11. 11月 2015 · (259) フルートは横笛ではなかった!? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

前回 (258) サルタレッロってどんな音楽?でご紹介した最初の動画、中世のサルタレッロ演奏の団体名は、Flauto dolce でした。フラウト・ドルチェ(イタリア語。直訳すると甘いフルート)が楽器名であることと、でもフルートではないことをご存じですか? フルートはイタリア語でフラウトですが、フラウトが必ずしも現在のフルートとは限りません。

フラウト、あるいは複数形でフラウティと書いてあったら、それは横笛ではなく縦笛。リコーダーです(動画でも、縦笛が活躍しています)。フラウト・ドルチェ、フラウト・ア・ベッコ(flauto a becco 筒口フルート)、フラウト・ディリット(flauto diritto まっすぐのフルート)などと記されることもありました。ドイツ語ではブロックフレーテ blockföte と言いますが、フレーテはフルート(フラウト)。歌口などをブロックのように取り外せる(中学校で吹いたアルト・リコーダーのような)縦笛という意味です1

リコーダーは英語ですね。record はラテン語の recordari に由来する動詞で「覚えている、思い出す」という意味。リコーダーは、中世の吟遊詩人(ミンストラル)のような(昔のことを)覚えている人や物語る人のことで、さらに意味を広げて彼らの楽器にも使われたと考えられます2。リコーダーが楽器として初めて記されたのは、1388年。後にイングランド王ヘンリー4世となるダービー伯の家計記録でした 3

リコーダーは、親指用の穴1つとそれ以外に(通常)7つの指穴を持つ木製楽器。中世に発明され(あるいはヨーロッパに持ち込まれ)、ルネサンス時代は最も一般的な楽器のひとつでした。バロック時代にも引き続き用いられ、バッハも多くのカンタータなどで使用しています。ブランデンブルク協奏曲第2番と第4番では、独奏楽器として活躍しますね。

それでは、横笛の場合はどうしたのか? およそ1735年ころまで、作曲家が横笛を意図するときは必ず、フラウトの後にトラヴェルソと書き加えていました4。traversoは「横の、斜めの」という意味。不自然な構え方(!!)をする楽器が必要なときは、それを明記したのですね。現在フルートと言えば横笛を指しますが、フルート(フラウト)のほとんどの歴史においては、横笛よりも縦笛のほうが支配的だったのです5

  1. 久保田慶一『音楽用語ものしり事典』アルテスパブリッシング、2010、129ページ。
  2. Lasocki, David, ‘Recorder,’ The Grove Dictionary of Music, 2nd ed., 21, Macmillan, 2001, p. 37.
  3. Ibid., p. 38.
  4. Lasocki, David, ‘Flauto,’ The Grove Dictionary of Music, 2nd ed., 8, Macmillan, 2001, p. 928.
  5. Brown, Howard Mayer, Jaap Frank, and Ardal Powell, ‘Flute,’ The Grove Dictionary of Music, 2nd ed., 9, Macmillan, 2001, p. 31.
06. 5月 2015 · (235) 《アルルの女》第2組曲よりメヌエット はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

先週は聖フィル♥コラムをお休みしてごめんなさい。聖光学院管弦楽団 第12回定期演奏会 on 聖光ホームカミングデー本番当日だったからです。聴きに来てくださった方々、どうもありがとうございました。コラム恒例アンコール・シリーズ、今回はビゼー作曲《アルルの女》第2組曲第3曲のメヌエットについて。

フルートの穏やかなメロディーと、ハープのアルペジオ(分散和音)。ゆったりとしていてなんだか満ち足りた気分にさせる曲ですが、《アルルの女》の劇付随音楽として小編成オーケストラ用に作られた27曲(ほんの数小節のものも含めて)には、含まれていません。

1872年10月1日の初演で音楽が複雑過ぎると批判されたビゼーは、すぐに前奏曲、メヌエット(フルート&ハープのメヌエットとは別の曲)、アダージェット、カリオンをフル・オーケストラ用に編曲1。この《アルルの女》管弦楽組曲、翌月に演奏されて大成功します。2匹目のどじょうの(?!)第2組曲は、数年後に(ビゼーが既に亡くなっていたので)友人のエルネスト・ギローが組んだもの。

ギローは《カルメン》の台詞部分をレチタティーヴォに直し、グランド・オペラにした人でしたね((228) 《カルメン》音楽史クイズ参照)。彼は、《アルルの女》のパストラール、間奏曲、ファランドールに、ビゼーのなぜか《美しきペルトの娘》(1866)からメヌエットを加え、第2組曲としました。

《美しきペルト(英語ではパース)の娘》は、ウォルター・スコットの小説にもとづくオペラ。14世紀、スコットランド王国の首都パースが舞台です。カトリーヌ(英語ではキャサリン)とアンリ(ヘンリー)は恋人同士。でも、カトリーヌは美しいジプシー女マブがアンリの部屋から出て来たのを誤解し、アンリはロスシー公爵に言い寄られたカトリーヌが彼に会いに出かけたと誤解し(実は公爵の愛人であるマブの変装)、2人とも相手が不貞を働いたと絶望。アンリは決闘することになるやら、カトリーヌは狂ってしまうやらの紆余曲折の末、ハッピー・エンドに。

