18. 5月 2016 · (280) 主題が3つ!!? ブルックナーのソナタ形式 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , ,

ブルックナーの交響曲は、第1楽章:ソナタ形式、第2楽章:歌謡的な緩徐楽章、第3楽章:スケルツォとトリオ、そして第4楽章:ソナタ形式の4楽章構成。第8番で緩徐楽章とスケルツォの順番を入れ替えた以外、全部同じです。ブラームスのように、終楽章で突然パッサカリアを使ったりしません(でも、あのパッサカリアもソナタ形式の枠内で作られていましたね。(251) ただのパッサカリアではない!参照)。

ブルックナーのソナタ形式と言えば、3主題ソナタ形式。2連符と3連符を組み合わせた「ブルックナー・リズム」や、ベートーヴェンの《第九》から影響を受けた「ブルックナー・オープニング」と並んで有名です。ソナタ形式は通常、性格が異なる2つの主題で構成しますが、ブルックナーは主題を3つも使うのです(主題1つなら単一主題ソナタ形式。モーツァルトの例は(189) 第1主題=第2主題!?のソナタ形式参照)。

第4番《ロマンティッシェ》第1楽章(第2稿)の場合、第1主題は冒頭のホルン独奏(主調=変ホ長調、譜例参照)、第2主題はヴァイオリンによる「シジュウカラのツィツィペーという鳴き声」を伴うヴィオラの旋律(変ニ長調、練習番号B)、第3主題は弦楽器ユニゾンのアルペジオ上で、ホルンやテューバなどがブルックナー・リズムで下降する旋律(D5度上の変ロ長調、D)。

譜例:ブルックナー作曲 交響曲第4番 第1楽章の3主題

譜例:ブルックナー作曲 交響曲第4番 第1楽章の3主題

展開部(G)の後、Mから第1主題がフルートのしみじみとした対旋律とともに、主調で再現されます。第2主題はOの3小節目から、なんとシャープが5つ必要なロ長調で登場。フラット3つの主調から、ものすごく遠い調です。第3主題は、Qからお約束通り主調で再現。Sからコーダ。長いクレッシェンドの頂点でホルンが第1主題の5度動機を高らかに吹き、第1楽章終了。

3つの主題のうち、第1主題は主調で提示&再現、第3主題は主調の5度上の属調で提示され、主調で再現されています。ということは、通常のソナタ形式の2主題と同じ関係。ここでは第3主題が、従来の第2主題にあたるようですね(表参照。(88) さらに刺激的(!?)により再掲)。

表:ベートーヴェン以降のソナタ形式

表:ベートーヴェン以降のソナタ形式

それでは、遠隔調の変ニ長調で提示され、さらに遠いロ長調で再現される第2主題は何に当たるのでしょうか? ソナタ形式の第1主題から第2主題へ移る部分は「推移」と呼ばれます。例えば長調の曲の提示部では、主調で第1主題を提示した後、第2主題を出す前に属調まで転調し、新しい調で落ち着かなければなりません。ソナチネのような小曲であれば、推移の部分はほんの数小節。でも、規模が大きいと推移も長くなり、その部分の旋律が第1主題に対抗しうる独自の性格を持つ「主題」に昇格(!?!)したわけです。

ブルックナーのソナタ形式は、提示部の主題部間に推移の部分がほとんど無いと言われますが、こんな事情があったのですね。使い古されたソナタ形式の枠組みを守りながら、新しい要素を組み込んだブルックナー。《ロマンティッシェ》終楽章では、第1主題を主調の変ホ短調(P)、第2主題をかなり遠いニ長調(S)で再現。第3主題の再現は省略して、コーダ(V)に進んでいます。

都合により、来週のコラムはお休みします。

09. 9月 2015 · (251) ただのパッサカリアではない! ブラ4の秘密 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

第13回定期演奏会まで、1ヶ月足らず。今回のメイン・プログラムは、ブラームスの交響曲第4番(1884〜85年作曲)。彼のような構築型の作曲家の作品は、演奏するのも分析するのも楽しいものです。

この交響曲終楽章の出発点である J. S. バッハのカンタータは、既に(221) パッサカリアについてでご紹介しました(これを書いたときは、まさかすぐにこの曲を演奏できるとは思いませんでした〜)。ブラームスはバッハ(とは限りませんが)のバス旋律を19世紀風に変形しつつ、8小節パターンを堅持。パターンが崩れるのは、最後の第30変奏だけです(4小節拡大されて、Più Allegro のコーダに突入)。

