29. 6月 2016 · (283) 弦楽器の穴 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

弦楽器の表板には、左右に2つの穴が空いています。これが響孔。英語の soundhole の直訳ですね。ヴァイオリン属の穴は f の形をしているので、f 字孔と呼ばれます。響孔は初めから f 字型だったわけではなく、変化を繰り返してきました。

ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスは、弦を擦って音を出す擦弦楽器。このヴァイオリン属のご先祖様ヴィオラ・ダ・ブラッチョ(イタリア語で「腕のヴィオラ」の意味)や、コントラバスのご先祖様ヴィオラ・ダ・ガンバ(「脚のヴィオラ」。(31) 仲間はずれはだれ?参照))も含まれます。元来、リュートのような指で弾いて音を出す撥弦楽器を弓奏したと考えられます。つまり、初めの響孔は円型。リュートでは彫刻が施され、ロゼッタと呼ばれます(図1参照)。

図1:ハーレムのリュート、賢王アルフォンソ10世の『ゲームの書』、1283より

図1:ハーレムのリュート、賢王アルフォンソ10世の『ゲームの書』、1283より

弓で擦ると、指で爪弾くよりずっと大きな張力がかかります。そのため、弦は駒の上を通って緒止め板に固定されるようになりました。表板の中央に駒が置かれたので、響孔は半円形2つに分かれ(図2左)、やがて細くなります。フィドル(擦弦楽器を指す英語)の図像の多くはこの形(図2右)。

図2左:14世紀の写本に描かれたフィドル弾き。図2右:フィドルとパイプを奏する天使、Francesco Botticini、c.1475-97

図2左:ボエティウス『音楽綱要』の14世紀の写本に描かれたフィドル弾き。右:フランチェスコ・ボッティチーニ、奏楽の天使より、c. 1475〜97

両端の弦を弓奏するときの邪魔にならないよう、楽器本体の側面にくびれがつけられました。響孔の半円形は、くびれに従って逆の向きに。これが、ヴィオラ・ダ・ガンバの C 字孔です(図3)。やがて、その曲がった柄が反対方向にねじれ、f 字形に。「表板の振動力線を最も阻害しない形」になりました1。13〜15世紀にかけてのことです。このような変化は直線的ではありませんし、様々な変種も存在しますが、擦弦楽器の理想を求めて改良が加えられてきたのです(来週の聖フィル♥コラムはお休みします)。

図3:ヴィオラ・ダ・ガンバ

図3:ヴィオラ・ダ・ガンバ

  1. 『図解音楽事典』ミヒェルス編、白水社、1989年(dtv−Atlas zur Musik, Verlag GmbH & Co., 1977, 1983)、38ページ。
17. 6月 2015 · (241) ややこしくなかったチェロ はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: ,

チェロの本名「ヴィオロンチェロ Violoncello」(小さなヴィオローネ)。ヴィオローネはコントラバスのご先祖様。チェロはそれより一回り小さいからついた名前だと思っていたら……。実はこれ、さまざまな意味で使われた楽器名でした((240) チェロはややこしい?参照)。現在のチェロなどに相当する楽器(英語でバス・ヴァイオリンと呼ばれます)は、名称だけではなくサイズも多種多様だったようです。

図1:フェッラーリ『奏楽の天使部分』(1534〜36)

図1:フェッラーリ『奏楽の天使部分』(1534〜36)

図1は、この楽器を描いた最古の図像と考えられる、フェッラーリの『天使の奏楽』の一部(フレスコ画、1534〜36。サロンノ、奇蹟の聖母礼拝堂)1。左側のリュートなどに較べると小振りですね(なんとなく変だなあと思ったら、f 字孔が逆! ガンバ蔟の C 字孔でないのは明らかですが)。一方、図2はクルースの「楽器のある静物」(1623)2。テールピース(緒止め板)のデザインがおしゃれ。良く見ると5弦です。左側にカメがいる!?(図1、2ともクリックで拡大します)。

図2:クルース『楽器のある静物』(1623)

図2:クルース『楽器のある静物』(1623)

「ヴィオロンチェロ Violoncello」の語が最初に登場する出版譜は、ヴェネツィアで1665年に出されたG. C. アッレスティの『ソナタ集 op. 4』。この新しい名前、ヴィオローネの変化を反映しています。この時期、以前よりも楽器が小さくなったのです。理由は、弦の改良。

当時の弦楽器には、羊の腸から作られたガット(カットグット、腸線)が使われていました。低い音を出すためには長い弦が必要ですが、左手で音程を決める弦楽器は鍵盤楽器と違って、長過ぎると指が届かない。長さを切り詰めるために太い弦が使われましたが、音質が悪く大きな音が出ませんでした。

