04. 2月 2015 · (223) 何が特別? ミサ・ソレムニス はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

ベートーヴェンの代表作のひとつ、ミサ・ソレムニス ニ長調 op. 123。「荘厳ミサ曲」と訳されることが多いですね。なんだか偉そうな(!?)タイトルですが、いったい何のことでしょう? ベルリオーズ(1824)やブルックナー(1854)も作曲しています。

現在、ミサ・ソレムニスという用語は、聖書朗読以外の全ての部分を歌うミサ典礼を指します1。でも以前は、司祭1人による通常の形と異なる、司祭以外に複数の助祭が奉仕する大きなミサ、盛儀ミサを指しました(昨年12月、横浜の聖光学院で行われた新校舎竣工記念式典は、この形態だったそうですね)。そのため、音楽用語としてはベートーヴェンのミサ・ソレのような、大規模で厳かなミサ曲に使われます。

ローマ・カトリック教会のミサ(プロテスタントでは聖餐式と呼びます)は、主日(=日曜日)や一定の祝祭日、婚儀や葬儀に行われます。ミサの式次第は、慣れない者にはかなり複雑。聖書朗読(使徒書簡と福音書)のような聞く部分だけではなく、式文を一緒に唱えたり歌ったりする部分がたくさんあります。季節や祝祭日によって変わる式文がミサ固有文、変わらない式文がミサ通常文。

ミサ曲は、その1年中変わらないミサ通常文の中の、歌われる部分を作曲したもの。キリエ(あわれみの賛歌)、グローリア(栄光の賛歌)、クレド(信仰宣言)、サンクトゥス(感謝の賛歌)、アニュス・デイ(平和の賛歌)の5部分から成ります。歌詞はラテン語ですが、キリエは例外的にギリシア語。

キリエ、グローリア、クレド、サンクトゥス、アニュス・デイなら、バッハのロ短調ミサ曲と同じ!と気づいた方、そのとおり。タイトルにはありませんが、実際はミサ・ソレムニスです。ハイドンやモーツァルト、シューベルトもミサ・ソレムニスを作っていますし、ブルックナーがただの(?!)ミサと名付けた3大ミサ曲も、実はミサ・ソレムニス。

教会用か演奏会用かは、関係ありません。ベートーヴェンのミサ・ソレも、当初は盛儀ミサのための実用音楽として構想されました。パトロンであるルドルフ大公が、1819年4月24日に枢機卿に。さらに、モラヴィアのオルミュッツ大司教になる就任式が、翌年3月9日と決定。ベートーヴェンは大公宛の1819年6月初旬の手紙に、「殿下の式典に際し、私の作曲する盛儀ミサ曲の演奏が許されますならば、その日こそ私の生涯でこの上なき最良の日となりましょう」と書いています2。残念ながら就任式には全く間に合わず、キリエ、クレド、アニュス・デイの3章がウィーン初演されたのは、5年後の《第九》初演の演奏会でした。

  1. ‘Missa solemnis,’ The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 16, Macmillan, 2001, p. 760 (unsigned).
  2. 平野昭「ミサ・ソレムニス」『ベートーヴェン事典』東京書籍、1999、477ページ。
26. 1月 2012 · (65) グレゴリオ聖歌はいくつあるのか はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

「アマ・オケ奏者のための音楽史」第4回は、中世の音楽実践についてです。すべてがキリスト教によって支配されていたこの時代。音楽が、ムジカ・フマーナとかムンダーナとか((63) 音楽は数学だった ?! 参照)、理論ばかりだったわけではありません。教育機関では、神に捧げる音楽であるグレゴリオ聖歌を歌ったり作ったりする訓練も行われていました。

グレゴリオ聖歌は、カトリック教会の強化と典礼改革を行った教皇グレゴリウス1世(在位590〜604)にちなむ、いわばニックネーム。正式名称は「ローマ聖歌(カントゥス・ロマーヌス)」といいます。ヨーロッパ各地で用いられていた異なる聖歌の中で、8世紀にローマ教皇によって正式に認められた聖歌という意味です。特徴は:

  • 主旋律のみ(単旋律、あるいはモノフォニーと呼ばれる)
  • 伴奏:無し
  • 歌い手:男性(女子修道院などは例外)
  • 歌詞:ラテン語(多くは聖書から)
  • 8種類の教会旋法(モード)に分類されている
  • 現在も使われている

グレゴリオ聖歌は全部でいくつあるのか、私にはわかりません(ご存知の方がいらしたら、教えてください)。でも、膨大な数であることは確かです。

たとえば、クリスマスとイースターはどちらもキリスト教徒にとってとてもうれしい日ですが、主の降誕と復活では、喜び祝う内容が全く異なります。同じ聖歌を捧げるわけにいかないのは明らか。それぞれに固有な式文(歌詞)を持つ聖歌が必要になります。教会暦ではほとんど毎日のように、クリスマスやイースターのようなイエス本人に関する祝祭日や、聖人を記念する日などが定められていますから、それぞれにふさわしい式文の聖歌が必要です。

また、歌われるのは1日1曲ではありません。主日(日曜日)や重要な祝祭日に行われるミサ以外に、日々の務めである「聖務日課」でも聖歌が歌われます。これは、修道院などで毎日8回(!)決まった時刻に捧げる祈り。毎回、異なる複数の聖歌が必要です。

20世紀の実用版グレゴリオ聖歌集とも言うべき『リーベル・ウズアリス』(ソレーム修道院編纂、1961年)を数えてみました。全1900ページの中で、クリスマスのミサと聖務日課のための聖歌に、50ページ近くが費やされています。そのうち「朝課」(聖務日課の中の、夜明け前の祈り)用に、20ページ1。巻末の索引には、タイトルがおよそ2300……2

以前は、膨大な数の聖歌がグレゴリウス1世によって集大成されたとか、一部は彼自身が精霊に満たされて作曲したと伝えられていました。現在では、アルプス以北で歌われていたガリア聖歌をもとに、長い年月をかけて整えられていったと考えられています。そして、このグレゴリオ聖歌がクラシック音楽のルーツになるのです。

  1. 私も持っている『グレゴリオ聖歌集大成』(キングレコード、20枚組、非常に詳しい解説書付き)の中の「CD 2:クリスマスの朝課」は、そのごく一部を収めています。
  2. この索引には、ミサ曲に使われる5部分((7) クリスマスに聴きたい音楽 part 2参照)などは含まれていません。インターネットで聖歌を検索できる Global Chant Datebase には、各種の変形版も含めて25000曲近い聖歌が収められているそうです。