20. 8月 2014 · (199) 3拍子で始まる協奏曲 はコメントを受け付けていません · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

練習中は、2分音符=140なんて(まだ)速すぎる〜!とか、付点型に16分休符入れたり入れなかったりする意図は〜?とか、いろいろ考えながら弾くだけで十分忙しいのに、田部井剛先生からまた((195) ウクライナと音楽参照)質問が飛んで来ました。ブラームスに3拍子の曲が多いのはなぜか? 次回定期で演奏するブラームスのヴァイオリン協奏曲第1楽章も3拍子です。というわけで、今回は協奏曲の拍子について。

初めに質問です。モーツァルトの50曲近い協奏曲の中で、3拍子で始まる曲はいくつあるでしょう??

難しい問題でしょう! フルート協奏曲やクラリネット協奏曲など、有名どころ(!?)は3拍子ではない。ピアノ協奏曲はたくさんありすぎて、何がなんだか……。答えは3つ。ピアノ協奏曲第11番ヘ長調、同第14番変ホ長調、同第24番ハ短調、これだけです。ベートーヴェンの協奏曲(ピアノ5、ヴァイオリン1、トリプル1)には、3拍子で始まる曲はありません。ハイドンの代表的な協奏曲(チェンバロ1、ヴァイオリン3、チェロ2、トランペット1)も同様。3人とも、ほとんどの第1楽章を4/4拍子で作曲しています1

既に書いたように、西洋音楽の歴史においてまず生まれたのは、完全分割である3分割でした((110) 3分割から始まった!参照。たとえて言うと、全音符1つが2分音符3つ分)。でも、14世紀に2分割が(も)可能になると、こちらが主流に。ルネサンス時代を通じて3分割は、大規模な曲の中の、あるいは1曲の中の、三位一体に関連する歌詞の部分など、特別な部分や強調する部分を中心に使われました。

バロック時代も、2分割つまり2拍子4拍子が中心。ヴィヴァルディは第1楽章が3拍子の協奏曲も書いていますが、『調和の霊感』作品3の12曲中3曲、有名な《四季》が含まれる『和声と創意の試み』作品8でも、同じく12曲中3曲のみ。バロック組曲の定型に含まれる、スペイン起源の緩やかな3拍子の舞曲サラバンドのように、音楽に多様さやコントラストを与える意味合いが強かったのではないでしょうか。

古典派協奏曲では3拍子で始まる割合がさらに低くなるのは、上に書いたとおりです。秩序や調和、均衡が重視された古典派時代。不安定な3拍子よりも、どっしり落ち着きの良い2拍子系(特に4拍子)が多用されたのでしょう。ロマン派で3拍子の割合が高くなったのは、その反動とも考えられます。ブラームスのヴァイオリン協奏曲以外にも、ショパンのピアノ協奏曲第1番や、聖フィルでも演奏したチャイコフスキーのピアノ協奏曲の第1楽章が3拍子。ヴェーバーのクラリネット協奏曲第1番やクラリネットのためのコンチェルティーノ、サン=サーンスのピアノ協奏曲第5番、チェロ交響曲第2番なども。

ブラームスは6/4拍子で始まる協奏曲も作っていますね(ピアノ協奏曲第1番)。珍しい選択です。今回参考にした名曲解説全集の協奏曲 IIに収められた(カール・シュターミツのフルート協奏曲から、ヴォーン=ウィリアムズのテューバ協奏曲までの)113曲中、6/4で始まるのはこの1曲だけ2。6/8、9/8、12/8拍子の第1楽章が少ないのは、終楽章で使われる拍子だから避けたと考えられますが、6/4はさらに異質3。ブラームスが4拍子で作ったのは、ピアノの第2番とドッペルの2曲ですね。

  1. ハイドンには2/4拍子で始まる協奏曲が1つ、モーツァルトとベートーヴェンは2/2拍子が1つずつ。
  2. 『名曲解説全集9 協奏曲 II』音楽之友社、1980。
  3. 前掲書の中で、8/12拍子で始まる協奏曲は3曲(パガニーニ、ラロ、ピエルネ)、9/8拍子が1曲(エルガー)、6/8拍子で始まるのはマクダウエルのピアノ協奏曲第2番だけでした。

前回のヨハン・シュトラウスは人気者に対して、音楽の感じが違うので、ブラームスがシュトラウスを高く評価したというのがピンと来ないというコメントをいただきました。確かに、昨年聖フィルも演奏したブラ1とウィンナ・ワルツは、似ても似つかないかもしれませんね。今回はブラームスを中心にヨハン・シュトラウス2世と同時代の音楽家たちについて補足しながら、2人の音楽を考えたいと思います。

リストやヴァーグナーの進歩的な楽器法を取り入れたワルツや、ウィーンでは初め受け入れられなかったヴェルディの、オペラの旋律を使った作品を書いたシュトラウス1。先に敬意を表された彼らが、シュトラウスを評価したのは当然でしょう。他にも、オペラ作曲家レオンカヴァッロや、同じ名字ですが血縁関係はないリヒャルト・シュトラウス、指揮者ハンス・フォン・ビューロー、ロシアのピアニストでサンクトペテルブルク音楽院の創立者アントン・ルビンシテインなど錚々たる人々が、シュトラウス2世の音楽性を賞賛しています。

でも、極めつけはブラームス。シュトラウスの代表作のひとつであるワルツ《美しく青きドナウ》の一節を書いて、「残念ながらブラームスの作品にあらず」と書き添えたというエピソードは有名です。もっともこれは、シュトラウス2世の(3番目の)奥さんアデーレにサインを求められたブラームスが、彼女の扇に書いたもの2。ブラームスは、高級保養地バート・イシュルで夏を過ごすことが多かったのですが、お隣がヨハン・シュトラウス2世だったそうです。図1は、そこで撮られた写真。シュトラウスは1825年、ブラームスは1833年生まれですが、ブラームスの方が年上に見えませんか?

