04. 11月 2015 · (258) サルタレッロってどんな音楽? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

田部井剛先生にこう聞かれて、とっさに「タランテラみたいな音楽」と答えた私。メンデルスゾーンは交響曲イ長調いわゆる「イタリア」の終楽章に「サルタレロ」と書きましたが、タランテラみたいだと思いません? 「展開部に登場する新主題(122小節〜)は3連符で順次進行し、(中略)[サルタレロより]むしろ南イタリアに特有の民俗舞踏、タランテラに近い」と書かれた解説もあるし1。今回はサルタレロを調べてみました。saltarello と -ll- なので、以下サルタレッロと表記(tarantella も正確にはタランテッラ)。

語義は「小さな跳躍」。15世紀ころから流行した、イタリア起源の陽気で急速な舞曲。時代により多少性格を異にする(「サルタレッロ」『音楽大事典2』平凡社、1982、982ページ)

サルタレッロという名前は、14世紀末か15世紀初めにトスカーナ地方で書かれた手写本に初登場 2。収められた単旋律音楽119曲中、サルタレッロと記された曲は4つ。複数のフレーズ(prima pars 第1部、secunda par 第2部のように)から成り、それぞれが反復されます。1つめのエンディングは aperto(開いた)、2つめのエンディングは chiuso(閉じた)と記されます。現在の1かっこ、2かっこですね。

4曲中2曲目が特にポピュラーらしく、ロックやジャズを含むさまざまなアレンジを見つけました(下の動画は、セルビアの古楽グループ Flauto dolce による演奏)。ただ、この曲は4/4拍子。本物のサルタレッロではなく、イタリア15世紀のクァデルナリア、あるいはサルタレッロ・テデスコ(イタリア語で「ドイツのサルタレッロ」の意味)と呼ばれた舞踏の例と考えられています3

譜例1は、手写本中のこのサルタレッロ部分4。五線の真ん中の線に「C」なので、ヴィオラ用ハ音記号と同じアルト記号((139) 実はいろいろ! ハ音記号参照)。調号はフラット1つ。1番上の五線の下に、Saltarello . prima . pars、右端に aperto と書かれていますね。楽譜に2つずつ書かれた◎や✥、指差す手の絵(キュート!!)は、それぞれの2つ目の印まで来たら、1つ目の印に戻るという省略記号。

譜例1:Saltarello 2, GB-Lbl Add MS 29987, fol. 62.

譜例1:Saltarello 2, GB-Lbl Add MS 29987, fol. 62v.

16世紀には、ゆったりとした2拍子系の舞踏パッサメッゾと3拍子系で速いサルタレッロが、対にして踊られました。また、17世紀には宮廷舞踏にも取り入れられて流行します。ブロッサールは音楽事典(1703)でサルタレッロについて「常に跳躍しているような動き。ほとんどいつも、各小節初めに付点音符を伴う3拍子で作られる」と記述しました5

18世紀末ころには、初めローマ、その後ロマーニャ地方などで、1人または2人で踊る3/4あるいは6/8拍子の民俗舞踏サルタレッロが人気に。激しい腕の動きを伴う、だんだん速さを増す跳躍ステップが特徴で、伴奏はギターやタンブリン、歌など。メンデルスゾーンのイ長調交響曲 終楽章の2つのサルタレッロは、おそらく19世紀の民俗舞踏曲に基づくと考えられています。下の動画のような感じではないでしょうか。

  1. 星野宏美『メンデルスゾーン:交響曲第4番イ長調作品90、ミニチュア・スコア解説』音楽之友社、2002、ixページ。
  2. 現在は英国図書館所蔵。GB-Lbl Add MS 29987。
  3. Little, Meredith Ellis, ‘Saltarello,’ The Grove Dictionary of Music, 2nd ed., 22, Macmillan, 2001, p. 176.
  4. 動画では secunda pars の後半が楽譜と異なっています。
  5. Little, op.cit,, p. 178.
29. 12月 2011 · (61) 楽譜どおりに演奏してはいけない場合:バロック音楽の付点リズム はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , ,

私たちにとって楽譜とは、書き付けられた作曲家の意図を、そのとおりに再現すべきもの。でも、例外もあります。今回は、楽譜どおりの演奏が正しくない場合についてです。

譜例1は、(59) でご紹介したコレッリのクリスマス・コンチェルトの原典版スコア1。フラットが1つ足りない調号や2つ並んだ拍子記号など、現代の書き方と違っていておもしろいですね。これを見ながら、 (59) でもご紹介した動画を聴いてみてください。楽譜と違うところがあります。

譜例1 コレッリ:コンチェルト・グロッソ op. 6-8、原典版、冒頭ソロ声部

譜例1 コレッリ:コンチェルト・グロッソ op. 6-8、原典版、冒頭ソロ声部

まず、ピッチが違いますね。バロック時代は、現在に比べて低いピッチで楽器を演奏していました(バロック・ピッチについては、改めて書くつもりです)。他には? 3小節目に注意して聴いてみてください。最後の八分音符が、八分音符の長さよりも短く演奏されています。これは、わざとそう弾いているのです。

バロック時代の音楽には、楽譜どおりに演奏すべきではない場合があります。その代表例が、クラヴサン(=フランス語でチェンバロ)音楽で用いられる、イネガル(=不均等)奏法。同じ長さの音符、たとえば八分音符が6つ記されていても、譜例2の下声のように長短または短長を付けて不均等に演奏します。

譜例2 付点とイネガル奏法

譜例2 付点とイネガル奏法

その影響で、「付点の音型では、長い音符をより長く、短い音符をより短く弾く」という習慣がありました。譜例2では、上声と下声が同時に最後の音を出すべきだからです2。付点の代わりにタイや休符が使われていても構いません。譜例1の3小節目は、八分休符で音を切らずにそのまま前の音を延ばしていると、譜例2の上声と同じ形になります。複付点の記譜法が知られていなかったこの時代。付点を複付点のように演奏するのは常識でしたから、説明を加える必要もありませんでした。

楽譜どおりに弾く時代になると、このような伝統は途絶えてしまいました。しかし、17、18世紀に記された音楽理論書や教育書の研究によって、当時の演奏実態が解明できます。最近では、この動画のようなオリジナル楽器を使う団体に限らず、現代楽器のオーケストラやアンサンブルでも、作曲家が生きた時代の演奏習慣を研究し、それを取り入れて演奏する団体が増えて来ました。音楽学者として、嬉しく思います。

バロック音楽の演奏法は例外も多く複雑ですが、ご興味がある方はまず、18世紀の「3奏法」と呼ばれるクヴァンツの『フルート奏法』(1752)、C. P. E. バッハの『クラヴィーア奏法』(1753 & 1762)、L. モーツァルトの『ヴァイオリン奏法』(1756)をご覧ください。いずれも日本語訳が出ています3

  1. Corelli: Concerti Grossi for 2 Violins, Violoncello, Strings and Basso continuo, op. 6/1-12, New Urtext Edition. Eulenburug, 1997, p. 176。初版(1714)を主要資料にしています。
  2. このような下声が無くても、同様に奏されます。ウヴェルチュールの冒頭では、付点音符で記されていても、実際には複付点以上の長さで演奏されることもありました。
  3. 付点の奏法についても、『フルート奏法試論』(シンフォニア、1976)51-2ページ、『正しいクラヴィーア奏法』(全音、2,000)第1部131-2ページ、『バイオリン奏法』(全音、1974)29-30ページで述べられています。