この曲が面白いのは、これだけ律儀にパッサカリアの形を守りながら、実はソナタ形式の枠組みを取り入れているところ。主題と30の変奏は、提示部・展開部・再現部に分けられます。と書くと、ゆっくりした長調部分からテンポが戻り、短調のパッサカリア主題が再登場する第16変奏(129小節)が再現部!と思う方が多いと思います(ミ−ファ♯−ソ−ラと上がって行く主題に、ラ−ソ−ファ♯と下りてくる対旋律が加わるところ、ゾクゾクしますね!)。でも、これはひっかけ。同じ形ですが、ここは展開部の開始部分です。

じゃあ再現部はどこから? それは第24変奏(193小節)。展開部の開始のように区切りがはっきりわからない??! そんなことはありませんよ。前の小節の3拍目は、全ての楽器が休むゲネラル・パウゼ。展開部ではずーっと、何かしら音が鳴っていました。完全な空白はこのs1拍だけです。

それに、毎回異なる変奏のように聴こえますが、ここではちゃんと提示部が再現されていますよ。わかりやすいのは、第25変奏のオーボエとヴァイオリン(とファゴット)。mpff に変わっているものの、第2変奏の木管メロディーの再現です(譜例1左ページ参照)。第26変奏のホルンも、第3変奏の木管の再現(でスタッカート→ でレガート。譜例1右ページ参照。E管なので実音はミ−レ♯−ミ−ファ♯ー)。第24変奏でも第1変奏のホルンのリズムなどが再現されていますし、第27、28変奏の低音のオクターヴ跳躍は第4変奏の低音と関係していますね。第1変奏に先立つ主題は第23変奏に反映されていますが、これだけ先走って(??)展開部に食い込んでいるのも芸が細かいところ。区分をあいまいにするのもロマン派風なのです。

というわけで、この終楽章は第2主題の再現を欠くソナタ形式とみなすことが可能。バロック時代の変奏形式パッサカリアの形で作曲しつつ、古典派時代(以降)に使われたソナタ形式にも嵌め込んで、二重の意味を持たせているのです。構築型の作曲家ブラームスならではの終楽章! さらに……(つづく)。

譜例1:ブラームス作曲交響曲第4番終楽章(200〜14小節)

譜例1:ブラームス作曲 交響曲第4番 終楽章(200〜14小節)

19. 11月 2014 · (212) 《オケコン》とリトルネッロ形式 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

ソロ中心の様々なエピソードを、トゥッティ(全合奏)で何度も「戻ってくる」リトルネッロで挟みながら進む、リトルネッロ形式((211)参照)。バロック時代、ソロ協奏曲やコンチェルト・グロッソ(複数の独奏楽器のための協奏曲)はもちろん、特定の独奏楽器を持たない、伴奏オーケストラだけで演奏されるリピエーノ・コンチェルト((210) 《オケコン》のルーツ参照)にも使われました。ソナタ形式が成立する前の話。でも、バルトークの《オケコン》(1943)第1楽章も、リトルネッロ形式で分析できるのです1

初演(1944)の解説に、バルトークは第1楽章(Introduzione)をソナタ形式と書きました。提示部第1主題は、アレグロ冒頭のファースト・ヴァイオリンが忙しく上がって下りる(より専門的に言うと、「増4度の順次進行と完全4度の跳躍進行2回で上がって、同じく増4度順次進行+完全4度の跳躍進行2回で下りる」)音型。第2主題は、オーボエが隣同士の2つの音を行ったり来たりする、トランクィッロ(静かに)部分。展開部は第1主題で始まり、金管楽器によるフガートも、第1主題(の前半部分)が導きます。

この、何度も出てくる第1主題をリトルネッロ、間に挟まれる部分をエピソードと考えてみてください。R1(下の動画の3:52くらい〜)― E1(4:53〜)― R2(6:25〜)― E2(6:57〜)― R3(7:45〜)― E3(8:40〜)― R4(10:09〜)となります。お約束のリトルネッロで始まらないのは、テンポの遅い序奏部を付けた変形だから。リトルネッロに較べてエピソードは音量が小さく(いずれにもトランクィッロの指定がありますから当たり前ですが)、独奏や重奏が多いことも、リトルネッロ形式の図式にぴったり。