メヌエットの原曲は、第3幕でロスシー公爵がカトリーヌ(の変装をしたマブ)と歌う〈やっと二人きりだ Nous voila seuls〉。でもギローは、大事な二重唱のメロディーを省略。あのしっとりしたフルートや堂々とした中間部が対旋律だったなんて、驚きです(原曲を聴くと、歌が邪魔みたいな不思議な感じ……)。

《美しきパースの娘》といえば、〈小さな木の実〉を思い出す方も多いと思います。原曲は、第2幕でアンリがカトリーヌの愛を取り戻そうと歌うセレナード〈誠実な恋人の声に A la voix d’un amant fidèle〉(旋律は、ビゼーの初期のオペラ《ドン・プロコピオ》からの借用。日本語の歌詞は、オペラとは無関係)。セレナードは前奏曲、行進曲、ジプシーの踊りとともに《美しきパースの娘》管弦楽組曲に収められました。ギローは、メヌエットがこの組曲から漏れているのを残念に思って、《アルルの女》第2組曲に入れたのでしょうか?(下の動画では、メヌエットの原曲は1:28:55〜、セレナードの原曲は1:05:50〜と2:21:40〜。字幕はスペイン語)。

  1. MacDonald, Hugo, ‘Bizet,’ New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 3. Macmillan, 2001, p. 646.
14. 8月 2013 · (146) フルートは持ち替えだった:2管編成完成まで はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , ,

オーケストラで楽器の持ち替えと言えば、フルート奏者がピッコロ、オーボエ奏者がイングリッシュ・ホルン(コーラングレ)、クラリネット奏者が E♭クラやバス・クラ、ファゴット奏者がコントラファゴットという具合に、サイズ(→音域)が異る同族楽器の掛け持ちを思い浮かべると思います(ホルン奏者がワーグナーチューバを持ち替えるのは、少し事情が異なりますが)。フルートが持ち替えって、どういうこと??

盛期古典派とそれに続く時期の、標準的なオーケストラ編成の復習から始めましょう。管楽器(特に4種類の木管楽器、フルート・オーボエ・クラリネット・ファゴット)が2つずつなので、日本では専ら2管編成と呼ばれます。典型は:

フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、
ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦

ハイドンがこの編成を使ったのは、最後の第2期ザロモン交響曲群(1794〜95年作曲)だけ。さらに早い1788年に交響曲を書き終えたモーツァルトは、特殊な状況下で作った《パリ》と《ハフナー》交響曲だけしか、2管編成を使うことができませんでした((115) 愛の楽器? クラリネット(2)など参照)。

一方、第1番交響曲(1800年完成)からこの編成を使ったベートーヴェン(やスポンティーニ、メユール、ロッシーニら同時代の作曲家たち)は、変形を始めます。チェロと同じ旋律を演奏していたコントラバスに独自のパートを与え、弦楽4部から弦楽5部へ。また、ホルンを増やしたり(3つ:《エロイカ》、4つ:《第九》)、トロンボーンを加えたり(《運命》《田園》《第九》)しています。

それでは、この編成にたどり着く前はどのような編成だったのでしょうか。初期古典派(1740年代から80年ころ)の標準的なオーケストラ編成は:

オーボエ2、ホルン2、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ファゴット、
鍵盤楽器(チェンバロかオルガン)、オプションでトランペット&ティンパニ

ヴァイオリン1とオーボエ1、ヴァイオリン2とオーボエ2は、多くの場合、同じ旋律を演奏。チェロ、コントラバス、ファゴット、鍵盤楽器の左手は、同じ低音旋律を演奏(チェロとファゴットは、独自の旋律をもらう場合も)。鍵盤楽器の右手は、和音充填を担当((132) 楽譜どおりに演奏しても足りない場合参照)。

この編成は、ヨーロッパ中のイタリア・オペラ劇場、私的・公開コンサート、重要な礼拝、舞踏会などのオーケストラで使われました。特別な機会では弦の数を増やし、管を倍に。また、特殊効果のために例外的に加えられる楽器も(黄泉の国のシーンでトロンボーン、羊飼いのシーンでシャリュモーなど)。逆に低予算の場合、弦楽器は各パート2人、あるいは1人に減らされたそうです1。やがて

ファゴットが独自のパートをもらって独立、管はオーボエ2、ファゴット2、ホルン2に。
フルートが加わり、フルート1、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2に。
フルート2になり、フルート2、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2に。
クラリネット2も加わって、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2に。トランペットやティンパニも必須の楽器になり、盛期古典派の編成が完成!2

初めの疑問に戻って。フルートはいったい何と持ち替えだったのでしょう? 答えはオーボエ。古典派の初期においてフルートは、しばしばオーボエ奏者によって演奏されたのです。この2つの楽器は交換可能で、同時に用いられないのが普通でした。モーツァルトのフルート協奏曲第1番第2楽章で、第1・3楽章のオーボエに代わって使われるフルート。現在ではフルート奏者が演奏しますが、当時はオーボエ奏者がここだけフルートを吹いたのです。交響曲にもこのような例があります(ハイドンの24番など)。

そういえば、エステルハージ公のオーケストラ奏者は、弦楽器と管楽器(と打楽器)など複数の楽器を担当していましたね((105) ハイドンの給料 (1) 表1の13や19参照)。今ではほとんど考えられないオーボエとフルートの持ち替えですが、当時は朝飯前だったのかな?!!

  1. J. Spitzer & N. Zaslaw, ‘Orchestra,’The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 18, Macmillan, 2001, p. 533.
  2. 鍵盤楽器が用いられた時期に関しては、様々な説があります。