オフィクレイドをご存知ですか。以前ご紹介したセルパン((194) セルパンってどんな音?参照)に代わって、あるいは並行して使われた、金属製の低音楽器。ベルリオーズの《幻想交響曲》(1830年、 (173) 幻想交響曲の奇妙さ参照)の第4、5楽章や、メンデルスゾーンの《夏の夜の夢》序曲(1826年、(242) 真夏じゃなかった!? 《真夏の夜の夢》参照)が有名な使用例です。パリの楽器製作者アラリが1817年に考案、1821年に特許を取りました。メンデルスゾーンもベルリオーズも、できたてのほやほやの楽器を使ったことになります。ベルリオーズのカリカチュアにも登場(図右上)。
ギリシア語の ophis(蛇)と kleides(鍵)からの造語であるオフィクレイド。セルパンのようにぐにゃぐにゃ曲がっていませんが、やはり形はユニーク。コントラ・ファゴット、あるいはバリトン・サクソフォーンの金管楽器版という感じ(オフィクレイドがサクソフォーンの開発に役立ったのですから、本当は逆ですが)。リコーダーのようにサイズを変えて作られました。最も多く用いられたのはバス。C管で2.47m、セルパンの2.44mとほとんど同じ長さですね1。
U字型をした太めの円錐状の管の先に、ゆるやかに広がるベル。曲がりくねった細い管の先に、トロンボーンのようなカップ型マウスピース。管にはサクソフォーンのような(しつこいようですが、本当は逆。サクソフォーンが受け継ぎました)大きなキーが9〜12個(多くは11)。最もベル寄りの音孔のみオープン・キー(=押すと閉じる)で、残りはクローズド・キー。1番大きな孔を塞ぐことで、基音(B管ならB)より半音低い最低音が出ます。音域は約3オクターヴ。
オフィクレイドの音は、セルパン(や、その改良楽器バス・ホルンなど)よりも力強くクリア。ただ、ベルから遠い位置にある音孔を開けて出す音は、響きが貧弱なのが欠点です2。倍音を出すために強く吹くと音程が悪くなることも。動画の3重奏を聴くと、確かに現在の金管楽器のパワフルな音とは比べものになりませんし、第一そんなに低くない。でも、柔らかくてなんだか懐かしい響きですね。その後、ヴァルブを備えたテューバに取って代わられますが、フランスではオーケストラや軍楽隊、吹奏楽で1870年以降まで、スペインの教会やイタリアの村の楽隊では、20世紀まで使われたそうです3。