ソナタ形式として分析すると、再現部は第2主題で始まります。上のリトルネッロの記号を使うと、提示部:R1=第1主題部、E1=第2主題部。展開部:R2、E2、R3。再現部:E3=第2主題部、R4=第1主題部。2つの主題を逆の順序で再現した形です(あるいは、第1主題の再現を省略、R4の第1主題をコーダと考えることも)。調の選択も含めてソナタ形式の定型からかなり外れていますが、作曲された時期を考えると、ご本人が書いた「だいたい通常のソナタ形式 a more or less regular sonata form」の範囲内かな2。いずれにしろ、第2主題から再現したおかげで、リトルネッロ形式にきれいにはまります。バロック時代のリピエーノ・コンチェルトという外枠だけではなく、その中身であるリトルネッロ形式も意識し、どちらの形式とも考えられる形に作曲したのでしょうね。

  1. Cooper, David, Bartók: Concerto for Orchestra, Cambridge University Press, 1996, pp. 36-37.
  2. 前掲書、p. 85。伊東信宏の「ミニチュア・スコア解説」(『バルトーク:管弦楽のための協奏曲』音楽之友社、2012、v)では more or less が訳出されず「通常のソナタ形式」と書かれているので、注意が必要です。
24. 9月 2014 · (204) ロマン派の協奏曲:ブラームスの場合 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

1833年生まれのブラームス。バリバリの(?!)ロマン派です。だから彼のヴァイオリン協奏曲も、以前聖フィルで演奏したチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番のように、「お待たせしない」タイプのはず……((127) ロマン派の協奏曲:なぜすぐソロが加わるか参照)。なのにこの曲、オーケストラだけで始まります。ソロが加わるのは、はるか先の90小節目。

協奏曲は本来、協奏ソナタ形式で作曲されました((73) 協奏曲のソナタ形式参照)。オーケストラだけが第1主題と第2主題を提示した後、独奏楽器が加わって2つの主題をもう一度提示する、二重提示が特徴です。でも、ロマン派になると構成のバランスよりも実利(!!)重視に。同じようなことを2度繰り返さなくても、初めから真打ちが登場して思う存分活躍する方が、楽しいですものね。チャイコフスキーのピアノ協奏曲のように、第1提示部を省略した(通常の)ソナタ形式で作るのが、ロマン派の協奏曲の主流。数年とはいえブラームスのヴァイオリン協奏曲の方が後に作られたのに、二重提示するなんて……。

でも。オーケストラだけの第1提示部に、第2主題は登場しません。分散和音を丁寧に上り下りする、幅広い感じの第1主題に対して、第2主題は順次進行に大きな跳躍をレガートでつないだ、より動きのある旋律。独奏ヴァイオリンによって、お約束どおり属調のイ長調で提示されます(206小節)。これを導くのが探るようにジグザグに上がって行く8分音符群ですが、第1提示部ではこのジグザグ音型だけで第2主題はおあずけ。二回提示されるのは第1主題だけですから、二重提示ではなく 1.5 重提示。「お待たせするけれど少しでも時間を短く」ということですね。

第1提示部では、ジグザグ音型がニ短調で繰り返されます(譜例1A)。その後、弦楽器が決然と弾き始める旋律(譜例1B)は、スタッカートの多用やアクセントによる2拍目の強調など緊張感に満ちていて、今までとは異質。第2主題と錯覚させられそうなこの印象的なパッセージが、同じニ短調によるソロ・ヴァイオリンの「アインガンク」(独語で「入口」の意)を引き出すことに。提示部の最後の方と、カデンツァの前にも使われて、音楽を引き締めています。

譜例1:ブラームス作曲ヴァイオリン協奏曲第1楽章。A:61〜68小節。B:78〜82小節。

譜例1:ブラームス作曲ヴァイオリン協奏曲第1楽章。A:61〜68小節。B:78〜82小節。

11. 6月 2014 · (189) 第1主題=第2主題 !? のソナタ形式 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: ,

