22. 7月 2015 · (246) テューバのご先祖様その3、チンバッソ はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

先日、聖フィル仲間に「セルパン((194) セルパンってどんな音?)、オフィクレイド((243) オフィクレイドってどんな音?)と来たら、次はチンバッソ? 10月の定演、《運命の力》だし」と聞かれました1。チンバッソって、ジュゼッペ・ヴェルディのオペラに使われている低音楽器ですよね。でも、名前しか知りません。どんな形!?  名前の由来は!? あわてて調べてみました。

図1:チンバッソ(コントラバス・ヴァルヴ・トロンボーン)

図1:チンバッソ(ヴァルヴ付きコントラバス・トロンボーン)

チンバッソはトロンボーン族の低音金管楽器(図1参照)。G. C. ペリッティ(1837〜1903)が、ヴェルディのリクエストに応じて1881年に作りました。B♭管で、正式名は「トロンボーネ・バッソ・ヴェルディ trombone basso Verdi」(実際はバスではなくコントラバス・トロンボーンですが)。ヴェルディは彼のオペラ26作品((245)《運命の力》は何番目? ヴェルディのオペラ参照)のうち、1881年以降の2作《オテッロ》(1887)と《ファルスタッフ》(1893)で、この楽器を使っています。

この後イタリアでは、ほとんど全てのオーケストラにチンバッソが急速に普及。1881年以前に作られた曲の低音パートも、この「トロンボーネ・バッソ・ヴェルディ」が使われるように。1920年代にイタリアでもバス・テューバが採用されますが、チンバッソは20世紀後半まで使われ続けました。

ここで、「ヴェルディのオペラって、最後の2作品以外にもチンバッソ・パートがあるのに??」と思った方、鋭い! それは別のチンバッソ。チンバッソという用語、19世紀イタリアで、複数の低音楽器を指していたのです。

図2:19世紀初めのチンバッソ

図2:19世紀初めのチンバッソ

図2は、19世紀初期にチンバッソと呼ばれていたイタリア特有の楽器。木製の、まっすぐなセルパンの一種。金属製の大きく広がったベルと、1〜4個のキーが付いています。チンバッソ cimbasso の名は corno in basso(低音の角笛、バス・ホルン)の省略形(c. in basso)に由来すると考えられ、simbasso、gimbasso などと綴られることもありました2。ミラノのスカラ座で、1816年にセルパンに代わって使われたとシュポーアが記しています。最初に使ったのはパガニーニ??(1816年のヴァイオリン協奏曲第1番)。ドニゼッティやベッリーニを含む多くのイタリア人作曲家が続きました。

図3:チンバッソ(ヴァルヴ付きオフィクレイド)

図3:チンバッソ(ヴァルヴ付きオフィクレイド)

木製チンバッソは1830年代半ばまで人気がありましたが、その後、この用語は金管の低音楽器を指すようになります。ヴェルディの初期作品のチンバッソは、おそらく図3のようなヴァルヴ付きオフィクレイド。チンバッソ第3世代(!?)の「トロンボーネ・バッソ・ヴェルディ」が発明される1881年は、まだまだ先ですから。

というわけで、チンバッソなんて言葉、初めて聞いた!という方は、イタリアの低音楽器の総称と覚えてくださいね。チンバッソをヴェルディが使った特殊なトロンボーンと考えておられた方は、実はトロンボーンだけではなかったことを押さえておいてください。チンバッソは、19世紀イタリアで、さまざまなリップリード(トランペットのように、唇の振動で音を出す)の低音楽器を指す用語でした。それにしても、テューバが普及するまでの歴史って本当に複雑ですね。

  1. takefmiuさん、ありがとうございました。
  2. Meucci, Renato, ‘Cimbasso,’ The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., 5, Macmillan, 2001, p. 858.
01. 7月 2015 · (243) オフィクレイドってどんな音? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

オフィクレイドをご存知ですか。以前ご紹介したセルパン((194) セルパンってどんな音?参照)に代わって、あるいは並行して使われた、金属製の低音楽器。ベルリオーズの《幻想交響曲》(1830年、 (173) 幻想交響曲の奇妙さ参照)の第4、5楽章や、メンデルスゾーンの《夏の夜の夢》序曲(1826年、(242) 真夏じゃなかった!? 《真夏の夜の夢》参照)が有名な使用例です。パリの楽器製作者アラリが1817年に考案、1821年に特許を取りました。メンデルスゾーンもベルリオーズも、できたてのほやほやの楽器を使ったことになります。ベルリオーズのカリカチュアにも登場(図右上)。

