05. 9月 2012 · (97) ドレミが平等社会だったら:十二音技法 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

17世紀から19世紀まで西洋音楽の基本だった長調・短調の体系は、競争社会です。オクターヴ内の12人が就職活動をしても、ハ長調会社に就職できるのは白い鍵盤の7人だけ。ト長調会社の場合は、白い鍵盤ファの人が不採用で、代わりにファ♯の人が採用されます。失業率42%! 就職できた7人の中で社長、部長、次長になる人もいますが、社長秘書を含め4人はヒラ社員((79) ドレミは階級社会?参照)。厳しい!

この競争 & 階級制度を壊そうと (?!) 19世紀末から各種の改革 (?) が提案されます。就活中の12人全員を採用し、役職を置かない完全に平等なシステムも考えられました。オクターヴ内の12個の音を1回ずつ使って「音列」を作り、その順番で音を使います。たとえばドならどの高さのドでもオーケー。同じ音なら何回繰り返してもオーケー。音の長さは自由(だからリズムも自由)。ただ、決められた音の順番は変えられません。

音の並べ方は12×11×10……=479,001,600通り。順番に3つずつ4個の和音、あるいは4つずつ3個の和音にしたり、音列を途中で分けて、2声部で対位法的に使ってもオーケー。さらに、基本音列から派生した音列を組み込むことも考えられます。たとえば、基本音列の12の音を後ろから順番に使う逆行形。また、音列のそれぞれの音の間隔を保ったまま最初の音の高さを変えると、全部で11種類の移高形(または移置形)ができます。

1920年前後にこのような全く新しい体系を考えたのは、ハウアーとシェーンベルク。十二音技法(twelve-tone technique)と呼ばれます。シェーンベルクの体系のほうが作曲家に残された自由度が高く、主流になりました。譜例1は、彼のピアノ曲 op. 25 no. 1 の基本音列と、その全ての音を6半音ずつ高く移した移高形。譜例2は、その2つの音列の使われ方1。複雑ですね。この曲の分析を宿題にされたら、泣いちゃいそう。

譜例1:シェーンベルク Suite op. 25, no. 1(プレリュード)基本音列と7番目の移高形

譜例2:シェーンベルク Suite op. 25, no. 1(プレリュード)1〜3小節(上)と16〜17小節(下)

私たちは調性音楽にあまりにも慣れ親しんでいるため、導音→主音(シ→ド)とかドミナント→トニカのような特定の重要な音に「解決」する関係を、無意識に探してしまいがち((80) 音楽における解決参照)。階級社会の要素を排除した「音列」という全く新しい秩序にもとづく夢の平等社会、シェーンベルクの十二音技法は、第2次大戦後、さらに発展していくことになります。

  1. 譜例はいずれも上野大輔「十ニ音技法」『音楽通論』久保田慶一編、アルテス、2009、129〜130より。 © 1925, Universal Edition A. G., Wien / UE 7627.