図1 バート・イシュルでのヨハン・シュトラウス2世とブラームス、1894年

図1 バート・イシュルでのヨハン・シュトラウス2世とブラームス、1894年

ところで、この2人の音楽は本当に大きく異なるのでしょうか。確かにヨハン・シュトラウス2世は、オペレッタも含め娯楽音楽の作曲家。ブラームスのような宗教曲や交響曲などは作っていません。でも、大衆のために量産した小品にもかかわらず、現在までレパートリーとして残っているものがたくさんあります。それぞれの曲からあふれる、品が良く新鮮で親しみやすいメロディーが、時代を超える魅力の元になっていると感じます。

ブラームスの音楽というと無骨な印象があるかもしれません。しかし、彼もロマン派時代の作曲家。常に歌謡性や旋律性を追求していました。歌曲もたくさん作っていますし、4つの交響曲においては、メヌエットでもスケルツォでもない独特の世界を持つ第3楽章に、旋律重視の姿勢がよく現われています。歩む道、取り組むジャンルが異なっていも、ブラームスは、稀代のメロディー・メーカーであるヨハン・シュトラウス2世の音楽センスを尊敬していたのでしょうね。

  1. Kemp, Peter, “Johann Strauss (ii)” New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 24  (Macmillan, 2001), p. 481。前者はopp. 141, 146など。その前年、良い批評をもらっていたウィーン音楽界の大御所、辛口評論家のハンスリックに「新しいワルツのレクイエム」と退けられました。後者はopp. 112, 272などのカドリーユ。
  2. でも、このエピソードは単なる奥さんへのサービスではありません。ブラームスは、シュトラウス2世のオペレッタ《ヴァルトマイスター(ドイツでポピュラーなハーブの名前)》の初演(1895年)について、ハンスリックに「シュトラウスの見事なオーケストレーションは、モーツァルトを思い出させた」と伝えました。
27. 12月 2010 · (8) 三大ヴァイオリン協奏曲雑感 はコメントを受け付けていません · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , ,

最も人気のあるヴァイオリン協奏曲と言えば、やはりメンデルスゾーン。曲の開始直後に独奏ヴァイオリンが歌い始める、哀愁を帯びた第一主題、ぞくぞくしますよね。前回の演奏会で聖フィルが有森先生と共演させていただいた第1番のピアノ協奏曲を含め、メンデルスゾーンは他にも協奏曲を作曲しているのに、メンデルスゾーンの協奏曲と言えばこのヴァイオリン協奏曲。『メンコン(メンデルスゾーンのコンチェルト=協奏曲)』と呼ばれています。

でも最近、三大ヴァイオリン協奏曲の中にメンデルスゾーンが含まれているのを見ると、ちょっと待って!と言いたくなります。なぜなら、三大ヴァイオリン協奏曲は

  • ベートーヴェン
  • ブラームス
  • チャイコフスキー

のコンチェルトだったはずです。この3人は、生涯に1曲しかヴァイオリン協奏曲を作曲していません。また、それらがすべてニ長調であることも共通しています。

3人がニ長調でヴァイオリン協奏曲を作ったのは、単なる偶然ではありません。シャープが2つ付くニ長調は、ヴァイオリンの解放弦(そ、れ、ら、み)を全て含んでいて演奏しやすく、しかも倍音が最も豊かに響くため、ヴァイオリン協奏曲に最適なのです。

個人的には、メンコンも含めるのなら、チャイコフスキーを省いたりせずに、四大ヴァイオリン協奏曲と言ってほしいなあと思います。

ちなみに、メンデルスゾーンが選んだシャープ1つのホ短調やト長調、シャープ3つのホ長調も、ヴァイオリン協奏曲の調として良く使われます。逆にフラット系は、ヴァイオリンにはあまりありがたくないのですが、フラット1つのニ短調は、ラロの《スペイン交響曲》(タイトルは交響曲ですが、実際にはヴァイオリン協奏曲)や、シベリウスの協奏曲などに使われています。ニ短調で始まっても、終楽章をヴァイオリンに最適なニ長調で締めくくれるからでしょう。

ブルッフの1番のようなフラット2つの調のヴァイオリン協奏曲は、(モーツァルトの1番などの例もありますが)かなり珍しいと言えます。でもブルッフも、ト短調で始まった1番の3楽章をシャープ系のト長調で作曲し、華やかに締めくくっています。ヴァイオリンが響きやすいとは言えないフラット系を使った前半とのコントラストが、見事ですね。