下の譜例1は、以前、聖フィルで取り上げたモーツァルトの交響曲第39番変ホ長調 K.543 の終楽章。左はヴァイオリン2つだけで始まる冒頭部。ソナタ形式の第1主題とその伴奏です。右は、新しい調((72) 第2主題は「ようこそ」の気持ちで参照)変ロ長調でファースト・ヴァイオリンが奏でる、第2主題。あれれ、4度下がった(=5度上がった)だけで、第1主題と変わりません。旋律だけではなく、セカンド・ヴァイオリンの伴奏まで全く同じ。休符以降は異なるものの、メロディーで最も重要な冒頭部1小節間はそっくり。

譜例1:モーツァルト作曲交響曲編ホ長調 K. 543 終楽章の第1、第2主題

譜例1:モーツァルト作曲交響曲編ホ長調 K. 543 終楽章の第1、第2主題

ソナタ形式の第1主題と第2主題は、たいてい対照的な性格で作られます。たとえば、第1主題が元気良くじゃーん!と出るなら、第2主題はドルチェで細やかに。第1主題が16分音符でせわしなく動くなら、第2主題は2分音符などでのんびりと。第1主題がスタッカートではずんだ感じなら、第2主題はレガートにという具合。オーケストラ曲であれば、第1主題は全部の楽器(トゥッティ)、第2主題は木管楽器(あるいはヴァイオリン)だけというようなコントラストも可能。もちろん、第1主題がピアノで密やかに、第2主題がフォルテで堂々とというようなケースも。いずれにしろ、全く同じく始まる2主題なんて有り得ない?!

ところが、初期のソナタ形式では2主題間のコントラストは重視されませんでした。ソナタ形式で最も重要なのは、調のコントラスト。前半部分で主調から対立調へ転調し、後半部分で対立調から主調に戻って終わるという型さえしっかりしていれば、この終楽章のように第1主題と第2主題が同じでも、構わなかったのです。

このような例は、単一主題ソナタ形式とよばれます。ほとんどの場合、第2主題部後半などで新しい主題が使われるので、厳密な意味での単一主題ソナタ形式の曲は多くありません 1。でもこの終楽章では、提示部をしめくくるコデッタ主題にも、第1主題と第2主題に共通な冒頭の7音音型が使われていますから、単一主題ソナタ形式にかなり近いと思います。主題は1つだけで、あとはそれから派生した旋律でソナタ形式を構成するって、経費(??)節約にはなりますが、作るのはかえって難しそうですね。

  1. Webster, James, “Sonata form,” New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 23, Macmillan, 2001, 692.
09. 4月 2014 · (180) 自由なソナタ形式とは はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: ,

サン=サーンスの交響曲第3番ハ短調作品78《オルガン付き》の第1楽章第1部(この曲は2つの楽章から成りますが、それぞれ2部に分かれているので、実質的には伝統的な4楽章構成です)は、「序奏付きの自由なソナタ形式」と説明されます1。自由じゃない通常のソナタ形式とどこが違うのでしょう?

提示部で提示された第1主題と第2主題の2つが、展開部を挟んで再現部で再現されるソナタ形式。《オルガン付き》のように主調が短調のときは、第1主題が主調で提示された後、第2主題は新しい調、通常は長調である平行調で提示されます。再現部では両主題とも主調で再現されるのが基本でしたが、ベートーヴェン以降、第2主題がやはり長調である同主調で再現されるのがスタンダードになりました((88) さらに刺激的(!?)に:ソナタ形式の変遷参照。平行調や同主調については(77) 近い調、遠い調参照のこと)。短調と長調のコントラストを、提示部だけではなく再現部でも楽しめるようになったのでしたね。

《オルガン付き》を分析してみましょう。アダージョ11小節の序奏の後、アレグロ・モデラートですぐに始まる不安げな第1主題は、主調のハ短調。この第1主題は展開部の後、ハ短調で再現されます。p から ff に音量が変わり、木管楽器による対旋律が加わり、短縮される(3つともよく使われる「手」。全く同じに再現させるのではあまりにも芸が無いので)ものの、第1主題が再び主調で戻るので、弾いていて「ただいまー!」という感じ((66) 再現部は「ただいま」の気持ちで参照)。最も基本的な点は定型どおり。

