10. 12月 2014 · (215) クリスマス以外にも聴きたい音楽《そりすべり》 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: ,

クリスマスの4つ前の日曜日、今年は11月30日にアドヴェントに入りました。ラテン語で「到来」を意味する adventus から来た言葉です。キリストの降臨を待ちながら心の準備をするこの時期(カトリックとプロテスタントでは待降節、聖公会では降臨節)は、私にとっては「クリスマスに聴きたい音楽」を考える季節。part 7 の今回はルロイ・アンダーソンの《そりすべり》。えっ、タイトルが違う? そうなんです。

すでに触れたように、《ジングルベル》や《赤鼻のトナカイ》などと並ぶこのクリスマス・ソングの定番は、暑い夏に作られました((98) 題が先か曲が先か?《シンコペーテッド・クロック》参照)。ルロイ・アンダーソンと妻のエレノアが、コネチカット州ウッドベリーのコテージで初めて一夏を過ごした、1946年7月のことです。酷暑と日照りが続き、ルロイは水源から来る古いパイプを捜そうと、溝を掘ってみたりしたそうです。この間に作り始めた曲の1つが《そりすべり》。ずっと前のウインター・シーズンを、音楽で描写しようというアイディアです。気持ちだけでも涼しくなりたかったのかな。1848年2月、ニューヨークのブルックリンで完成。

エリノアの回想によると1

《そりすべり》を作ったとき、ルロイはクリスマス・ソングを作ろうとして始めたわけではありませんでした。彼の意図は、そりに乗る描写をとおして、ウインター・シーズン全体を伝えることだったのです。モーツァルトが同名の曲でしたみたいに。

たしかに、モーツァルトの《そりすべり》(K.605 第3曲)はクリスマスというよりも冬のイメージ。アンダーソンの曲にミッチェル・パリッシュが付けた歌詞(1950年)も、「冬の日にあなたと一緒にそりに乗りたい」という内容で、クリスマスのクの字も出て来ません(最後の方に「パンプキン・パイ」が出てくるので、むしろ11月末の感謝祭?)。でも、カーペンターズなどのように、歌詞中の「誕生日パーティー」を、「クリスマス・パーティ」に替えて歌うケースも。

作曲者が、酷暑の中で思いついた《そりすべり》。1849年に最初のレコード(もちろん、アーサー・フィードラー指揮ボストン・ポップス・オーケストラ)が発売された直後からホリデー・シーズンと結びつけられ、60年以上を経た現在もクリスマス・ソングとして世界中で愛されています。スレイベルの軽快なリズム、後半のちょっとジャズ風なアレンジ、トランペットが馬のいななきをまねるユーモラスなエンディングなど、心躍るこの時期にぴったり! でも、ウインター・シーズン全体の描写という作曲者の意図を尊重して、今回はクリスマス以外にも聴きたい音楽としておきますね。

13. 9月 2012 · (98) 題が先か曲が先か?《シンコペーテッド・クロック》 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: ,

残暑の中、聖フィル第7回定期演奏会にいらしてくださった皆さま、どうもありがとうございました。久しぶりに共演者無しの演奏会、新企画も盛り沢山でしたが、楽しんでいただけましたでしょうか。今回のコラムは恒例(?)のアンコール特集。ルロイ・アンダーソンの《シンコペーテッド・クロック》についてです1

スウェーデン系移民の子どもとして、1908年、アメリカ・マサチューセッツ州ケンブリッジ(ボストンの隣市)に生まれました。ハーヴァード大学とその修士課程で音楽を専攻し、1931年にはハーヴァードのブラス・バンドの指揮者に。彼のたくさんの気のきいたブラス用編曲が、ボストン・ポップスの指揮者アーサー・フィードラーの目に留まり、1936年に編曲作品、38年には新たに作曲した《ジャズ・ピッツィカート》が、同楽団で初演されました。2人のコラボレーションはその後も続きます。