この問題を解決したのが、ガットや絹糸の周りに細い針金を巻く新技術。17世紀半ばにボローニャで発明されたことが、ほぼ確実です3。弦の密度が増したため、低い音でもそれまでよりもずっと細く短い弦ですむようになりました。響きが良く、音量も豊かに。

弦が短くなった分、楽器本体も短縮。そのために「(前より)小さなヴィオローネ」ヴィオロンチェロと呼ばれるように。現存する古いタイプの楽器から、弦の改良前は楽器本体と弦の長さが4、5cmほど長かったことがわかります。現在のチェロの標準サイズ(本体が75〜76cm)は、18世紀初めにストラディヴァリによって確立されたもの4

わかってみると、「小さな大きなヴィオラ」violoncello という名前がついた理由、別にややこしいわけではありませんでした。でも、楽器のサイズが途中で変わった(しかも小さくなった)なんて、普通は考えつきませんよね。

  1. Ferrari, Gaudenzio, “Angel Concert,” on the dome of the sanctuary of the Madonna dei Miracoli in Saronno, 1534-36.
  2. Claesz, Pieter, “Stil-life with Musical Instruments,” 1623.
  3. Bonta, Stephen & Richard Partridge, ‘String,’ New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 24, Macmillan, 2001, p. 582.
  4. Bonta, Stephen, ‘Violoncello,’ New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 26, Macmillan, 2001, p. 747.
10. 6月 2015 · (240) チェロはややこしい? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

チェロの本名ヴィオロンチェロ violoncello は、イタリア語で「小さな大きなヴィオラ」の意味。擦弦楽器の総称 viola に増大の接尾辞 -one で大きな、縮小の接尾辞 -ello で小さなという意味が加わるからでしたね((37) ヴィオラはえらい?参照)。なんともややこしい名前ですが、私はずっと、チェロがコントラバスのご先祖様ヴィオローネ violone(大きなヴィオラの意)よりも小さいので、小さなヴィオローネという名前で呼ばれるのだと納得していました。音楽事典でヴィオローネをひくと:

弦楽器の1種で、ヴィオラ・ダ・ガンバ蔟の最低音楽器。6弦で調弦はベース・ガンバと同じだが、(中略)実音は楽譜よりオクターヴ低い。(中略)ガンバ蔟の中で、ヴァイオリン蔟と併用された最後の楽器であり、コントラバスが一般化するまでオーケストラの最低音域を受け持った(後略)1

と書いてあるからです。でもこれは、現代の用語法。歴史的にみると、ヴィオローネは他にもさまざまな意味を持つ、すごくややこしい名称でした2

  1. 1530年代以降、すべてのサイズのガンバ(=ヴィオール)蔟を指していた。
  2. 1600年ころまでに、低音のヴィオラ・ダ・ガンバを指すようになった。1609年にバンキエーリは、ヴィオローネ・ダ・ガンバを G’-C-F-A-d-g、ヴィオローネ・デル・コントラバッソを D’- G’-C-E-A-d に調弦すると書いている。
  3. 同時に、(いつからかはっきりしないものの)ヴァイオリン蔟の低音楽器も指すようになった。バス・ドゥ・ヴィオロン、バッソ・ディ・ヴィオラ、バス・ヴィオール・デ・ブラッチョ、バッス・ドゥ・ヴィオロン、バッセット、バッセット・ディ・ヴィオラ、バッソ・ダ・ブラッチョ、バッソ・ヴィオラ・ダ・ブラッゾ、ヴィオラ、ヴィオラ・ダ・ブラッチョ、ヴィオラ・ダ・ブラッゾ、ヴィオレッタ、ヴィオロンチーノ、ヴィオローネ、ヴィオローネ・バッソ、ヴィオローネ・ダ・ブラッゾ、ヴィオローネ・ピッコロ、ヴィオロンジーノ、ヴィオロンゾーノ、ヴィヴォラ・ダ・ブラッゾなど、さまざまな名称が使われた3
  4. 例外的にヴェネツィアでは、1660年以降コントラバスを指した。