ただ、第2主題が問題。変ニ長調で提示されるのです。主調(ハ短調)からも平行調(変ホ長調)からも2度調の、遠い調への転調ですね。しかも、この第2主題が「ただいま」するときには、ヘ長調。もしも本来の同主調のハ長調で再現されれば、最初に(提示部で)びっくりさせられても、「さっきの遠い調での提示は、ちょっとしたジョークだったのか」と笑って済ますことも可能(?!)ですが、これでは無理。しかも、9小節後から第2主題が繰り返されるときは、♯4つの、ものすごく遠いホ長調に(これも2度調)。

というわけで、自由じゃないソナタ形式と同じなのは、2つの主題が提示・再現されること、第1主題は主調で提示・再現されること、第2主題は長調で提示・再現されること、展開部も存在すること。異なるのは、第2主題が本来の平行調ではなくその遠隔調で提示され、同主調ではなくその下属調で再現されること。それに、主調で終わらないこと。♭3つの短調で始まり、実質的には♯4つの長調で静まります。この後、♭5つの変二長調の第2部(第2楽章に相当)に切れ目無く続くという、特殊事情によるのですが。

古典派においても、ソナタ形式の定型から部分的に外れるのはそれほど珍しいことではありません。ロマン派では、むしろ定型どおりに作曲するのは「ダサイ」と、何かしら変えるのが当たり前に。《オルガン付き》の第2主題はかなり遠い調で提示・再現されますが、それ以外はほぼ定型。このように、主題を本来と違う調で提示・再現するのは日常茶飯事。どちらかの主題が再現されないとか、第1主題よりも先に第2主題が再現されるとか、展開部が無いとか、そんなソナタ形式の曲もあるくらい。ロマン派のソナタ形式の曲は、ほとんど全て「自由なソナタ形式」で作られたことになりますから、わざわざ「自由な」という但し書きを付ける必要は無いのではと思ってしまいます。

  1. 井上さつき『サン=サーンス:交響曲第3番、ミニチュア・スコアの解説』(音楽之友社、2001、p.viii)、藤田由之「サン=サーンス:交響曲第3番」『名曲解説全集2、交響曲2』(音楽之友社、1979、88)など。
03. 4月 2013 · (127) ロマン派の協奏曲:なぜすぐソロが加わるか はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

今回の定期で演奏するチャイコフスキーのピアノ協奏曲を、前々回の定演で取り上げたベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲と比べてみましょう。独奏楽器以外の相違点は? 最初に気づくのは、チャイコフスキーではホルンのイントロの後、5小節目からピアノが大活躍を始めることではないでしょうか。ベートーヴェンでは、ヴァイオリンが登場するまで延々待たされたのに。

協奏曲で使われるソナタ形式は、二重提示が特徴でしたね((73) 協奏曲のソナタ形式参照)。古典派を代表する作曲家ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、ソロ楽器が加わる前にオーケストラだけで演奏される第1提示部と、ソリストも加わって演奏される第2提示部を持つ、この基本タイプ。

でもロマン派になると、チャイコフスキーのように「お待たせしない」タイプが増えます。メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲やグリーグのピアノ協奏曲、以前、聖フィルで演奏したメンデルスゾーンのピアノ協奏曲やブルッフのヴァイオリン協奏曲も、独奏楽器がすぐに加わりました。この変化の理由は明らか。待ちきれないから。

前座(第1提示部)をなるべくコンパクトに作るにしても、2つの主題を提示してハイおしまいというわけにはいきません。主題は1回提示するより繰り返した方が印象に残るし(主題の「確保」と言います)、2つの主題をつなぐ「経過部」や提示部を締めくくる「コデッタ」も必要。これら、最低限のパーツを提示するだけでも、それなりの時間が必要です。

しかも、ほとんどのパーツは真打ち登場後の第2提示部で繰り返されます。ソロ楽器の魅力を示すための新しい旋律が加わり、今度は第2主題以降が新しい調で提示されるものの、主調が長調の場合は転調先も長調。コントラストはそれほどはっきりしません。さらに、これらの各パーツは再現部で再々登場するのです。同じようなことを何度も繰り返さなくても、真打ち登場の第2提示部からで十分、前座部分は端折ろう!と考えるのは、ごく自然な流れ。こうして、たくさんの「お待たせしない」協奏曲が作られました。

表1:主調が長調のときの協奏ソナタ形式(ソナタ形式との比較)(73) 表1再録

表1((73) 表1再録):主調が長調のときの協奏ソナタ形式(ソナタ形式との比較)

