19. 11月 2014 · (212) 《オケコン》とリトルネッロ形式 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

ソロ中心の様々なエピソードを、トゥッティ(全合奏)で何度も「戻ってくる」リトルネッロで挟みながら進む、リトルネッロ形式((211)参照)。バロック時代、ソロ協奏曲やコンチェルト・グロッソ(複数の独奏楽器のための協奏曲)はもちろん、特定の独奏楽器を持たない、伴奏オーケストラだけで演奏されるリピエーノ・コンチェルト((210) 《オケコン》のルーツ参照)にも使われました。ソナタ形式が成立する前の話。でも、バルトークの《オケコン》(1943)第1楽章も、リトルネッロ形式で分析できるのです1

初演(1944)の解説に、バルトークは第1楽章(Introduzione)をソナタ形式と書きました。提示部第1主題は、アレグロ冒頭のファースト・ヴァイオリンが忙しく上がって下りる(より専門的に言うと、「増4度の順次進行と完全4度の跳躍進行2回で上がって、同じく増4度順次進行+完全4度の跳躍進行2回で下りる」)音型。第2主題は、オーボエが隣同士の2つの音を行ったり来たりする、トランクィッロ(静かに)部分。展開部は第1主題で始まり、金管楽器によるフガートも、第1主題(の前半部分)が導きます。

この、何度も出てくる第1主題をリトルネッロ、間に挟まれる部分をエピソードと考えてみてください。R1(下の動画の3:52くらい〜)― E1(4:53〜)― R2(6:25〜)― E2(6:57〜)― R3(7:45〜)― E3(8:40〜)― R4(10:09〜)となります。お約束のリトルネッロで始まらないのは、テンポの遅い序奏部を付けた変形だから。リトルネッロに較べてエピソードは音量が小さく(いずれにもトランクィッロの指定がありますから当たり前ですが)、独奏や重奏が多いことも、リトルネッロ形式の図式にぴったり。

ソナタ形式として分析すると、再現部は第2主題で始まります。上のリトルネッロの記号を使うと、提示部:R1=第1主題部、E1=第2主題部。展開部:R2、E2、R3。再現部:E3=第2主題部、R4=第1主題部。2つの主題を逆の順序で再現した形です(あるいは、第1主題の再現を省略、R4の第1主題をコーダと考えることも)。調の選択も含めてソナタ形式の定型からかなり外れていますが、作曲された時期を考えると、ご本人が書いた「だいたい通常のソナタ形式 a more or less regular sonata form」の範囲内かな2。いずれにしろ、第2主題から再現したおかげで、リトルネッロ形式にきれいにはまります。バロック時代のリピエーノ・コンチェルトという外枠だけではなく、その中身であるリトルネッロ形式も意識し、どちらの形式とも考えられる形に作曲したのでしょうね。

  1. Cooper, David, Bartók: Concerto for Orchestra, Cambridge University Press, 1996, pp. 36-37.
  2. 前掲書、p. 85。伊東信宏の「ミニチュア・スコア解説」(『バルトーク:管弦楽のための協奏曲』音楽之友社、2012、v)では more or less が訳出されず「通常のソナタ形式」と書かれているので、注意が必要です。
12. 11月 2014 · (211) リトルネッロ形式 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

おかげさまで、2010年11月9日に始めた聖フィル♥コラム、4年目に突入! いつも読んでくださる皆さま、今、初めて読んでくださっている皆さま、どうもありがとうございます。前回、リピエーノ・コンチェルトについて書きながら((210)《オケコン》のルーツ参照)、まだリトルネッロ形式を説明していないことに気づきました。200以上書いたのに、バロック・コンチェルト(ソロ・コンチェルトと、複数の独奏楽器のためのコンチェルト・グロッソ両方)に使われたリトルネッロ形式のコラムが無かったなんて。反省!

リトルネッロは、イタリア語の名詞 ritorno(「戻ること」、動詞は ritornare)に縮小辞 –ello がついた形で、「小さな反復」の意味。1600年頃から、有節アリアの前、間、後などに奏される器楽曲を指すようになりました1。初め、リトルネッロはアリアと分かれていて、登場人物の入退場や舞踏シーン、場面転換などに使われました。17世紀半ば頃、リトルネッロとアリア(の反復)は途切れない一続きに。多くの場合、両者は音楽的に関連させて作られました。

協奏曲にこのリトルネッロ技法が使われるようになったのは、1700年頃。独奏者のためのエピソード部分と、トゥッティ(全合奏)によるリトルネッロの交代が繰り返されます。アリアの場合と同様、エピソード部分ではしばしば、リトルネッロの音型やその一部、装飾形などが使われます。

バロック協奏曲の「急」楽章(つまり第1楽章と第3楽章)は、リトルネッロで始まりリトルネッロで終わるのがお約束。一方、エピソードの数は自由。R1― E1― R2― E2― R3….. という具合に、好きなだけ入れることができます。冒頭のリトルネッロはフル・バージョンですが、それ以外は短縮バージョンが普通。みんなが聴きたいのはソロ。リトルネッロであまりお待たせしてはいけません。

何回くらい反復されるのか、ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲《秋》op. 8, no. 3, RV 293の第1楽章で数えてみましょう。リトルネッロで始まり(R1)、そのリトルネッロを使った最初のエピソード E1(0:27くらい〜)― R2(0:54〜)― E2(1:03〜)― R3(2:01〜)― E3(2:21〜)― R4(2:47〜)― E4(3:18〜)― R5(4:28〜)。4つのエピソードを挟んで、リトルネッロは5回のようですね。エピソードを全部の楽器で伴奏したり、エピソードの途中にリトルネッロの音型で合いの手が入ったりすることもありますが、トゥッティとソロというよりも、リトルネッロとエピソードの交代と考えてください。

  1. Talbot, Michael, ‘Ritornello,’ The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 21, Macmillan, 2001, pp. 446-47.