28. 9月 2016 · (291) 《ロマンティッシェ》第3楽章トリオの「手回し風琴」とは? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

前回のコラム((290) 標題「ロマンティッシェ(ロマンティック)」について)で、ブルックナー本人が第4番交響曲の標題について、友人に説明している手紙を紹介しました。「トリオでは森での昼食の間に手回し風琴が奏される様子」と書いてありましたね。この、手回し風琴とは何か、ご存知ですか? 「風琴」ならオルガン、「手風琴」ならアコーディオンですが。

答えは、ハーディ・ガーディ hurdy-gurdy。と聞いて楽器を思い浮かべることができる方は、少ないのでは? 音を聴いたことがある方は、ほとんどいないかもしれませんね。実は私も、この夏ブリュッセルの楽器博物館で、展示楽器の音を聴くために貸し出されたヘッドフォンで初めてしみじみ聴いてきました。

楽器の形が不思議(図1)。事典には「鍵盤付きの擦弦楽器の一種」と書いてあります1。鍵盤って、どこ? 擦弦って、弓はどこにあるの?

図1:ギター型ハーディ・ガーディ、18世紀半ば、Germanic National Museum in Nuremberg

図1:ギター型ハーディ・ガーディ、18世紀半ば、Germanic National Museum、Nuremberg

ギターやリュートのような形をしたものが多く、リュートのように膝の上に横に置いて(あるいはフォーク・ギターのように首から下げて)演奏します。楽器から突き出たハンドル(図1左側)を右手で回すと、カバーの下の木の円盤が回転。この円盤に松ヤニが塗られていて、上に張られた弦を擦って音を出します。だから「手回し」風琴。響板上に固定された箱の中にあるメロディー弦は、通常2本。同音に調弦され、左手で鍵(一列に並んだ白い四角)を押してピッチを変え、メロディーを演奏します。

この他に、ドローン(持続低音)弦が2〜4本、箱の両側に張られます(手前に2本見えますね)。5度調弦が基本で、曲に合わない音の弦を引っ掛けて、音を止めておくこともできます。また、1番高い音のドローン弦にはうなりを出す仕掛けが付いていて、ハンドルをたくさん回して円盤を早く回転させると、ブーンとかギーというような金属的なうなりが生じます。

大型のハーディ・ガーディ(オルガニストルム)は、ゴシック時代に多くの修道院や教会で、音楽を教えたり、多声宗教曲を演奏したり、歌手に正しい節回しを教えるために使われました2。オルガンにその地位を奪われた後、小型化されて民俗楽器に転化3。ドローンと聞くと、バグパイプのような民俗楽器を思い浮かべますが、「ヨーロッパに現れる前に東洋で使われた証拠となる資料は無い」そうです4

これ1つでメロディーと伴奏和音(?!)を演奏できますから、狩りの合間に楽しむレントラーの伴奏に、もってこい。レントラーは18世紀末、オーストリアや南ドイツなどで人気があった、ゆっくりした3拍子の民族舞踏(映画『サウンド・オブ・ミュージック』でも、マリアとトラップ大佐がテラスで踊るシーンがありますね)。《ロマンティッシェ》第3楽章トリオでは、3度も加わった持続和音が弦楽器によって静かに演奏され、素朴で温かみのある雰囲気を醸し出しています。

レントラーとかなり趣が異なる、Matthias Loibner 演奏の動画です。彼のリュート型ハーディ・ガーディは、弦の数が多いようですね。ソのドローンがずっと響いています5

  1. 江波口昭「ハーディ・ガーディ」『音楽大事典4』平凡社、1982年、1898ページ。
  2. Baines, Francis, Edmund A. Bowles / Robert A. Green, ‘Hurdy-gurdy,’ The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 11, Macmillan, 2001, p. 878.
  3. 江波口昭、前掲書、1898〜99ページ。
  4. Baines, F. et al., op.cit., p. 878.
  5. https://youtu.be/QHmML7bu-iM
14. 9月 2016 · (290) 標題「ロマンティッシェ(ロマンティック)」について はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

インターネット上のフリー百科事典「ウィキペディア」。必要な情報を手軽に得られるので、私もよく閲覧します。しかし、以前から指摘しているように、少なくとも西洋音楽関係の記事(article)に関しては、注意が必要ですよ。例えば、ブルックナーの交響曲第4番。概要に続く「副題について」という部分に:

副題は原語では「Die Romantische」である。しかしこの副題は出版されている譜面には添えられていない点に注意しなければならず、ブルックナー自身が「Die Romantische」という標題を付けたかは分からない。(以下略)

でも実際には、《ロマンティッシェ》という形容詞はブルックナー自身が、1874年の初稿の段階からすでに用いているのです(譜例1参照)。なぜウィキペディアには逆が書いてあるのかな??