表1のように、第1提示部が省略されると、協奏(風)ソナタ形式は普通の(?!)ソナタ形式に逆戻り。チャイコフスキーのピアノ協奏曲は、交響曲と同じソナタ形式で作られています。もちろんロマン派の時代でも、ショパンのピアノ協奏曲や、聖フィルで取り上げたドヴォルジャークのチェロ協奏曲のように、第1提示部を持つ協奏(風)ソナタ形式で作られる場合もあります。

あれれ、古典派の協奏曲の中にもソロ楽器がすぐに加わるものがあるよと気づかれた方、鋭い! ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番はピアノ独奏で始まりますし、第5番(《皇帝》)も、オケの主和音の後、すぐにピアノの華やかなアルペジオ(分散和音)が入ります。モーツァルトにも、オーケストラとピアノの対話で始まる K. 271(《ジュノム》)がありますね。でも、これらは二重提示1。冒頭からソロが加わるものの、その後にオケだけの第1提示部が続きます。秩序やバランスが尊重された古典派時代には、反復も楽曲構成上の大事な要素でした。

  1. 2主題が2回ずつ提示されることを二重提示と言う場合もありますが、ここでは、オーケストラだけの第1提示部と独奏楽器が加わった第2提示部を持つことを二重提示として書いています。
14. 2月 2013 · (120) チャイコフスキ―のピアノ協奏曲はなぜ変ロ短調か はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

告白しますが、私、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番の調性がなぜ変ロ短調なのか、つい最近までず〜っと悩んでいました。ホルンのユニゾンによるオープニングは確かに変ロ短調。でも、ピアノの分厚い和音「じゃん! じゃん!! じゃん!!!」にのせて、ヴァイオリンとチェロが朗々と、モルト・マエストーソ(非常に堂々と)の旋律(譜例1)を奏でる部分、どう考えても短調ではありませんよね。変ロ短調の平行調((77) 近い調、遠い調参照)、変ニ長調です。ソナタ形式で作られた曲の調性って、序奏ではなく主部の調で決まるのに、どうして変ロ短調なの?

4月の第8回定期演奏会のためにこの曲を練習してみて、ようやく謎が解けました。ものすごく印象的なため、第1主題と思い込んでいたこのマエストーソ旋律、再現されないのです。ピアノが「じゃじゃん! じゃじゃん!! じゃじゃん!!!」と付点リズムの和音を添える部分は、冒頭の「じゃん! じゃん!! じゃん!!!」部分の繰り返し。まだ序奏の続きです。

主部、すなわち提示部は、4拍子アレグロ・コン・スピリト(快速に、生気に満ちて)に変わったところから。3連符の3つ目が休みの「たらっ、たらっ、たらっ、たらっ」のリズムでピアノによって示される第1主題(ウクライナの盲目の歌手の歌)は変ロ短調で、これがこの協奏曲の主調になります。

でもチャイコフスキー、わざと勘違いさせるように作っています。序奏部は通常、主部よりも遅いことが多いのに、この曲では主部だけでなく序奏部もアレグロ。まあ、序奏部ではアレグロの後に「ノン・トロッポ(あまりはなはだしくなく)」と続くし、音楽の雰囲気も重いのですが、主部とのテンポのコントラストが小さいため、境い目がはっきり感じられません。それに、序奏部が長い。小節数で楽章全体の1/6近くを占めます。しかもその存在感! 重厚かつピアニスティックな独奏パートには(ミニ・)カデンツァまで置かれて、まだ導入部分であることを忘れてしまいます。

それにしても、第1主題の印象を薄くしてしまうほど圧倒的なマエストーソ旋律、第1楽章の冒頭だけなんてもったいなーい! と思ったら、この序奏主題の「痕跡」が、他の部分に残されているとも考えられるのですね。「痕跡」のうちの1つは、激しいロンド主題が躍動する終楽章の中の、おおらかで叙情的な旋律(譜例2)1。序奏主題と類似性が見られるというのです。