ガンバ(ヴィオール)蔟とヴァイオリン蔟は、似て非なる楽器。形(ガンバ蔟はなで肩)、弦の数(ガンバ蔟は多い)、調弦(ガンバ蔟は3、4度調弦)、フレットの有無(ガンバ蔟は有り)などが異なります((31) 仲間はずれはだれ?参照)。その両方の低音楽器をヴィオローネと呼んでいたとは……。ややこしすぎ!と文句を言いたくなりますが、ガンバ蔟もヴァイオリン蔟も、擦弦楽器つまりヴィオラ。大型のものをヴィオローネと呼ぶのは自然だったのでしょう。イタリアでヴィオローネがコントラバスを指していたのはヴェネツィアだけ。ヴィオローネより一回り小さいからヴィオロンチェロの名がついたわけではなかったのです。(続く)

図1:プレトリウス《シンタグマ・ムジクム》II(Theatrum instrumentorum, 1620, pp. 20-21)

図1:プレトリウス《シンタグマ・ムジクム》II(Theatrum instrumentorum, 1620, pp. 20-21)

  1. 高野紀子「ヴィオローネ」『音楽大事典1』平凡社、1981、182ページ。
  2. Bonta, Stephen, ‘Violoncello,’ New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 26. Macmillan, 2001, pp. 745-47.  Borgir, Tharald / Stephen Bonta, ‘Violone,’ op. cit., p. 765.
  3. bas de violon (Jambe de Fer, 1556), basso di viola (Zacconi, 1592), bass viol de braccio (Praetorius, 1619), basse de violon (Mersenne, 1637), bassetto, bassetto di viola, basso da brazzo, basso viola da brazzo, viola, viola da braccio, viola da brazzo, violetta, violoncino, violone, violone basso, violone da brazzo, violone piccolo, violonzino, violonzono, vivola da brazzo など。これらのうち -ino、-etto、-etta、piccoloは小さな、braccio、brazzoは腕の意味。
20. 6月 2012 · (86) 見た! さわった!! ヴィオラ・ダモーレ はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

ヴィオラ・ダモーレをご存知ですか。「viola d’amore」はイタリア語で「愛(アモーレ)のヴィオラ」という意味。17世紀末から18世紀に使われた擦弦楽器です(図1)。胴の長さはヴィオラとほぼ同じ(でも、サイズが同じだから「ヴィオラ」・ダモーレと呼ぶのではなく、擦弦楽器の総称としての「ヴィオラ」でしょう。(37) ヴィオラはえらい?参照)。なで肩で、図では見えませんが裏板は平らです。いずれも、ヴィオラ・ダ・ガンバ属の特徴ですね。でも、フレットは無く、楽器の構え方や弓の持ち方は、ヴァイオリン属と同じです((31) 仲間はずれはだれ?参照)。

図1:ヴィオラ・ダモーレ(クリックで拡大します)

長いネックにペグ(糸巻き)が14個。駒の上を見ると弦は7本だけ。残りの7個のペグは、共鳴弦を留めています。この共鳴弦、細くて光るせいか音楽辞典などの写真ではよく見えません。どこにどのように張られているのか、以前から不思議に思っていたのですが、先日、実物にさわって確認することができました1。エンドピンのそばに別々に留められた7本の共鳴弦(図2①)は、テールピースの下から駒の穴(図2②矢印)、指板の下を通り、ネックの後ろ側の隙間(図2③矢印)から外に出て、胴から遠いペグへ。真横から見ると、2階建て構造がよくわかりますね(図2④)。1階の共鳴弦は金属、2階の演奏弦はガットです。

図2:ヴィオラ・ダモーレの共鳴弦

7本のガット弦は、時代により作品により、様々に調弦されました。ニ長調の調弦がスタンダードになったのは、18世紀末。共鳴弦は、上の弦に合わせて調弦されます。ヴァイオリン属のような華やかで力強い音は出ませんが、倍音が豊富で、少し鼻にかかった「甘い」音色が愛好されました。アントニオ・ストラディヴァーリも、ヴィオラ・ダモーレの図面を残しているそうです2。指板が広いのは、弦が7本あるから。和音やアルペジオを弾きやすいのも特徴ですが、むしろ、注意しないと隣の弦にもさわってしまって、期せずして和音が鳴るという感じでした。ハイ・ポジションを使わないので、指板は短めです。

この楽器には、渦巻きの代わりに顔(頭?)がついていますね(図1右端)。後ろには羽もあります(図2③)。そう、愛の弓を射るキューピッドです。目隠したキューピッドがついた楽器もありますが、これはルネサンス以来の伝統的な図像で、「恋は盲目」を表します3

炎のような形の長い響孔にも注目してください。ヴァイオリン属の   字孔ともガンバ属の C 字孔とも異ります。この「燃える刀」型の響孔(イスラムのシンボル)や共鳴弦などから、中東地域の影響が指摘されています(インドには、シタールやサーランギのような、共鳴弦をもつ伝統楽器がたくさんありますから)。さらに、円花形の孔もあるのが普通です(図1の、ぎざぎざにカットされた指板の下に、少し見えています)。