譜例1:ブルックナー:交響曲第4番終楽章1874年稿自筆譜(A-Wn, Mus.Hs.6082)タイトルページ

譜例1:ブルックナー:交響曲第4番1874年稿自筆譜(A-Wn, Mus.Hs.6082)タイトルページ

この第4番交響曲でブルックナーが表そうとしたことの手がかりは、「ロマンティックな」という形容詞だけではありません。例えば、1878年にこの曲を改訂する際、ブルックナーが評論家タッペルトに宛てた10月9日付の手紙によると1

私は今第4、ロマンティッシェ交響曲(1、2、4楽章)を、まったく新しく、そして短く書き直しました。これでこの曲は十分な効果を発揮することでしょう。新しいスケルツォだけはまだ出来ていません。これは狩を描写します。またトリオは、狩人たちの前で食事の間に演じられる舞曲を示すものです。

興味深いのは、作曲後かなりたった1890年に、ブルックナーがパウル・ハイゼに宛てた手紙の中の記述。他の人の空想による解釈ではなく作曲者本人が、「ロマンティッシェ」の内容を具体的に説明しているのです(12月22日付)2

ロマンティッシェ第4交響曲は、第1楽章では町の庁舎から一日の始まりを告げるホルンが意図されています。それから生活が展開されます。歌謡的な楽段のテーマは、シジュウカラの「ツィツィペー」という鳴き声です。第2楽章は、歌、祈り、小夜曲。第3は狩りと、トリオでは森での昼食の間に手回し風琴が奏される様子を[描いています]3

音楽との結びつきは明らか。第1楽章のシジュウカラの鳴き声は、ヴァイオリンによる第2主題の対旋律((280) 主題が3つII? ブルックナーのソナタ形式参照)。ウィリアムソンによると第2楽章の3つは4

  • 歌:3小節目からのチェロの第1主題
  • 祈り:練習番号B(25小節)からの弦楽器のコラール風部分
  • 小夜曲:練習番号C(51小節)からのヴィオラの第2主題((285) ヴィオラの出番!!参照)5

このような標題的な要素はいずれも、この「ロマンティッシェ」交響曲の雰囲気や状況と矛盾せず、解釈の助けとなっています。また、ブルックナーが第3楽章スケルツォを作曲する前に、その標題について触れている(上記1つ目の引用)ことも重要。標題は、曲が完成してから後付されるものではなく、予め定められそれに沿って作曲されるものだからです。全体の内容を示す説明は添えられていないものの、第4番交響曲は標題音楽に近い性格を持っていると言えます。

最近のアマチュア演奏会のプログラム解説は、ネットの情報を使ったものが多いようですが、西洋音楽に関してはウイキペディア日本語版は要注意。ネットの情報を使うなら、最低限、署名入りのものを6。来週のコラムは、都合によりお休みさせていただきます。

  1. 根岸一美「ブルックナーの交響曲における標題性」根岸一美&渡辺裕編『ブルックナー/マーラー事典』東京書籍、1998、280ページ。
  2. 前掲書、281ページ。これとよく似た標題内容が、1884年12月8日付でヘルマン・レーヴィ宛てにも書かれているそうです。
  3. 文中の手回し風琴については、(291) 《ロマンティッシェ》第3楽章トリオの「手回し風琴」とは?をご覧ください。2016/9/28 追記。
  4. Williamson, John, ‘Programme symphony and absolute music, Williamson, John, ed., The Camgridge Companion to Bruckner. Cambridge University Press, 2004, p.113.
  5. ウィキペディア日本語版のように、この楽章をロンド形式と捉えることもできますが、私はむしろソナタ形式に近いと考えます。どちらの形式にも当てはめない解釈もあります。
  6. 私パレストリーナのプロフィールは、(0) 聖フィル♥コラム始めますに入れてあります。
20. 7月 2016 · (285) ヴィオラの出番!!《ロマンティッシェ》第2楽章第2主題 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

