11. 8月 2011 · (41) 涼しくなる (?!) 音楽 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

残暑お見舞い申し上げます。節電で暑い中(被災者の方々のことを考えると、文句は言っていられません!)、聴いて涼しくなる音楽を考えてみました。怪談を聞くとぞーっとして涼しくなると言いますから、その音楽版はいかがでしょうか。ヴェーバー(ドイツ語なので、ウェーではなくヴェー)の《魔弾の射手》第2幕「狼谷の場」です。

このオペラの原作は、アーベルとラウンの『妖怪物語』1。悪魔伝説です。翌日の射撃試合で優勝しなければ恋人アガーテと結婚できないのに、主人公の猟師マックスは大スランプ。悪魔に魂を売り渡したカスパールにそそのかされて、魔物たちが荒れ狂うという狼谷で、真夜中に百発百中の「魔弾」を鋳造することに。

狼谷の場は、精霊たちの不吉な合唱で始まります。彼らのウフーイ! ウフーイ!という叫びは、木管楽器の強奏によって妖しさ倍増です。カスパールと狩猟の悪魔ザミエルの会話の後、深い闇や幻影に怯えるマックスが登場。カスパールが7発の魔弾を鋳造する際は、ひとつ出来上がるたびに、妖怪が出現したり突然嵐になったり、怪現象が起こります。

ヴェーバーは新しい楽器を加えずに、このようなおどろおどろしい雰囲気を作り出しました。楽器の最低音域、弱奏と強奏のコントラスト、旋律性の乏しい同音反復による歌唱ライン、いびつなリズムなどを用いて、闇や暗さ、目に見えない(はずの)ものへの恐怖を、独創的に表現しています。このオーケストレーション無しに、狼谷の場は成り立ちません。

6発目の魔弾が作られた後に強奏される短調の分散和音は、序曲の第1主題としても使われ、悪魔の強大な力を表します。一方、序曲の第2主題(長調のなめらかな旋律)は、第2幕にアガーテが歌う喜びのアリアの一部で、愛の力の暗示です2。再現部では、第1主題よりも第2主題が優位になります。つまり、ヴェーバーはこの序曲で、オペラの内容を予示しているのです。約半世紀前にドイツの先輩オペラ作曲家グルック(聖フィル第3回定期演奏会で《オーリドのイフィジェニー》序曲を演奏しました)が唱えた、オペラ改革のポイントのひとつですね。

参考として、(演出の好き嫌いはあると思いますが)英語の字幕つきの動画をあげます。カスパールがザミエルと契約を交わす前半部分と、魔弾を鋳造する後半部分に分かれています。


深いボヘミアの森を舞台に、そこに住む狩人たちを描いた、真の意味でのドイツ・オペラ第1号である《魔弾の射手》3。魑魅魍魎が跋扈する狼谷の場が終わると、第3幕は晴れやかな射撃試合の日です。最後の魔弾は誰に命中するのか。心の弱さから不正を働いてしまったマックスはどうなるのか。是非、結末を確かめてみてください。

  1. ドイツ語を歌詞とし、台詞が入る《魔弾の射手》は、正確には「ジングシュピール」です。
  2. この特定の旋律に特定の意味を持たせる手法は、後にヴァーグナーが押し進めることになります。
  3. それまでのジングシュピールの舞台は、ドイツではなく異国(モーツァルトの《後宮からの逃走》はトルコ、ベートーヴェンの《フィデリオ》はスペイン)や、メルヘンの世界(モーツァルトの《魔笛》)でした。