譜例1と譜例2の旋律、似ているでしょうか。共通点と言えば、どちらも3拍子であることと、8分音符が目立つことくらい。旋律の作りや輪郭は、特に似ていませんよね。でも、旋律の性格、つまり滔々と流れる雄大な感じは共通しています。印象的な譜例1の序奏主題、そのままの形では戻って来ないものの、譜例2のように形を変えて終楽章に回帰するという解釈、なるほどと納得させられました。この旋律は最後に変ロ長調で勝利の凱歌のように歌い上げられ、クライマックスを形成するのです。

introT1

譜例1:チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番 序奏主題

finalT1

譜例2:同上 終楽章 叙情的な主題

  1. Wiley, Roland John, “Tchaikovsky” New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 25. Macmillan, 2001, p. 150。彼はその他に、構造(その後の主題も導入部を備えていること)と、調(全楽章を通じて、叙情的な主題は同じ変ニ長調で現れる)への「痕跡」をあげています。
19. 7月 2012 · (90) 《新世界より》第1楽章の第2主題 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

《新世界》交響曲の第1楽章は、お約束どおり、ソナタ形式で作られています。ドヴォルジャークは、ベートーヴェン以降のソナタ形式の図式((88) さらに刺激的(!?)に:ソナタ形式の変遷図2参照)に当てはまるように作曲しているでしょうか。分析してみましょう。23小節間の序奏部(Adagio)の後、2/4拍子、Allegro molto に変わったところから繰り返しの2かっこまでが、提示部です。

弦楽器のトレモロの下で、ホルンが厳かに分散和音を吹き始める第1主題。第1楽章だけでなく曲のあちこちで戻って来る(=循環形式。近いうちに説明します、今度こそ絶対に!)とても重要な4小節を、クラリネットとファゴットが引き継ぎます。

第2主題は? 主調が短調の場合、ソナタ形式の第2主題は平行調で提示されるのでしたね。シャープ1つのホ短調の平行調は、ト長調((77) 近い調、遠い調参照)。あっ、ありました! フルート・ソロの落ち着いた旋律、ト長調です。旋律性が強いですし、静かに下行、その後上行し、後半はレガートに奏される8小節フレーズは、上行+下行+スタッカートの付点リズムが繰り返される第1主題と好対照。後に続く展開部でも、この旋律(の前半)が動機として多用されます。ということは、ソナタ形式の定型どおりの提示部。

……と分析している解説書も多いのです1。ただ、このト長調のメロディーが登場するのは、176小節目まで続く提示部の、149小節目。これが第2主題だとすると、ようやく出たと思ったら、しめくくりの旋律も無いまま提示部が終わってしまうという印象です。図1は、提示部153小節間の割合をあらわしたもの。1番上の棒グラフの、青い部分が第1主題部(82%)、赤い部分がフルート・ソロ以降の第2主題部(18%)2。第2主題が出るタイミングとしては、いくらなんでも遅すぎると思いませんか?

図1:《新世界より》第1楽章提示部

むしろ、フルートとオーボエが奏でる物悲しいメロディー(91小節〜)を第2主題と考えるべきでしょう3。ト短調ですから、典型的な調ではありません。そのため、第1主題とのコントラストはそれほど大きくないのですが、レのドローン(持続低音)を伴奏に登場するこの旋律も、印象的です。図1の2は、この旋律が現れる前後を、第1主題部(青)と第2主題部(赤)としたもの。図1の3は、さきほどのフルート・ソロのト長調の旋律を、提示部をしめくくる(=コデッタの)旋律(緑)とみなした場合のグラフ。なかなかのバランスです。

「第2主題の候補になる旋律が2つあって、後に出る旋律は本来の調、先に出る旋律はその同主調で提示されるが、本来の調ではない先の方が本物」というパターンは、ベートーヴェンも、ピアノ・ソナタ《悲愴》第1楽章などで使っています(この曲の第2主題は、平行調である変ホ長調の同音反復のメロディーではなく、腕の交差を交えながら演奏する変ホ短調のメロディーの方)。典型から多少はずれていますが、想定内。序奏部:提示部:展開部:再現部:コーダのバランスも、23:153:96:123:53(小節数)でごくオーソドックス。

でも、再現部を見ると、やはり20世紀近くになって(1893年)作られた曲と感じさせられます。第1主題は主調であるホ短調で再現されますが、第2主題はシャープ5つ(!!)の嬰ト短調(312小節〜)、コデッタの旋律(370小節〜)は、その同名異音からの長調である変イ長調(フラット4つ!!)で再現されるのですから。いずれも、提示部の調より半音高く、主調・同主調どころか近親調にも含まれない遠い調です。ドヴォルジャークは、ソナタ形式という古い枠組を、さりげなく「さらにさらに刺激的に(!?)」変形して使っていますね。