ブルックナーの交響曲第4番《ロマンティッシェ》第2楽章。1小節のゲネラルパウゼの後、息の長い第2主題が始まります。32小節も続く第2主題の全てを奏でるのは、ヴィオラ1。重要な主題をヴィオラがこれほど長く任されるのは、とても珍しいことです。

良いメロディーをもらうのは、いつもファースト・ヴァイオリンかチェロ。稀にヴィオラが与えられても、チェロなど他の楽器と重ねられます。オーケストラや弦楽四重奏でヴィオラを弾いていたベートーヴェンやシューベルトの音楽でも、ヴィオラは脇役。ブルックナーが《ロマンティッシェ》でこの長い旋律全てをヴィオラだけに与えたのは、単に慣例を重視しなかったからかもしれません。

ヴィオラ奏者が泣いて喜ぶ(?!)主旋律なのに、努力目標が「G線」。最初のソの音は、G線の解放弦の1オクターヴ上。メロディーの最高音は、このソの上のミ♭。再現部では長2度上のラから始まるので(面白い調設定ですね)、最高音はファ。音程は取りにくいし、音は痩せてしまうし、もう必死。

それなのに田部井剛先生ったら、「そんな貧窮問答歌みたいな音で弾かないで」。あまりにも素晴らしい比喩で、みんな大爆笑でした。本番で思い出しちゃったらどうしましょう!?!   笑いをこらえるのは、ハイ・ポジション以上の試練かも(ちなみにこのハイ・ポジ努力目標、練習していると結構はまります)。

ところで私、貧窮問答歌がどんな歌か、とっさに全く思い浮かびませんでした。なぜか「銀も金も玉も」が浮かんで、これじゃないよなと思ったくらい。調べてみたら「銀も金も」と貧窮問答歌、いずれも山上憶良(ちょっとホッとしました)。貧窮問答歌はすごく長く、教科書には意訳が載っていただけだったと思います。万葉集の時代はまだ仮名文字が成立しておらず、「風雑 雨布流欲乃 雨雑 雪布流欲波」と始まることを(ヴィオラとは関係ないけれど)書き添えておきます。

  1. 私はこの楽章を、ロンド形式よりもむしろソナタ形式と考えます。
15. 6月 2016 · (282) ブルックナー・リズムの元?? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

ブルックナーと言えば、2+3のブルックナー・リズム。4/4拍子の1小節の前半に4分音符2つ、後半(の4分音符2つ分)に3連符を入れるリズム(3連符が先の3+2の場合も)。4分音符5つのうち、後の3つが前の2つより1/3拍ずつ短い。タンタンタタタとタンタンターターターの中間だから、タンタンタ-タ-タ- かな。

交響曲第4番《ロマンティッシェ》にも、た〜くさん出てきます。第1楽章では第1主題の後(43小節〜)や、第3主題(練習番号D)。第3楽章のスケルツォ主題も。ここは2/4拍子なので、8分音符のブルックナー・リズム、しかもアウフタクト付きです。終楽章の序奏部後半では、このスケルツォ主題をホルンが回想。29小節から4分音符、35小節からは8分音符のブルックナー・リズムの掛け合いがみられます1

見た途端、聴いた途端にブルックナーだ!とわかるこのリズム。いつ、どうやって思いついたのか知りませんが、もしかしたら「元」はこれ? 譜例1をご覧ください(クリックで拡大します)。

譜例1:ブルックナー《ロマンティッシュ》終楽章1874年稿自筆譜(W-An, Mus.Hs.6082)

譜例1. ブルックナー:交響曲第4番終楽章1874年稿自筆譜(A-Wn, Mus.Hs.6082)603小節〜

《ロマンティッシェ》終楽章コーダ、自筆譜の1ページです。上から3段(フルート、オーボエ、クラリネット)と、1段(ファゴット)おいた5、6段目(ホルン)。1小節に四分音符が5つずつ。おおお、ここにもブルックナー・リズム!??   あれれ、上に5、5、5と書いてあります。つまり、これは5連符!