ヴィオラ・ダモーレがオブリガート楽器として使われている、バッハの《ヨハネ受難曲》BWV245 第20番のテノール・アリア『熟虜せよ』の動画をあげます(通奏低音はリュートとチェロ)。19世紀以降、ごく稀にしか使われなくなってしまった「愛のヴィオラ」の、くすんだ「甘い」音色をお楽しみください4

  1. ヴィオラ・ダモーレの写真をコラムに使うことを許してくださった桐山健志さんと、撮影の機会をくださったva-minさんにお礼申し上げます。
  2. M. Rosenblum, “Viola d’amore,” New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 26, Macmillan, 2001, p. 698. 残念ながら、図面に一致する楽器は見つかっていません。
  3. 音楽とは関係ありませんが、パノフスキーの『イコノロジー研究 上』(ちくま学芸文庫、2002)の中に、「盲目のクピド」が分析されています。
  4. 歌詞の日本語訳は「心して思いはかれ、血に染みたる彼の背のいかにすべてにわたりて、天なる御国を映し出だしたるかを! かしこに逆巻き荒れたるわれらが罪の洪水の大波引きしのち、こよなく美わしき(ママ)虹(創世記7,6〜9,17)、神の恵みのしるしとして現れ出でたり」(杉山好訳。クイケン指揮ラ・プティット・バンドによるCDの解説より)。
13. 7月 2011 · (37) ヴィオラはえらい? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

「居なくてもきっとなにも変わらないさ」(槇原敬之「ビオラは歌う」)と歌われてしまったヴィオラ。以前、コメントをくださった生涯一中提琴さんとお約束した、「中提琴(中国語でヴィオラ)はえらい?」の立証にトライしてみましょう。以下の3つの理由でヴィオラはえらい……か?

1. 弦楽器のイタリア語名はヴィオラ viola に由来するからヴィオラはえらい?

  • ヴァイオリン violino = viola + イタリア語で縮小の意味を表す接尾辞 -ino = 小さなヴィオラ (Andante → Andantinoも同様)1
  • コントラバスのご祖先ヴィオローネ violone = viola + 増大の接尾辞 -one = 大きなヴィオラ(トロンボーン trombone は tromba らっぱ + -one で大きならっぱ)
  • チェロ violoncello =大きなヴィオラ violone + 縮小の接尾辞 -ello=小さな大きなヴィオラ

ここまではご存知の方も多いと思いますが、残念ながらこのヴィオラは中提琴ではありません。ヴィオラやヴィオールという言葉は、中世以来ヨーロッパで、弓で音を出す擦弦楽器の総称として使われました。16世紀の始めに、ヴィオラ・ダ・ガンバ属とヴィオラ・ダ・ブラッチオ属に分かれ、後者がヴァイオリン属を形成していきます((31) 仲間はずれはだれ?参照)。中提琴はえらい……わけではありませんでした。

2. 音響学的に不利だからヴィオラはえらい?

まず音域を考えてみましょう。単純に言うとヴィオラは、ヴァイオリンのE線を取り去ってあとの3本を残し、下にC線を加えたような楽器。ヴィオラの最低音はヴァイオリンより5度低くなります。一方チェロはヴィオラと同じ「どそれら」調弦。最低音はヴィオラよりも1オクターヴ、つまり8度低いのです。

次に楽器の大きさを思い浮かべてください。チェロはヴィオラに比べてずっーと大きいのに、ヴィオラとヴァイオリンの差はわずか。8度の音程差でチェロがヴィオラよりあれだけ大きいのなら、5度の音程差があるヴィオラだって、本当はヴァイオリンよりかなり大きいはずですよね。

ヴァイオリンと音響学的に同等のヴィオラを作るとすると、ネックを除く本体の長さが約 53cm 必要だそうです2。低音弦も豊かに美しく響くこの理想的なサイズは、しかしながら腕に対して長過ぎて演奏不可能。だから、現在の約40cmほどの大きさに押し込んでいるのです。楽器構造上の無理は、ヴィオラの音色や音量に影響します。それでも、本来の大きさの楽器から輝かしく力強い音色を奏でるヴァイオリンやチェロに、渋い音色で対抗しているのだから、ヴィオラはえらい!!……かも。

3. 重視されなかったバロック時代を生き抜いたからヴィオラはえらい?

