20. 6月 2012 · (86) 見た! さわった!! ヴィオラ・ダモーレ はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

ヴィオラ・ダモーレをご存知ですか。「viola d’amore」はイタリア語で「愛(アモーレ)のヴィオラ」という意味。17世紀末から18世紀に使われた擦弦楽器です(図1)。胴の長さはヴィオラとほぼ同じ(でも、サイズが同じだから「ヴィオラ」・ダモーレと呼ぶのではなく、擦弦楽器の総称としての「ヴィオラ」でしょう。(37) ヴィオラはえらい?参照)。なで肩で、図では見えませんが裏板は平らです。いずれも、ヴィオラ・ダ・ガンバ属の特徴ですね。でも、フレットは無く、楽器の構え方や弓の持ち方は、ヴァイオリン属と同じです((31) 仲間はずれはだれ?参照)。

図1:ヴィオラ・ダモーレ(クリックで拡大します)

長いネックにペグ(糸巻き)が14個。駒の上を見ると弦は7本だけ。残りの7個のペグは、共鳴弦を留めています。この共鳴弦、細くて光るせいか音楽辞典などの写真ではよく見えません。どこにどのように張られているのか、以前から不思議に思っていたのですが、先日、実物にさわって確認することができました1。エンドピンのそばに別々に留められた7本の共鳴弦(図2①)は、テールピースの下から駒の穴(図2②矢印)、指板の下を通り、ネックの後ろ側の隙間(図2③矢印)から外に出て、胴から遠いペグへ。真横から見ると、2階建て構造がよくわかりますね(図2④)。1階の共鳴弦は金属、2階の演奏弦はガットです。

図2:ヴィオラ・ダモーレの共鳴弦

7本のガット弦は、時代により作品により、様々に調弦されました。ニ長調の調弦がスタンダードになったのは、18世紀末。共鳴弦は、上の弦に合わせて調弦されます。ヴァイオリン属のような華やかで力強い音は出ませんが、倍音が豊富で、少し鼻にかかった「甘い」音色が愛好されました。アントニオ・ストラディヴァーリも、ヴィオラ・ダモーレの図面を残しているそうです2。指板が広いのは、弦が7本あるから。和音やアルペジオを弾きやすいのも特徴ですが、むしろ、注意しないと隣の弦にもさわってしまって、期せずして和音が鳴るという感じでした。ハイ・ポジションを使わないので、指板は短めです。

この楽器には、渦巻きの代わりに顔(頭?)がついていますね(図1右端)。後ろには羽もあります(図2③)。そう、愛の弓を射るキューピッドです。目隠したキューピッドがついた楽器もありますが、これはルネサンス以来の伝統的な図像で、「恋は盲目」を表します3

炎のような形の長い響孔にも注目してください。ヴァイオリン属の   字孔ともガンバ属の C 字孔とも異ります。この「燃える刀」型の響孔(イスラムのシンボル)や共鳴弦などから、中東地域の影響が指摘されています(インドには、シタールやサーランギのような、共鳴弦をもつ伝統楽器がたくさんありますから)。さらに、円花形の孔もあるのが普通です(図1の、ぎざぎざにカットされた指板の下に、少し見えています)。

ヴィオラ・ダモーレがオブリガート楽器として使われている、バッハの《ヨハネ受難曲》BWV245 第20番のテノール・アリア『熟虜せよ』の動画をあげます(通奏低音はリュートとチェロ)。19世紀以降、ごく稀にしか使われなくなってしまった「愛のヴィオラ」の、くすんだ「甘い」音色をお楽しみください4

  1. ヴィオラ・ダモーレの写真をコラムに使うことを許してくださった桐山健志さんと、撮影の機会をくださったva-minさんにお礼申し上げます。
  2. M. Rosenblum, “Viola d’amore,” New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 26, Macmillan, 2001, p. 698. 残念ながら、図面に一致する楽器は見つかっていません。
  3. 音楽とは関係ありませんが、パノフスキーの『イコノロジー研究 上』(ちくま学芸文庫、2002)の中に、「盲目のクピド」が分析されています。
  4. 歌詞の日本語訳は「心して思いはかれ、血に染みたる彼の背のいかにすべてにわたりて、天なる御国を映し出だしたるかを! かしこに逆巻き荒れたるわれらが罪の洪水の大波引きしのち、こよなく美わしき(ママ)虹(創世記7,6〜9,17)、神の恵みのしるしとして現れ出でたり」(杉山好訳。クイケン指揮ラ・プティット・バンドによるCDの解説より)。