21. 5月 2014 · (186) ダ・カーポ後の繰り返し はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , ,

先日、モーツァルトの交響曲の講義で、トレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンサートによる40番ト短調 K.550 のCDを使いました。オリジナル楽器(ピリオド楽器とも)やそのレプリカによる、作曲家が生きていた頃の響きや、彼らがイメージした響きを知って欲しいと思うからです。第3楽章の授業後、「さっきの演奏団体はどこですか?」と何人も質問に来ました。「フルートの音がリコーダーみたいだった」。そりゃそうでしょうね。モーツァルトの時代(や19世紀)、フルートは木製でしたから。

ところで、第3楽章メヌエットでは、トリオ((133) トリオはトリオだった参照)の最後にD.C.と書かれ、2回目のメヌエットの記譜は省略されます(D.C.はダ・カーポ Da capo の略。イタリア語で「頭から」という意味)。メヌエットもトリオもそれぞれ2部分から成り、どちらも反復記号付き。ただ「ダ・カーポ後は繰り返しせずに1回ずつ演奏し、Fineで終わる」ものだと思っていたのですが……。

ピノックのCD、ダ・カーポ後のメヌエットも繰り返しています。ジョン・エリオット・ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツのCDも同様。クリストファー・ホグウッド指揮エンシェント室内管弦楽団や、フランス・ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラによるベートーヴェンの交響曲第3楽章でも、ダ・カーポ後のスケルツォ2部分がそれぞれ繰り返されます。

少し古い辞書には、「ダ・カーポの後は反復記号を無視して終止に至るのが慣習となっている。”Scherzo da capo senza ripetizione”(スケルツォの曲首から反復なしにの意)はその反復記号の省略を明記した指定である」1とあります。私が習ったのは、これ。しかしイギリスのより新しい事典には、「古典派の交響曲において、メヌエットやスケルツォのトリオの後には決まって『ダ・カーポ』と記された。作曲家は時に、最初(すなわちメイン)部分の再現の際、内部反復の省略を求め、”D.C. senza repetizione(曲頭から繰り返し無しに)”と書いてこれを示した」2

いつもトリオの終わりまでしかCDをかけていなかった(講義時間は限られているのです)ため気づかなかったのですが、「明記されない場合は、ダ・カーポ後も反復を省略しない」のが普通になったようですね3。逆に、ダ・カーポ後に反復しなくなったのは、いつ頃からでしょうか。資料を捜し続けてみようと思います。

  1. 伴紀子「反復記号」『音楽大事典4』、平凡社、1982、1973ページ。
  2. Westrup, Jack, “Da capo,” New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 6, Macmillan, 2001, p. 829. repetizione の綴りはママ。
  3. ウィキペディア日本語版には「特に注意書きがない場合であっても、伝統的に繰り返し記号は無視して進めることとされる」と書いてありますが、英語版(の譜例)には、省略しないで演奏する、新しい情報が書かれています。
12. 5月 2013 · (133) トリオはトリオだった はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , ,

交響曲の第3楽章は、メヌエットでもスケルツォでも、AーBーAの形で作られることが多いですね。中間部分Bはトリオと呼ばれ、その後にA部分がダ・カーポ(イタリア語で「頭から」=冒頭に戻る)されます。でも、第3楽章の中間部分って、3重奏ではありませんよね。どうしてトリオと呼ばれるのでしょうか。

17世紀、バロック舞踏のステップ・パターンをひと通り終えるためには、かなりの長さの曲が必要でした。たとえばメヌエットの一連の動作には、120小節もの音楽が必要だったそうです1。しかし、メヌエットにしてもガヴォットにしてもサラバンドにしても、舞曲はそれほど規模の大きいものではありません。1つの曲を踊りが終わるまで何度も何度も繰り返すのでは、踊る人も伴奏する人もつまらない。やがて、同じ舞曲がもう1つ加えられ、最初の曲がそのあとで繰り返されるようになりました。編成や響きが異なる2曲を交代させれば、変化を楽しむことができます。

第2舞曲を3重奏で作曲したのは、リュリ(あの、重い杖を床に打ちつけながら指揮していたときに、誤って自分の足を打ち、その怪我がもとで亡くなった人((18) 「赤ちゃん交響曲」誕生まで参照)。叙情悲劇《アルミード》(1686)のプロローグで、第1メヌエットを弦5声部で作曲する一方、第2メヌエットは2本のオーボエとファゴット用に。《ペルセ》(1682)でも、3声部の第2パスピエを作り、1回目はオーボエ2本とファゴット、2回目はソプラノ2人と通奏低音((132) 楽譜どおり演奏しても足りない場合参照)という異なった組み合わせを指定2。2交代5部構成(A – B – A – B’ – A)で、踊りに十分な長さにしたのです。第2舞曲が3重奏ではなく2重奏や4重奏で作られるときもありましたが、それでもトリオと呼ばれました。