5連符なんて知らない!と言われそうですが、これは1874年作曲の第1稿。上3段は、繰り返し記号の小節もやはり5連符。下5段の弦楽器(うわぁ、ヴィオラが「III」と略されている!!! サード・ヴァイオリン?? アルト記号の記譜ですが)は16分音符と8分音符。割り切れな〜い。演奏が大変そう。

譜例2:ブルックナー《ロマンティッシュ》終楽章1878年2稿自筆譜(W-An, Mus.Hs.19476)

譜例2. 同上1878年稿自筆譜 (W-An, Mus.Hs.3177, Band 3) 468小節〜

譜例2は、1878年に改訂した終楽章(”Volksfest”)。5連符は無くなっています。上から3段(フルート、オーボエ、クラリネット)は四分音符と八分音符のタンタカタンタン。次の3段(ファゴットとホルン)をとばして、上から7、8段目(トランペット)は3+2のブルックナー・リズムですね。タ-タ-タ-タンタンとタンタカタンタンが、同時進行。

さらに、その下の段(なぜかここにティンパニ)をとばした次の3段(10〜11段目のトロンボーンと12段目のテューバ)を見ると……。この小節にも音符が5つ。でも、さっきと逆の2+3!! ということは、2種類のブルックナー・リズム、タ-タ-タ-タンタンとタンタンタ-タ-タ-が同時進行。演奏は5連符よりずっと楽ですが、タンタカタンタンも重なって何だかわからない。まだ5連符に未練がある?2

1880年稿の終楽章(譜例3、ハース版)では、前半の3連符と後半の3連符のみ採用され、6連符に。5連符もダブルのブルックナー・リズムも無くなって、すっきり。演奏はとても楽になりました。ただ、紆余曲折の痕跡が全く残っていなくて、何だかちょっと残念な気もしますね(来週の聖フィル♥コラムはお休みさせていただきます)。

譜例3:ブルックナー交響曲第4番終楽章1880年稿自筆譜 (W-An, Mus.Hs.19476) 537小節〜

譜例3. 同上1880年稿自筆譜 (W-An, Mus.Hs.19476) 537小節〜

  1. さらに39小節からは3+2と2+3のブルックナー・リズムが重ねて用いられています。
  2. 金子建志『ブルックナーの交響曲』音楽之友社、1994年、129ページ。

コラールと言われたらみなさんは、ブラームスの交響曲第1番終楽章、序奏部のトロンボーン(とファゴット族)3重奏を思い浮かべるでしょうか。あるいはブルックナーの、たとえば第4番《ロマンティッシュ》第1楽章展開部終盤で、トランペット&トロンボーン&テューバがffで吹き鳴らすところ(305小節〜)? 第5番終楽章には、ブルックナーご本人が「コラール」と書き込んだ部分(583小節〜)もありますね。

でも、このようなコラールは正確には「コラール風」(あるいは「コラール的」)楽節。本物のコラールではありません(このようにな「コラール風」もコラールと呼ぶことがあるのでややこしいのですが)。

譜例1:J. S. バッハ:カンタータ BWV 140《目覚めよと呼ぶ声が聞こえ》より終曲(第3節)

譜例1:J. S. バッハ:カンタータ BWV 140《目覚めよと呼ぶ声が聞こえ》より終曲(第3節)

バッハの声楽作品に詳しい方は、本物をご存知ですよね。コラールは、ルター派プロテスタントの賛美歌。4声体のホモフォニーの形で(譜例1参照)、教会カンタータや受難曲の核になっています。上記「コラール風」楽節の元ですね。ただこれは、いわば成長した大人のコラール。もともとはモノフォニー(単旋律)でした。

カトリックの典礼音楽の歌詞は、聖職者以外は理解できないラテン語。聖歌隊が歌うお経のようなグレゴリオ聖歌や、複雑で難しいポリフォニーを、意味もわからずありがたく拝聴しているだけ。

宗教改革者マルティン・ルター(1483〜1546)は、「会衆を礼拝に積極的に参加させようとする意図から歌唱による祈願や賛美を重視」1。みんなで歌うには、母国語であるドイツ語の歌詞の曲が必要と考えました。単旋律なら、楽譜を読めない人も聞き覚えて歌えます。無伴奏のユニゾンで歌われたこのような曲は初め、geistliche Lieder(宗教的な歌)とか christliche Gesäng(キリスト教の歌)と呼ばれていました2(グレゴリオ聖歌の旋律を指す「コラール」という語で呼ばれるようになったのは、16世紀後半)。

1524年にヨハン・ヴァルター(1496〜1570)がヴィッテンベルクで、聖歌隊用に3〜5声に編曲した Geystliches Gesangk Buchleyn を出版(図1参照)。宗教改革の発端となった、ルターの「95か条の論題」発表から、わずから7年という早さに驚かされますが、考えてみると聖歌隊は、ついこの前まで壮麗なポリフォニーの宗教曲を歌っていた(し、信者たちだって、歌詞の意味はわからないながら聞いていた)のですからね。旋律1本を斉唱するだけでは、音楽的におもしろくなかったのでしょう。