ギリシア語の ophis(蛇)と kleides(鍵)からの造語であるオフィクレイド。セルパンのようにぐにゃぐにゃ曲がっていませんが、やはり形はユニーク。コントラ・ファゴット、あるいはバリトン・サクソフォーンの金管楽器版という感じ(オフィクレイドがサクソフォーンの開発に役立ったのですから、本当は逆ですが)。リコーダーのようにサイズを変えて作られました。最も多く用いられたのはバス。C管で2.47m、セルパンの2.44mとほとんど同じ長さですね1

図1:オフィクレイド(右はJ. J. グランヴィルが1846年に描いたベルリオーズのカリカチュア)

図1:オフィクレイド(右はJ. J. グランヴィルが1846年に描いたベルリオーズのカリカチュア)

U字型をした太めの円錐状の管の先に、ゆるやかに広がるベル。曲がりくねった細い管の先に、トロンボーンのようなカップ型マウスピース。管にはサクソフォーンのような(しつこいようですが、本当は逆。サクソフォーンが受け継ぎました)大きなキーが9〜12個(多くは11)。最もベル寄りの音孔のみオープン・キー(=押すと閉じる)で、残りはクローズド・キー。1番大きな孔を塞ぐことで、基音(B管ならB)より半音低い最低音が出ます。音域は約3オクターヴ。

オフィクレイドの音は、セルパン(や、その改良楽器バス・ホルンなど)よりも力強くクリア。ただ、ベルから遠い位置にある音孔を開けて出す音は、響きが貧弱なのが欠点です2。倍音を出すために強く吹くと音程が悪くなることも。動画の3重奏を聴くと、確かに現在の金管楽器のパワフルな音とは比べものになりませんし、第一そんなに低くない。でも、柔らかくてなんだか懐かしい響きですね。その後、ヴァルブを備えたテューバに取って代わられますが、フランスではオーケストラや軍楽隊、吹奏楽で1870年以降まで、スペインの教会やイタリアの村の楽隊では、20世紀まで使われたそうです3

  1. Myers, Arnold, ‘Ophicleide,’ The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., 18, Macmillan, 2001, p. 498.
  2. 前掲書、p. 499.
  3. 同上。
16. 7月 2014 · (194) セルパンってどんな音? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , ,

フランス語で「蛇」の名前を持つ楽器セルパン(図1)。1度見たら忘れられない形ですね。英語では(同じ綴りで)サーペント。円錐管の内径は、およそ1.3cm〜10.2cm。金属製クルック部分も加えると、全長約2.44m! 楽器部分は木製(クルミ)で、孔が6つ(見える側だけで、親指用の孔が無いのが特徴)。でも、唇の振動で音を作る金管楽器の仲間です。孔は3つずつ2カ所に分かれていて、両手で上から押さえます(図1左)が、右手は下から押さえることも(図1右)。

図1:セルパン(右はロンドン、セント・ジェームス・パレスの衛兵交代図より、1790年頃)

図1:セルパン(右はロンドン、セント・ジェームス・パレスの衛兵交代図より、1790年頃)

1590年頃の発明とされ、フランスで聖歌隊(特に定旋律=グレゴリオ聖歌を歌うテノール声部。(85) アルトは高い参照)の補強に用いられました。低音域の楽器で、指孔のおかげで自然倍音以外の音も出せるからですね((42) 神の楽器? トロンボーン参照)。ドイツやイギリスでは、軍楽隊の楽器として使われ始めました(図1右)。ヴァーグナーは《リエンツィ〉でコントラファゴットの代わりに用いています。

図2:メルセンヌ、セルパン(1777)

図2:メルセンヌ、セルパン(1636)

図2は、メルセンヌによるセルパンの楽器図解と音域表(Harmonie universelle、1636-7)。最低音はヘ音記号の下に加線1本のミ(クリックで拡大すると音域表の真ん中あたりのヘ音記号がわかりますから、ファ、レ、シ、と線を下に数えていきましょう)。音域は2オクターヴ以上。リコーダーのように穴を半分開けて半音を出しました。後に孔が増え、音域も拡大します。

いったいどんな音がするのでしょう? テオルボとアーチリュートの伴奏でセルパンがソロをしている動画を見つけました。曲は、ヴェネツィアで活躍した木管楽器奏者ジョヴァンニ・バッサーノ(1560/61〜1617)による、無原罪の御宿りを歌ったパレストリーナの5声モテット〈Tota pluchra es(あなたは全て美しい)〉の器楽用アレンジ(1591、ヴェネツィア)。

