07. 5月 2014 · (184) 500年前の楽譜 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

前回、ペトルッチの史上初の活版印刷による楽譜『オデカトンA』をご紹介しました。「端正で美し」いと書いたページを図1として再載。1501年出版=今から約500年前の楽譜を、(82) 1000年前の楽譜でご紹介したネウマ譜と比較してみましょう。

図2:『オデカトンA』より

図1:『オデカトンA』第1曲、デ・オルト作曲《アヴェ・マリア》、カントゥスとテノール

4本だった譜線が、現在と同じ5本に。音域が狭いグレゴリオ聖歌用のネウマ譜は四線で十分ですが、中世でも聖歌以外の音楽には、五線譜が使われていました。それから、ネウマ譜の音符は全て黒色でしたが、こちらには黒い音符と白抜きの音符があります。四角い譜頭だけのネウマ譜と違って、棒(符幹)付きの音符も。譜頭が楕円ではなく四角い(ひし形◇◆も)ものの、全体の印象は現在の楽譜とそれほど変わりません。

この楽譜の音部記号は? 上3段はハ音記号。第2線がドなので、現在のメゾソプラノ記号ですね((139) 実はいろいろ! ハ音記号参照)。下3段は(ちょっと奇妙な形ですが)ヘ音記号。第3線がファなので、現在のバリトン記号。音部記号の右に調号も付いています。♭2つ?! いいえ、上の♭も下の♭もシ。現在と異なり、五線の中にシが2つ含まれていれば両方♭を付けてくれていますので、要注意。

えっ、右側に大きくはみ出た斜めの線が気になる!? これはラテン語で見張り、保護者などの意味の「クストス custos」(複数形は custode)と呼ばれる記号。もっと地味な形でネウマ譜にも使われ、次の段の最初の音を示します。段によって、音部記号の位置が急に変わったりするからでしょう。

現代譜とも較べてみましょう。最大の違いは、小節線が無いことかな。最後に複縦線が引かれているだけですね。このため、楽譜が不正確だと大変。もしも音符が1つでも抜けていると、その声部はその後全部、他の声部の音楽とずれてしまうのです。500年前の音楽は、横に旋律を重ねた複雑なポリフォニーが主流。仮に、歌っていてずれに気づいたとしても、修正は容易ではありません。

もう1つ大きな違いは、レイアウト。このページには、カントゥスとテノールのパートが印刷されています(4段目の左側に、Tenorと書いてありますね)。残りのパートは右頁に印刷され、見開き2ページで1曲分でした。左にカントゥスとテノール、右にアルトととバスというのが典型的なレイアウト。つまり、多声音楽なのに、パートごとに別々に書いてあったのです。500年前の人たちは、小節線が無く、スコアになっていないこのような楽譜を見ながら、アンサンブルしていたのですね。尊敬!

24. 5月 2012 · (82) 1000年前の楽譜、ネウマ譜 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

アマ・オケ奏者のための音楽史第6回は質問から。約1000年前の楽譜に存在しなかったものは?

  1. 小節線
  2. 音部記号(ト音記号など)
  3. 譜線(五線など)

    譜例1:ネウマ譜(イタリア、15世紀)

1000年前は11世紀、中世。クラシック音楽のルーツ、グレゴリオ聖歌が整えられていった時代です((65) グレゴリオ聖歌はいくつあるのか参照)。聖歌が、譜例1のような黒くて四角い「ネウマ」で書かれていたことをご存知の方もおられるでしょう。譜線は4本。聖書の言葉をぼそぼそ唱えているよりも、節をつけて歌った方が神様にも喜ばれるだろうと生まれたグレゴリオ聖歌ですから、歌と言っても音域が狭いのです。4線譜で十分でした。現代でも、グレゴリオ聖歌集はネウマで記されます。

音部記号もありますね。譜例1(クリックで拡大します)の中のAは、ヘ音記号。現在と同様、右側の2つの点に挟まれた線がファですから、右隣のネウマはラ。主の降誕のシーンが細密画で描かれた、大きなPのイニシャルの右側には、現在、ヴィオラの記譜に使われるハ音記号のCが書かれています(B)。Cに挟まれた線がドですから、白い楕円が重なった右隣のネウマはレ(ヘ音記号もハ音記号も、4線のどれにでも付けられます。聖歌の歌い手は男性だったので、ト音記号はありませんでした)。ということは、上の3つのうちで1000年前に存在しなかったのは、小節線だけ?

この黒く四角いネウマは、13世紀ころから一般的になった新しいタイプ。それ以前は、地域によってネウマの形や書き方が異なっていました。譜例2は、1030年頃に南フランスで作られたネウマ譜(聖パウロの日のための聖歌)。ラテン語の祈りの言葉(=歌詞)が小さく書かれた上の、茶色っぽい点々がネウマです。小節線はもちろん、音部記号もありません。だいたい、音部記号を書くにも線が無いし……。

譜例2:ネウマ譜(アクィタニア式記譜法、1030年頃)

あれれ、歌詞と歌詞の間に白っぽい線が見えます(拡大して見てください)。これが、ファを表す譜線。先が尖ったもので、羊皮紙を傷つけてあるのです。よく見ると、まるでこの線の上下に等間隔に線が引かれているかのように、音符の高さが揃っています。これなら、歌うことができますね。というわけで、1000年前の楽譜に存在しなかったのは、小節線と音部記号。もちろん、さらに古い時代には、譜線もありませんでした(譜例3参照)1

私たちが日頃お世話になっている楽譜は、数えきれないほどあるグレゴリオ聖歌の覚え書きとして始まりました。聖歌の歌詞の上に、旋律線を示すような簡単な印(ネウマ)を記し、メロディーを思い出せるようにしたのです。11世紀初めに、譜例2のようにファの譜線が刻まれるようになり、その後、ファの線が赤インクで書かれる→色違いのドの線が加わる→音部記号の導入と進み、正確な音高表記が可能に。四線譜の発明は、グイード・ダレッツィオ((78) ドレミの元参照)に帰せられています。小節線が加わるのは、まだまだ先です。

譜例3:ネウマ譜(ザンクト・ガレン式記譜法、950〜975年)

  1. 譜例1と3に書かれた聖歌は、両方とも、降誕祭のためのアンティフォナ《Puer natus est nobis 我らに幼な子が生まれ給えり》です。