽章のオーボエに代わって使われるフルート。現在ではフルート奏者が演奏しますが、当時はオーボエ奏者がここだけフルートを吹いたのです。交響曲にもこのような例があります(ハイドンの24番など)。

そういえば、エステルハージ公のオーケストラ奏者は、弦楽器と管楽器(と打楽器)など複数の楽器を担当していましたね((105) ハイドンの給料 (1) 表1の13や19参照)。今ではほとんど考えられないオーボエとフルートの持ち替えですが、当時は朝飯前だったのかな?!!

  1. J. Spitzer & N. Zaslaw, ‘Orchestra,’The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 18, Macmillan, 2001, p. 533.
  2. 鍵盤楽器が用いられた時期に関しては、様々な説があります。