図1:Johann Walter, Geystliches Gesangk Büchleyn, Titelpage, Wittenberg, 1524

図1:Johann Walter, Geystliches Gesangk Büchleyn, Titelpage, Wittenberg, 1524

ルターの序文が付いたこの最初の賛美歌集には、32の聖歌の詩用の35の旋律が、38種類に編曲されて収められています。カトリックの宗教曲のような複雑なポリフォニー様式と、旋律と同じ動きで和音を連ねる(より新しい)和弦様式の、2種類の編曲法が使われました。後者が、大人のコラールの出発点。

ただ、譜例1のようにコラール旋律がソプラノに置かれたのは、ルーカス・オジアンダー(1534〜1604)が1586年にニュルンベルクで出版した Fünffzig geistliche Lieder und Psalmen から3。ヴァルターの賛美歌集では、多声作品における最重要声部テノール((85) アルトは高い参照)に、主旋律が置かれていました。

まとめ:ルター派プロテスタントの賛美歌であるコラールは、もともとモノフォニーだった。4声体の編曲では、しばらく内声に置かれていた。バッハがカンタータの中で用いたような大人のコラールになってからも、そのまま引用した場合(たとえばメンデルスゾーンの通称「宗教改革」交響曲。(257) メンデルスゾーンが作った交響曲はいくつ?参照)以外、「コラール風」と呼ぶのが正しい。

来週のコラム更新はお休みさせていただきます。

  1. 辻荘一「コラール」『音楽大事典2』平凡社、1982、938ページ。
  2. Marshall, Robert L. / Leaber, Robin A., ‘Chorale,’ New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 5. Macmillan, 2001, p. 737.
  3. Marshall, Robert L. / Leaber, Robin A., ‘Chorale settings,’ New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 5. Macmillan, 2001, p. 748.
18. 5月 2016 · (280) 主題が3つ!!? ブルックナーのソナタ形式 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , ,

ブルックナーの交響曲は、第1楽章:ソナタ形式、第2楽章:歌謡的な緩徐楽章、第3楽章:スケルツォとトリオ、そして第4楽章:ソナタ形式の4楽章構成。第8番で緩徐楽章とスケルツォの順番を入れ替えた以外、全部同じです。ブラームスのように、終楽章で突然パッサカリアを使ったりしません(でも、あのパッサカリアもソナタ形式の枠内で作られていましたね。(251) ただのパッサカリアではない!参照)。

ブルックナーのソナタ形式と言えば、3主題ソナタ形式。2連符と3連符を組み合わせた「ブルックナー・リズム」や、ベートーヴェンの《第九》から影響を受けた「ブルックナー・オープニング」と並んで有名です。ソナタ形式は通常、性格が異なる2つの主題で構成しますが、ブルックナーは主題を3つも使うのです(主題1つなら単一主題ソナタ形式。モーツァルトの例は(189) 第1主題=第2主題!?のソナタ形式参照)。

第4番《ロマンティッシェ》第1楽章(第2稿)の場合、第1主題は冒頭のホルン独奏(主調=変ホ長調、譜例参照)、第2主題はヴァイオリンによる「シジュウカラのツィツィペーという鳴き声」を伴うヴィオラの旋律(変ニ長調、練習番号B)、第3主題は弦楽器ユニゾンのアルペジオ上で、ホルンやテューバなどがブルックナー・リズムで下降する旋律(D5度上の変ロ長調、D)。

譜例:ブルックナー作曲 交響曲第4番 第1楽章の3主題

譜例:ブルックナー作曲 交響曲第4番 第1楽章の3主題

展開部(G)の後、Mから第1主題がフルートのしみじみとした対旋律とともに、主調で再現されます。第2主題はOの3小節目から、なんとシャープが5つ必要なロ長調で登場。フラット3つの主調から、ものすごく遠い調です。第3主題は、Qからお約束通り主調で再現。Sからコーダ。長いクレッシェンドの頂点でホルンが第1主題の5度動機を高らかに吹き、第1楽章終了。