  1. 門馬直衛によるミニチュア・スコアの解説(全音、1956)、田村和紀夫『クラシック音楽の世界』(新星出版社、2011)など。
  2. それぞれの主題以外に、確保とか推移主題なども含みます。
  3. 牛山充『名曲解説全集2』(音楽之友社、1979)や伊東信宏によるミニチュア・スコアの解説(音楽之友社、2004)など。
05. 7月 2012 · (88) さらに刺激的 (!?) に:ソナタ形式の変遷 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

ソナタ形式の考え方シリーズ④は、短調の場合を考えます。図1は、シリーズ②((72) 第2主題は「ようこそ」の気持ちで)で掲げた、ソナタ形式の基本。主調が短調であろうと長調であろうと、再現部では第1&第2主題が主調で再現されます。

図1:基本のソナタ形式

たとえばモーツァルト。50曲ほどの交響曲((14) モーツァルトが作った交響曲はいくつ?参照)の中に、短調の曲は2つ。旧番号の25番と40番で、いずれもト短調です。両曲の第1楽章では、第2主題は平行調((77) 近い調、遠い調参照)、つまり3度上の長調である変ロ長調で提示され、主調のト短調で再現されます。図1のパターンですね。

彼の、18曲中2つだけの短調のピアノ・ソナタ(イ短調とハ短調)も同様。50曲弱の協奏曲の中に2つだけある短調の曲(ニ短調とハ短調のピアノ協奏曲)でも、第2提示部((73) 協奏曲のソナタ形式参照)で第2主題が平行調(それぞれヘ長調と変ホ長調)で提示され、主調で再現されます。

さて、ベートーヴェンではどうでしょうか。《運命》交響曲で、第1楽章提示部の第2主題は、運命主題を使ったホルン・コール((2) 《運命》第1楽章はふりかけごはん参照)に導かれる、ファースト・ヴァイオリンのドルチェの旋律。主調ハ短調の平行調、変ホ長調で提示されます。同じ旋律が再現部で、ファゴットに導かれて再登場する時……あれれ、また長調? 主調ハ短調ではなく、同主調であるハ長調で再現されます。図1と異なりますね。続くロマン派の時代、短調の曲にはこの《運命》第1楽章の型(図2参照)が広く使われます。

図2:ベートーヴェン以降のソナタ形式

この変化は何を意味するのでしょう。ソナタ形式の元になった形において、ごく初期には、主調が長調でも短調でも、2つ目の旋律は5度上の属調で示されたそうです。短調の曲では、2回ずつ使われる2つの大事な旋律は、すべて短調で奏されていたわけです。しかし、もっと刺激が欲しかったのでしょうか、図1のように第2主題が長調で提示される型が定着します。これで、人々は2つの楽しみを味わうことができるようになりました。まず提示部で、短調で示される第1主題と長調で示される第2主題のコントラストを楽しみます。さらに再現部では、提示部で長調で出された第2主題と、今度は短調に移されて示される第2主題のコントラストを楽しむのです。

やがて人々は、短調の第1主題と長調の第2主題によるコントラストを、提示部で1回味わうだけでは足りない、再現部でも味わいたいと考えるようになります。ずいぶん前に終わってしまった提示部第2主題とのコントラストよりも、今、終わったばかりの再現部第1主題とのコントラストが、欲しくなったのですね。でも、もうすぐ主調で音楽を閉じなければならない再現部後半。第2主題で、ふらふらと遠くの長調へ遊びに行くわけにはいきません。最も近い関係にある同主調(長調)で、第2主題を再現する形が定着するのです。

長調同士、短調同士である主調 ⇔ 属調の転調とは異なり、長調と短調の行き来は、楽譜を見ていなくても、絶対音感の持ち主でなくても、コントラストを感じることができます。そのコントラストを、味わえないよりも味わうことができる方がよいし、1回よりも2回楽しみたい。新しいことに慣れると、さらに大きな刺激 (!?) が欲しくなるもの。ソナタ形式の変遷は、そんな私たちの心を映し出しているようです。