バッハは《ブランデンブルク協奏曲》第1番の第2メヌエット(=トリオ)を、リュリと同じ3重奏編成(オーボエ2とファゴット)にしました。さらに、異なる3重奏編成(ホルン2とオーボエ・ユニゾン)用の2拍子のトリオや、弦楽器のみのポラッカ(=ポロネーズ。メヌエットと違う舞曲!)もはさんで、M – T1 – M – P – M – T2 – M の7部構成に3。舞踏の伴奏音楽ではありませんから、多様性のためでしょう。

初期は3楽章構成だった交響曲の第3楽章としてメヌエットが取り入れられたのは、おもしろみの少ない交響曲を少しでも楽しんでもらうための聴衆サービスでしたね((87) 流行音楽メヌエット。それをベートーヴェンがスケルツォに置き換えたのでした((101) メヌエットからスケルツォへ参照)。実用的な舞曲と同じ、「第1メヌエット – 第2メヌエット – ダ・カーポして第1メヌエット」という形や、第2メヌエットがトリオと呼ばれる慣習が、交響曲に持ち込まれたのも当然。

トリオを2回繰り返して A – B – A – B – A にしたり(ベト7など。《運命》については((81) 音楽における冗談参照)、2種類のトリオで A – B – A – C – A にしたり(シューマンなど)、トリオ部分の拍子を変えたり(《田園》など)するのも、バロック時代に前例があるのですね。また、通常はメヌエットよりも薄い編成で作られたり、弦楽器よりも管楽器を活躍させて趣を変えること(《エロイカ》のホルン3重奏が好例)も、バロック時代からの流れでした(この概念は20世紀でも続きます)。というわけで、現在は名称と概念しか残っていないものの、交響曲第3楽章のトリオの大元は本当に3重奏だったというお話でした。

  1.  Schwandt, Erich, “Trio” New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 25. Macmillan, 2001, p. 743.
  2. (135) トリオはトリオじゃなかった?註1を参照のこと(13/06/01追記)。
  3. M: メヌエット(ホルン2、オーボエ3、ヴァイオリン2、ヴィオラ、通奏低音)。T1: 第1トリオ(オーボエ2とファゴット)。P: ポラッカ(弦、3/8拍子)。T2: 第2トリオ(ホルン2とオーボエのユニゾン、2/4拍子)。
04. 10月 2012 · (101) メヌエットからスケルツォへ はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

新デザインでの1回目。図1のイラストは、交響曲の中の楽章の1つ。さて、何楽章でしょう?

図1:工場で生産される交響曲(部分)Dyries & Lemery, The Story of Music in Cartoon より

左側は2人ずつ手をつないで踊っています。右半分では1人ずつジャンプしたり、ぶつかったりしています。真ん中には「危険! 飛び跳ねる冗談好きに注意!」と書かれた青い看板。そう、メヌエットからスケルツォに変わった第3楽章ですね1。この枠の外には「ベートーヴェンがメヌエットを、飛び跳ねるリズムのスケルツォ(冗談という意味)に取り替えた」という補足もあります。(81) 交響曲の中の冗談で《田園》や《新世界》を例に説明したように、拍がずれたりいびつだったり、イレギュラーな予期しない動きが含まれるスケルツォをうまく表していますね。

みんな同じ青い制服制帽なのは、彼らが工場労働者だから。男女1組のはずのメヌエットを男同士で踊っているのも、同じ理由です。ここは、交響曲を生産する工場の3つ目の作業場。18世紀において「交響曲」(=初期の交響曲=シンフォニーア)は、同じような型でたくさん作曲され(かつ、ほぼ使い捨てのように消費され)ていました(交響曲の誕生シリーズ参照)。

(16)「交響曲」は開幕ベルで既にふれたように、ラルー編纂の『18世紀交響曲主題目録』によると、1720年から1810年ころまでの演奏会に現われた「交響曲」は16,558曲! これは、楽譜が現存する、あるいは曲の開始部主題が確認できたものだけの数です2。そのように大量生産されていた「交響曲」が、ベートーヴェン以降、1曲ずつ全身全霊をこめて作られる記念碑的なジャンルに変わるのです。

メヌエットがスケルツォに替わって変化したのは、テンポだけではありません。より多くの人がコンサート会場に足を運んでくれるように、また、より多くの聴衆が交響曲を楽しめるようにと加えられた、当時流行のダンス音楽メヌエット((87) 流行音楽メヌエット参照)。一方スケルツォは、(形はメヌエットと同じですが)ダンスのための実用音楽ではなく、純粋な音楽ジャンル。つまり、ベートーヴェンによって交響曲は、芸術的な要素だけで構成されるものになったのです。

ただ、彼が第3楽章の曲種を替えたのは、おそらく社会の変化の反映です。18世紀末になると、メヌエットの人気が衰退してしまったのです。ハイドンやモーツァルトの時代には最も人気が高い舞曲だったメヌエットですが、ベートーヴェンが交響曲を書き始める1790年代半ばには流行遅れに3