バロック時代、アンサンブルにおいてヴィオラがソロとして扱われるのは(フーガを除くと)非常に稀でした。また、17世紀以降、数えきれないほどのヴァイオリン協奏曲やたくさんのチェロ協奏曲が作られた一方で、最初のヴィオラ協奏曲がテレマンによって作られたのは1740年頃。しかもこの時代のヴィオラ協奏曲は、他にわずか3曲だけなのだそうです3

バロック時代には、同じ音域の楽器2つによる独奏のかけあいを、通奏低音(この時代特有の伴奏体系)で支えるトリオ・ソナタと、独奏+通奏低音のソロ・ソナタが流行します。ヴァイオリンはしばしば独奏楽器として、チェロは通奏低音を担う楽器として重要でしたが、ヴィオラには出番がありませんでした4。ヴィオラの個性が求められるようになったのは、ハイドンやモーツァルトによって、弦楽四重奏曲が声部均等に(部分的にせよ)作られるようになってから。長い間、廃れず地味に存続し、「誰かの為の旋律」(槙原)を歌うようになったヴィオラはえらい……。

というわけで生涯一提琴さん、「ヴィオラはえらい」ではなく「ヴィオラは健気!!」という結論になってしまいました。どうぞご了承ください。

  1. 女性形は -ina。他に -etto(女性形 -etta)も縮小の接尾語。Allegro → Allegretto など。
  2. Boyden & Woodward, “Viola” in The New Grove Dictionary of Music, vol.26 (Macmillan, 2001), p. 687.
  3. 同 p. 691。他の3曲は、J. M. Dömming、A. H. Gehra、G.Graun の作(実はグラウン以外は初めて見た名前です)。この4曲以外のほとんどは、他の楽器のための協奏曲のアレンジ。以前ヘンデル作とされたロ短調の協奏曲のように、後世の人(この場合はヴィオラ奏者アンリ・カサドシュ)がバロック風に作ってしまった作品もありました。
  4. 場合によってはヴィオローネやコントラバスも、通奏低音楽器としてソナタに参加しました。

オーケストラで使われる弦楽器は、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの4種類1。この中の仲間はずれはどれでしょう?

答えは……コントラバス!

形を見ると一目瞭然ですね。コントラバスだけがなで肩です。弓の持ち方も逆。ヴァイオリンなどは弓を上から持ちますが、コントラバスでは逆に、手のひらを上に向けて持つ奏者が多いはずです(ヴァイオリンのように持つ方法もありますが)。もう一つの大きな違いは調弦の仕方。ヴァイオリンの弦は低い方から「そ れ ら み」、ヴィオラとチェロは「ど そ れ ら」と5度間隔に合わせますが、コントラバスは「み ら れ そ」。4度間隔です。

図1 ヴィオラ・ダ・ガンバ(ヴィオール)

なで肩や筆記具と同じような弓の持ち方、4度調弦は、弦楽器のご先祖様のひとつであるヴィオラ・ダ・ガンバ属の特徴です。ヴィオラ・ダ・ガンバはイタリア語で「脚のヴィオラ」、つまり現在のチェロのように脚で支える擦弦楽器で、ヴィオールとも呼ばれます(図1参照)。リコーダーのように、アルトやテナーなどいろいろなサイズがありますが、4度(一部3度)間隔で調弦する6弦が基本で、細いガット弦を結びつけたフレットが7つ。16世紀からバロック時代にかけて、特に上流階級の楽器として愛好されました。でも、弦楽器のもうひとつのご先祖様であるヴィオラ・ダ・ブラッチオ属(「腕のヴィオラ」つまりヴァイオリン属)に比べて音色が渋く音量が小さかったために、音楽文化の担い手が王侯貴族から都市市民に代わり、彼らのために広い会場で演奏会が開かれるようになると、廃れてしまいました。

コントラバスの外見は、ヴィオラ・ダ・ガンバ属の最低音域を受け持っていたヴィオローネと、ほとんどそっくり(このサイズだけは、脚で支えません)。ヴィオローネは、ガンバ属の中でヴァイオリン属と併用された最後の楽器です。この直接のご先祖様の特徴をいくつかしっかり保ちつつ、C字響孔を f 字形に変える、4弦にしてフレットを無くすなど、ヴァイオリン属の特徴を取り入れて改良されました。弦楽器ファミリーの頼れるお父さん役 (?) をこなしてくれています。

ちなみに、コントラバスが仲間はずれだから弦楽四重奏に入れてもらえない……というわけではありませんので、念のため。

  1. もちろん、ハープも弦楽器です。