博士号は音楽ではなく、ドイツ語と古ノルド語を含むスカンジナビア諸言語の研究で取得。英語とスウェーデン語以外に、デンマーク語、ノルウェー語、アイスランド語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ポルトガル語をマスターしていたそうです。第2次世界大戦中はこの語学の才能を活かして、アイスランドで米陸軍防諜部の通訳および翻訳者として働きました。

大尉に昇進し、軍事諜報部スカンジナビア局チーフとしてペンタゴンで仕事していた1945年に作曲したのが《シンコペーテッド・クロック》。1945年5月28日、ボストン・ポップス・オーケストラ《アーミー・ナイト(陸軍の夜)コンサート》で、アンダーソン自身の指揮で初演されました2。インタヴューによると3

―—タイトルと曲の、どちらを先に考えるのですか。 L. アンダーソン そうですね、実はどちらの場合もあります。《シンコペーテッド・クロック》のようなケースでは、先にタイトルが浮かびました。タイトルが、音楽で表せるかもしれないアイディアを含んでいたからです。もちろんわたしも他の人たちと同じように、時計に関する音楽が何百も――まあ、何千ではないとしても――存在することに気づいていました。でも、これらの時計はすべて、あなたがたがどこででも聞くような、普通に規則正しく時を刻む時計だと、突然、思い当たったのです。シンコペーテッド・クロック、すなわちシンコペーションのリズムで時を刻む時計にのせた音楽作品を書いた人は、誰もいませんでした。この魅力的なアイディアにとりつかれた私は、じっくり腰をすえて、タイトルに合わせてこの音楽を書いたのでした。

「シンコペーション」とは「拍子、アクセント、リズムの正規的な進行を故意に乱すこと」4。曲中ウッドブロックが、カンコンカンコンと時計のチクタク音を模しています。常に規則的に時を刻むはずなのに、4小節目にシンコペーション。

カン コン カン コン カン コン カン コン カン コン カン コン カン んコ ンカ コン

このはずし方が、なんともキュート! 目覚ましのベルが鳴る中間部や、時計が壊れてしまうエンディングもユーモラス! スライド・ホイッスルの「ヒューン」は、ゼンマイが戻ってしまう音でしょうか。曲よりも先に題ができた《シンコペーテッド・クロック》、まさにアイディアの勝利です。1975年に亡くなった後も、《トランペット吹きの子守唄》《ブルー・タンゴ》《踊る子猫》など多くの作品が、肩の凝らないオーケストラ作品として世界中で親しまれていますね。代表曲《そりすべり》はクリスマス・シーズンの定番ですが、1946年夏にコネティカット州で、熱波(heat wave)の中、作曲されたそうです(この曲については、(215) クリスマス以外にも聴きたい音楽もご覧ください。2014/12/10追記)。

  1. ルロイ・アンダーソン公式ページの中の、10カ国語(!)で読める(日本語は含まれません。残念)伝記を使いました(http://leroyanderson.com/biography.php)。2ページ目には、ハーヴァード大学ブラス・バンド時代の写真も載っています。ウィキペディア日本語版などは、細かいところが不正確でした。今回のコラムでお世話になった twinklestar2さん、hitom-2.25さん、editorつぶ担さんに感謝いたします。
  2. 私事ですが、ボストン・ポップス懐かしいなあ。大晦日のカウント・ダウン・コンサートでダンスしたのを思い出します。常任指揮者が、フィードラーを継いだジョン・ウィリアムズから現在のキース・ロックハートに代わる頃の話です。
  3. 原文はこちらです。 http://www.pbs.org/sleighride/Video&Music/Compositions_SClock.htm.
  4. 門馬&渡「シンコペーション」『音楽大事典3』平凡社、1982、1261ページ。ネット上に、ルロイ・アンダーソンの《シンコペーテッド・クロック》は「狂った時計」の意味ある(下線筆者)と書かれたブログが複数ありました。syncopateを調べても、音楽用語と文法用語としての意味しか見当たりません。上のインタヴューから「時間が不正確」という意図が無いのは明らかです。シンコペーションによって刻みが「乱れた」→「不正確」を「狂った」と表現したのでしょうか。理由をご存知の方、教えてください。