それでは、メヌエットに代わって1790年代に人気になった、同じ3拍子の舞曲は何でしょう? ヒント:男女が抱き合うように組んで踊るので、不道徳だと禁止された時期もありました。そうです、答えはワルツ。「会議は踊る、されど進まず」のウィーン会議は、1814年でしたね。

  1. Dyries & Lemery The Story of Music in Cartoon: From Pre-History to Present(漫画による音楽の話:有史以前から現在まで), trans. by Sadler, Macdonald & Co, 1983, p. 54. 漫画と言っても風刺漫画のタイプ、日本人がイメージする漫画とはかなり違います。RyISKWさんの情報に感謝いたします。
  2. 『ベートーヴェン事典』、東京書籍、1999、22ページ。
  3. 石多正男『交響曲の生涯』、東京書籍、2006、229ページ。
17. 5月 2012 · (81) 交響曲の中の冗談 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , , ,

タイトルから、《エロイカ》交響曲のいわゆる「ホルンのフライング」を思い浮かべた方、いらっしゃるかもしれません。ベートーヴェンの第1番が属7の和音(それも下属調の)で始まるのも、一種の冗談かな((80) 音楽における解決参照)。でも、交響曲にはもっとずっと大掛かりな(!?)冗談がありますよ。答えは……スケルツォ! scherzoって、イタリア語で「冗談」という意味なのです。

ベートーヴェンによって、メヌエットの代わりに交響曲(やソナタ、四重奏曲)に導入されました。基本的に3拍子でトリオを挟む3部分構成という点はメヌエットと共通ですが、異なる点もあります。

  • 踊りの音楽ではない
  • テンポが速い
  • 名前のように、軽くてしばしばユーモラスな性格を持つ

ベートーヴェンは、第8番以外の第3楽章(第9番のみ第2楽章)に、スケルツォを使いました。第1番の第3楽章には Menuetto と書かれていますが、テンポが速い(Allegro molto e vivace)ので、実質的にはこれもスケルツォと考えて良いでしょう。ただし、Scherzoと書き入れたのは第2、3番のみです。第4、6、7番は、トリオが2回入る S – T – S – T – S’ の構成。第5番でも S – T の反復を指示していた時期があったため、5部構成の楽譜(ギュルケ校訂のペータース版)や録音(ブリュッヘンやガーディナーなど)が出ています。

いったい、どこが冗談なのでしょう。第6番《田園》の第3楽章「いなかの人々の楽しいつどい」を考えてみましょう。スケルツォ冒頭の旋律は、スタッカート奏の弦のユニゾン。フラット1つのヘ長調で始まるのに、後半(9小節目から)のスラーの旋律はシャープ2つのニ長調。ヘ長調とニ調なら調号が同じ平行調ですから近い調ですが、ニ調は「遠い調」です((77) 近い調、遠い調の譜例1参照。お隣同士が「近い調」ですが、ヘ長調とニ長調は隣の隣の隣ですね)。しかもそのニ長調の後、何の手続きも無しに、また遠い調ヘ長調のスタッカート旋律が戻って来ます。大胆な転調!

この後、91小節目から始まるのオーボエの旋律は、1拍目が休みやタイのために、伴奏より1拍遅れているように聞こえませんか。ベートーヴェンは「村の楽士たちが、演奏中に居眠りをして、出を間違えそうになったりする様子を描いた」と述べたそうです1。そう言われてみると、クラリネットのとぼけた合いの手(114小節)が、出遅れのようにも聞こえますね。《田園》に限らずベートーヴェンのスケルツォ楽章は、拍がずれたりいびつだったり、強弱の入れ替わりが大きかったりイレギュラーだったりと、ユーモアやジョークが満載(気づいて笑ってあげましょう!)。ゆっくりで静かな第2楽章とのコントラストが際立ちます。

この図式は、85年後に作られた《新世界より》にも受け継がれています。第3楽章スケルツォの主題は、実は3拍子の2拍目からの「うんタタタッタッタッ」。2拍を単位としたリズムなのに、クラリネットやティンパニは、1拍あるいは3拍(1小節)遅れで追いかけます。このはずし加減、《田園》と似ていませんか。前後に、休符無しで1拍目から始まる「タタターン」や「タタタッタッ」、どれとも異なる「タタうんタンうんタタタン」も組み合わせて、冗談をさらに徹底。ドヴォルジャークのにやにや笑いが目に浮かぶようです。

ところで、スケルツォと聞いてショパンの4曲のスケルツォを思い浮かべた方もいらっしゃることでしょう。ロマン派時代には、独立した器楽(特にピアノ)曲のスケルツォも作られました。こちらは、題名からはほど遠いシリアスな内容。ただ、急速な3拍子、真ん中に叙情的なトリオを挟んだ S – T – S の構成は、多楽章中のスケルツォと共通ですね。

  1. Schindler, Beethoven as I knew him: A Biography (ed.  by MacArdle, trans. by Jolly. Faber and Faber, c1966), p. 146.  日本語訳は金子建志「ベートーヴェンとユーモア」『ベートーヴェン全集8』(講談社、1999)、116ページ(誰の訳の引用か不明)。