3つの主題のうち、第1主題は主調で提示&再現、第3主題は主調の5度上の属調で提示され、主調で再現されています。ということは、通常のソナタ形式の2主題と同じ関係。ここでは第3主題が、従来の第2主題にあたるようですね(表参照。(88) さらに刺激的(!?)により再掲)。

表:ベートーヴェン以降のソナタ形式

表:ベートーヴェン以降のソナタ形式

それでは、遠隔調の変ニ長調で提示され、さらに遠いロ長調で再現される第2主題は何に当たるのでしょうか? ソナタ形式の第1主題から第2主題へ移る部分は「推移」と呼ばれます。例えば長調の曲の提示部では、主調で第1主題を提示した後、第2主題を出す前に属調まで転調し、新しい調で落ち着かなければなりません。ソナチネのような小曲であれば、推移の部分はほんの数小節。でも、規模が大きいと推移も長くなり、その部分の旋律が第1主題に対抗しうる独自の性格を持つ「主題」に昇格(!?!)したわけです。

ブルックナーのソナタ形式は、提示部の主題部間に推移の部分がほとんど無いと言われますが、こんな事情があったのですね。使い古されたソナタ形式の枠組みを守りながら、新しい要素を組み込んだブルックナー。《ロマンティッシェ》終楽章では、第1主題を主調の変ホ短調(P)、第2主題をかなり遠いニ長調(S)で再現。第3主題の再現は省略して、コーダ(V)に進んでいます。

都合により、来週のコラムはお休みします。

11. 5月 2016 · (279) ブルックナー音楽史クイズ はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

次回第15回の聖フィル定期演奏会では、アントン・ブルックナーの交響曲第4番を取り上げます。皆さんはブルックナーの音楽、お好きですか? マニアックなファンが多い一方で、よく知らない、あるいはわからないという人もかなりいますよね。確かに、同じロマン派のブラームスやチャイコフスキー、ショパンやヴェルディに比べると、少し(かなり?!)地味な存在かもしれません。

私自身はブルックナー、実は結構好きです。西洋音楽史でブルックナーを講義するときは、つい張り切ってしまいます。多くの音大生にとって、その講義がブルックナー・デビュー(ピアノ科の学生なら、最初で最後のブルックナー体験になる可能性も)。独特の響きや構成に興味を持ってもらいたいと思いながら、交響曲を中心に説明します。

音楽史ではまず、歴史におけるその作曲家の立ち位置を理解することが重要です。というわけで、ブルックナーがお好きな方も嫌いな方も(どうでもいい方も)、まずは基本を押さえておきましょう。突然ですがここで質問です。ブルックナーとブラームスは、どちらが先に生まれたでしょうか?

ブルックナー・ファンでも、とっさに答えられないのでは? 保守的な作りや響きを思い出して、ブラームスと答えたくなりませんか? でも、正解は1824年に生まれたブルックナー。19世紀が1/3終わった1833年に生まれたブラームスの方が、9歳も年下です。ちょっと意外ですよね。次、亡くなったのはどちらが先? これもブルックナーですが、こちらは1年違い。ブルックナーは1896年、ブラームスは1897年に、ウィーンで没しました。独身で生涯を終えたのも、共通しています。

もうひとつ押さえておきたいのが、ブルックナーとマーラーの年関係です。ブルックナーの方がもちろん年上ですが、マーラーと何歳くらい違うでしょうか? 2人とも交響曲作曲家として重要。しかも、どちらも編成が大きく演奏時間が長い交響曲を書いていますから、つい一括りにしたくなりますが……。

マーラーは1860年生まれ。ブルックナーとマーラーは36歳、一世代以上も年が違うのです。シューベルト(1797年生まれ)とブラームス(1833年生まれ)が同じく36歳差。ベートーヴェン(1770年生まれ)とメンデルスゾーン(1809年生まれ)が39歳差。それぞれの音楽は、互いにかなり異なりますよね。現代に近づくほど時代の動きが早くなってきているとは言え、36年は決して小さな差ではありません。

「19世紀後半の最も革新的な人物の一人」と評されるブルックナーは、ベートーヴェンの第九交響曲が初演された1824年生まれ1。スメタナと同い年で、ブラームスよりも9歳、マーラーよりも36歳年上。新しい響きと規模の大きさに惑わされがちですが、ロマン派の中では結構早く生まれた作曲家なのです。

  1. Hawkshaw, Paul, ‘Bruckner,’ New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 4. Macmillan, 2001, p.  458.