27. 3月 2012 · (74) ミステリアス、《レ・プレ》 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

今回の演奏会は、少し不思議な雰囲気の曲、リストの交響詩《ラマルティーヌの『詩的瞑想』によるレ・プレリュード》で始まります。作曲者がちょっと(結構??)変わった人だったことは、(67)ミステリアス、リストでご紹介しました。今回は、作品がちょっと(結構??)変わっていることについて書きます。

まず、タイトル。交響詩とは、リストが創始したオーケストラ音楽の新しいジャンル。交響曲と違い、1楽章構成が普通です。風景や物語、絵画など、音楽以外のものと深く関連した標題音楽の一分野で、作者の意図を示す標題(プログラム)が添えられることもあります。

プレリュード、すなわち前奏曲は、バッハの「前奏曲とフーガ」やヴァーグナーの「第1幕への前奏曲」のように、何かの曲の前に置かれる音楽。ところがこの《レ・プレ》には、後に続く曲はありません。しかも、その前には、フランス語の単数の定冠詞「ル」ではなく、複数の定冠詞「レ」がついています。交響詩《前奏曲たち》ってどういうこと??

出版スコアには「わたしたちの人生は、死が最初の厳かな音を歌い始めるというその未知なる歌への、一連の前奏曲以外の何物であろうか」と始まる、フランス語の序文が印刷されています。これが、《レ・プレ》の標題。持って回った言い方ですが、「人は、生まれた瞬間から死へ向かって進んでいるから、生とは、死に至る過程における(様々な)前奏曲に他ならない」ということ。人生を描いた音楽とも考えられます(序文と音楽の関係については、(75) 《レ・プレ》とソナタ形式をお読みください)。

曲は、弦楽器によるドの音のピッツィカートで始まります。弱音で、譜例1を見るとわかるように、4拍子の3拍目。小節の前半には、音がありません。それを2回繰り返した後、同じドからユニゾンで、そろそろと動き出します。これも2拍目から。

譜例1:リスト作曲交響詩《レ・プレリュード》冒頭部分

譜例1:リスト作曲交響詩《レ・プレリュード》冒頭部分

この旋律から浮かび上がるのは、ラドミソの響き。ドミソならばハ長調の主和音として落ち着くのに、付加音ラによって、どこへ向かうのかあいまいです。実際に響く最初の和音は、6小節目のラドミで、これも2拍目からです。8小節目でようやく、1拍目にミソシの和音が鳴り、次の小節でラド♯ミに達して一区切り。フェルマータ付き休符の後、レのピッツィカートからほぼ同じ動きが、長2度上で繰り返されます。その後も、休みやタイによって拍節感がうまくかわされたまま、不安定な響き(減七の和音と言います)が続きます。属七の和音ソシレファが響くのが29小節目。主調ハ長調の主和音ドミソが登場するのは、35小節目のアレグロ・マエストーソです。

古典派の音楽とは異なり、ロマン派の音楽は主和音で始まるとは限りません(むしろ、主和音で始めるのはダサイそうです1)。でも、拍節や響きの方向性をあいまいにしたまま、ここまでひっぱるのはなかなか新鮮。時代を先取りしたリストならではです。

この冒頭は、人生の始まりである誕生を描いているのでしょうか。ここの新奇さが、《レ・プレ》を異質に感じさせる大きな要因のひとつ。でも、この不安定で神秘的な開始のおかげで、ようやく確立したハ長調の主調がいかにも頼もしく、マエストーソ(荘厳な)の主題が際立って印象的に聴こえますね。

  1. 分析を含め、作曲がご専門のhus-RyISKWさんのコメントに感謝します。