24. 9月 2014 · (204) ロマン派の協奏曲:ブラームスの場合 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

1833年生まれのブラームス。バリバリの(?!)ロマン派です。だから彼のヴァイオリン協奏曲も、以前聖フィルで演奏したチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番のように、「お待たせしない」タイプのはず……((127) ロマン派の協奏曲:なぜすぐソロが加わるか参照)。なのにこの曲、オーケストラだけで始まります。ソロが加わるのは、はるか先の90小節目。

協奏曲は本来、協奏ソナタ形式で作曲されました((73) 協奏曲のソナタ形式参照)。オーケストラだけが第1主題と第2主題を提示した後、独奏楽器が加わって2つの主題をもう一度提示する、二重提示が特徴です。でも、ロマン派になると構成のバランスよりも実利(!!)重視に。同じようなことを2度繰り返さなくても、初めから真打ちが登場して思う存分活躍する方が、楽しいですものね。チャイコフスキーのピアノ協奏曲のように、第1提示部を省略した(通常の)ソナタ形式で作るのが、ロマン派の協奏曲の主流。数年とはいえブラームスのヴァイオリン協奏曲の方が後に作られたのに、二重提示するなんて……。

でも。オーケストラだけの第1提示部に、第2主題は登場しません。分散和音を丁寧に上り下りする、幅広い感じの第1主題に対して、第2主題は順次進行に大きな跳躍をレガートでつないだ、より動きのある旋律。独奏ヴァイオリンによって、お約束どおり属調のイ長調で提示されます(206小節)。これを導くのが探るようにジグザグに上がって行く8分音符群ですが、第1提示部ではこのジグザグ音型だけで第2主題はおあずけ。二回提示されるのは第1主題だけですから、二重提示ではなく 1.5 重提示。「お待たせするけれど少しでも時間を短く」ということですね。

第1提示部では、ジグザグ音型がニ短調で繰り返されます(譜例1A)。その後、弦楽器が決然と弾き始める旋律(譜例1B)は、スタッカートの多用やアクセントによる2拍目の強調など緊張感に満ちていて、今までとは異質。第2主題と錯覚させられそうなこの印象的なパッセージが、同じニ短調によるソロ・ヴァイオリンの「アインガンク」(独語で「入口」の意)を引き出すことに。提示部の最後の方と、カデンツァの前にも使われて、音楽を引き締めています。

譜例1:ブラームス作曲ヴァイオリン協奏曲第1楽章。A:61〜68小節。B:78〜82小節。

譜例1:ブラームス作曲ヴァイオリン協奏曲第1楽章。A:61〜68小節。B:78〜82小節。

21. 3月 2012 · (73) 協奏曲のソナタ形式 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , ,

ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の最初って、とてもユニークですよね。ティンパニの、主音レのトントントントンに続いて、オーボエ、クラリネット、ファゴットが、静かに優しく第1主題を奏でます。このピアノ&ドルチェ(&木管)は、普通は「ようこそ」の第2主題のために、取っておかれる組み合わせ((72)参照)1。ベートーヴェンさん、定型から微妙にはずして始めましたが、続きはどうでしょうか。今回はソナタ形式の考え方シリーズ ③ として、この第1楽章を例に、協奏曲のソナタ形式について説明します。

古典派の協奏曲も交響曲も、ソナタ形式の本質は変わりません。提示部・展開部・再現部の3部分構成。2つの主題が提示され、再現されます。転調する先も同じ。この協奏曲はニ長調(レから始まる明るい感じの調。ファとドに♯)ですから、5度上のイ長調(ラから始まる明るい感じの調。ファとドとソに♯)に転調し、またニ長調に戻って終わるはずです。

ただ、提示部に違いがあります。古典派の協奏曲は通常、まずオーケストラだけが始めて大切な素材をひと通り提示し、その後ソロが加わって、もう一度最初からやり直しします。協奏曲に使われるソナタ形式(協奏ソナタ形式、あるいは協奏風ソナタ形式と呼ばれます)は、この二重提示が特徴。初めから2つありますから、交響曲のように提示部を繰り返す必要はありません。

第1主題と第2主題は、両方の提示部で提示されます。ポイントは第2主題。オーケストラだけで演奏する第1提示部ではそのまま主調で提示され、ソリストが加わった後の第2提示部で初めて、転調した調で提示されます(表1参照)。第2提示部は主調で始めるのがお約束。その前に転調してしまうと、主調に戻すために第1提示部が長くなってしまうのです。協奏曲の第1提示部はいわば前座ですから、コンパクトな方がベター(この部分を序奏とみなす解説もあります)。

表1:主調が長調のときの協奏ソナタ形式(ソナタ形式との比較)

ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の第1楽章を、この協奏ソナタ形式の図式と比べてみましょう。第1提示部の第1主題と第2主題は、両方とも主調のニ長調。(72)の譜例1は、この第1提示部をスキャンしたものでした。独奏ヴァイオリンが加わり、ニ長調の第1主題を、1オクターヴ高い音域で装飾を加えながら演奏します。クラリネットとファゴットが 第2主題を演奏するときは、さきほどのファ♯ソラではなく、ド♯レミと始まります(スコアでは、クラリネットはA管、ファゴットはテノール記号なのでちょっと混乱しますが、約束どおりイ長調に転調しています)。

展開部の後、第1主題の「ただいま」はニ長調に戻り、独奏ヴァイオリンも含めた全奏(トゥッティ)のフォルティッシモで再現されます。本来の第1主題の提示の仕方です。第2主題は、再びクラリネットとファゴットが、第1提示部と同じファ♯ソラのニ長調で再現。カデンツァ(ソリストが、伴奏無しで本来は即興で演奏する部分)の後、第2主題も使いながら楽章が締めくくられます。主題間のコントラストは弱く、驚かされる和音や調があちこちで使われているものの、ベートーヴェンは(珍しく)2つの主題を、全て規則どおりの調で提示&再現しています2

もちろん、提示部や再現部は、2つの主題だけで構成されるわけではありません。多くの協奏曲では第2提示部に、ソリストの技巧や音楽性を見せるための新しい旋律が加わります。弾いていても聴いていても、いろいろな要素が気になるのは当然。でも、慣れるまでは最も大切な2つの主題に集中し、出るべき調で出ているかを意識することをお薦めします。

また、反復記号が使われない協奏曲では、展開部の開始部分を見つけるのは難しいですよね。いつの間にか雰囲気が変わっていたと感じられれば、十分です。ちなみにこの曲の展開部は、イ長調から、フェイントでいきなり遠いヘ長調に転じる224小節(練習番号E)から。提示部で使われた素材が、めまぐるしい転調とともに展開されます。

  1. ベートーヴェンはピアノ協奏曲第1番の第1楽章も、静かに始めています。
  2. ベートーヴェンはピアノ協奏曲の第1楽章では、1番から5番までの全てにおいて、本来の調からどこかはずしてあります。19世紀にはこのように、ソナタ形式の基本形が様々に変形されます。