素朴で柔らかい音色ですね。聖歌隊の補強に使われたのもうなずけます。テューバのご先祖様(のご先祖様)ですが、それほど低い感じではありません。この動画では1分過ぎくらいから演奏風景になります(が、セルパンがよく見えないのは残念)。テオルボとアーチリュートは、よく似たリュート属の撥弦楽器。向かって左がテオルボで、本来はネックはいずれも左側です。

26. 2月 2014 · (174) オーケストラの楽器配置(パリ、1828) はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

以前(96) オーケストラの楽器配置で、現在の配置の元になったと言われるメンデルスゾーンの「完全に革命的」な楽器配置(ライプツィヒ、1835)をご紹介しました。ヴァイオリンのファーストとセカンドの位置が逆だったり(現在でもこの配置で演奏しているところもありますが)、ヴィオラがとばされて他の弦楽器よりも後ろだったり、なかなか興味深い配置でしたよね。

今回は、パリの配置について。ベルリオーズが1828年にベートーヴェンの《英雄》と《運命》を聴いて大きな影響を受けた((173) 幻想交響曲の奇妙さ参照)、パリ音楽院演奏協会(Société des Concerts du Conservatoire Impérial de Musique、直訳すると帝国音楽院演奏会協会)オーケストラの配置図(図1)1。指揮者アブネックが設立の1828年に採用したと考えられる配置です。

図1:パリ音楽院演奏協会オーケストラ楽器配置、1828年

図1:パリ音楽院演奏協会オーケストラ楽器配置、1828年

1番客席側にソプラノとテノール、間にソロ歌手、その後ろに指揮者(ソロさんたちは、振り返らないと指揮が見えませんね……?)。ソプラノの後ろにファースト・ヴァイオリン、テノールの後ろにセカンド・ヴァイオリンが向かい合い、その間にバス。バスの前にピアノ、後ろにハープ。(89) どこで弾いていたのか?に書いたように、ステージ手前が合唱団と独唱者の場所であることは、パリも変わりません。おもしろいのは、ハープがほとんどの楽器よりも前に置かれていること。よく聴こえるように??

舞台の奥は4段になっていて(ドイツでは、せり台は使われなかった2)、1段目は左からクラリネット2、オーボエ2、フルート2、その隣は読みにくいのですが、ピッコロ1ではないかと思います。その右にチェロ、コンバス、チェロ、コンバス、チェロ、チェロ。2段目はホルン4、バズーン(バソン)4、チェロ4。3段目はトランペット2、コンバス3、チェロ4、コンバス2。1番上はトロンボーン3、後ろの消えかかっているのは低音楽器オフィクレイド。そしてティンパニ、打楽器、コンバス2。

チェロとコントラバスは混ざり合って、右側のあちこちに。ホルンの位置はよく考えてありますね。木管と合わせやすいと同時に、トランペット、トロンボーン、オフィクレイドと続く、金管楽器のライン上。同オーケストラの1840年の楽器配置(図2)も、ピアノ、ハープ、ピッコロ、オフィクレイド、打楽器が省かれている程度で、配置自体は変わりません3

あれれ、何か足りないような……。そうか、ヴィオラがとんでる(また!?)。ヴィオラはどこ??? えええっ、ヴィオラが無い! ヴィオラ、いないのーー?!!

と思ったのですが、いました。フランス語でヴィオラは alto。ハープの後ろに1列に10人並ぶのは、合唱団のアルトではなく、弦楽器のヴィオラ(つまり、合唱団はソプラノ、テノール、バスの3声なのですね)。舞台の一番後ろ、せり台のすぐ手前。音は聴こえにくそう(チェロより人数が少ないし)ですが、ヴィオラ、とばされてはいません。当然と言えば当然ですが、よかったですね〜。

図2:パリ音楽院演奏協会オーケストラ楽器配置、1840年

図2:パリ音楽院演奏協会オーケストラ楽器配置、1840年

  1. Koury, Daniel J., Orchestral Performance Practices in the Nineteenth Century. Univ. of Rochester Press, 1988, p. 204 (source: Elwart, Histoire de la Société des Concerts du Conservatoire Impérial de Musique, 2e éd. Paris, Castel, 1864, pp. 114-15).
  2. 前掲書、p. 201.
  3. 前掲書、p. 205 (source: Carse, Adam, The Orchestra from Beethoven to Berlioz. New York: Broude Bro., 1949, p. 476).