先日、モーツァルトの交響曲の講義で、トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサートによる40番ト短調 K.550 のCDを使いました。オリジナル楽器(ピリオド楽器とも)やそのレプリカによる、作曲家が生きていた頃の響きや、彼らがイメージした響きを知って欲しいと思うからです。第3楽章の授業後、「さっきの演奏団体はどこですか?」と何人も質問に来ました。「フルートの音がリコーダーみたいだった」。そりゃそうでしょうね。モーツァルトの時代(や19世紀)、フルートは木製でしたから。
ところで、第3楽章メヌエットでは、トリオ((133) トリオはトリオだった参照)の最後にD.C.と書かれ、2回目のメヌエットの記譜は省略されます(D.C.はダ・カーポ Da capo の略。イタリア語で「頭から」という意味)。メヌエットもトリオもそれぞれ2部分から成り、どちらも反復記号付き。ただ「ダ・カーポ後は繰り返しせずに1回ずつ演奏し、Fineで終わる」ものだと思っていたのですが……。
ピノックのCD、ダ・カーポ後のメヌエットも繰り返しています。ジョン・エリオット・ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツのCDも同様。クリストファー・ホグウッド指揮エンシェント室内管弦楽団や、フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラによるベートーヴェンの交響曲第3楽章でも、ダ・カーポ後のスケルツォ2部分がそれぞれ繰り返されます。
少し古い辞書には、「ダ・カーポの後は反復記号を無視して終止に至るのが慣習となっている。”Scherzo da capo senza ripetizione”(スケルツォの曲首から反復なしにの意)はその反復記号の省略を明記した指定である」1とあります。私が習ったのは、これ。しかしイギリスのより新しい事典には、「古典派の交響曲において、メヌエットやスケルツォのトリオの後には決まって『ダ・カーポ』と記された。作曲家は時に、最初(すなわちメイン)部分の再現の際、内部反復の省略を求め、”D.C. senza repetizione(曲頭から繰り返し無しに)”と書いてこれを示した」2。
いつもトリオの終わりまでしかCDをかけていなかった(講義時間は限られているのです)ため気づかなかったのですが、「明記されない場合は、ダ・カーポ後も反復を省略しない」のが普通になったようですね3。逆に、ダ・カーポ後に反復しなくなったのは、いつ頃からでしょうか。資料を捜し続けてみようと思います。