07. 12月 2016 · (298) ストコフスキーの楽器配置 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

20世紀に入ってからも使われていた、オーケストラの対向配置((296) 英語で何と言うのか?参照)。セカンド・ヴァイオリン(以下、ファースト、セカンドはヴァイオリンを指す)を、ファーストに向き合う形で指揮者の右側に置く配置です。ファーストとセカンドを左側にまとめる現在の配置は、ヘンリー・ウッドが先に採用したにもかかわらず((297) 対向配置を変えたのは誰?参照)、「ストコフスキー・シフト」として知られていますね。実はストコフスキーは、これ以外にも様々な配置を試みました。

ユニークなのが、木管楽器と弦楽器の位置を逆にした配置(図1)。半円形に並んだ前2列に木管楽器、その後ろの左側に金管楽器、右側にホルンと打楽器。間にヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが座り、一番後ろはコントラバス。Koury はこれを「(いわゆる)upside-down seating 逆さま配置」と呼んでいます1

図1:逆さま配置

図1:逆さま配置

まさか本当に使われたんじゃないでしょ?!と思った方、本当だったんですよ(写真12)。1939年から40年にかけてのことです。当時の音楽において管楽器の重要性が高まったことや、後ろの壁に近い方が、弦楽器の音がより効果的に反響すると考えられたことなどが理由3。最後列にずらりと並んだコントラバスは、なかなか壮観ですね。1940年の全米青年管弦楽団(All American Youth Orchestra)演奏会では、コントラバスの前にチェロも一列に並ぶ「逆さま配置」が使われました。

写真1:フィラデルフィア管弦楽団、1939年

写真1:フィラデルフィア管弦楽団、1939年

写真2は、1957年のヒューストン交響楽団の配置。「逆さま配置」は放棄され、ヴァイオリンが手前左、ヴィオラがその右。ヴィオラの後ろの手前右に木管楽器、さらに後ろに打楽器。金管楽器は中央に並んでいます(左側にテューバが見えますね)。そして、最後部に横1列のコントラバス、その前にチェロが並びます。セリ台はかなりの高さ。コントラバスが乗る最上段は、打楽器奏者の頭ほどの高さです。

写真2:ヒューストン交響楽団、1957年

写真2:ヒューストン交響楽団、1957年

弦楽器を左側、管楽器を右側に分ける配置も試されました(図2)。弦と菅が互いに掛け合うようなフレーズで効果的と考えられたのです。楽器配置だけでなく、平らな舞台のままかセリ台を使うかなども、ストコフスキーの実験の対象でした。また、フィラデルフィア管弦楽団では弦楽器の上げ弓・下げ弓を定めず、個々の奏者に任せる「自由ボウイング free bowing」も採用されました4

ストコフスキーの試みは、このようにかなり風変わり。ただ彼は、奇をてらったり気まぐれでこれらを試したのではなく、より良い響きを求めて工夫を重ねていたのです。ヴァイオリンを左側にまとめるストコフスキー・シフトは、現在世界中のオーケストラのスタンダードですが、当時の人たちはきっと、私たちが図1や図2を見て驚くのと同じくらい驚いたのでしょうね。来週のコラムはお休みさせていただきます。

図2:弦楽器を左、管楽器を右に置く配置

図2:弦楽器を左、管楽器を右に分ける配置

  1. Koury, Daniel J., Orchestral Performance Practices in the Nineteenth Century. Univ. of Rochester Press, 1988, p. 310. 図1と2は同書 p. 311より。
  2. Huffmann, Larry, “Interviews with Leopold Stokowski,” http://www.stokowski.org/. 写真2も。
  3. Koury, p. 310.
  4. Del Mar, Norman, Anatomiy of the Orchestra, Faber & Faber, 1981, p. 77.
25. 11月 2015 · (261) 続・オーケストラの楽器配置(ロンドン、1840) はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

前回に引き続き、19世紀前半のロンドンのオーケストラ配置について。ベルギー出身の音楽評論家フェティス(François-Joseph Fétis, 1784〜1871)は、1829年にロンドンのフィルハーモニー協会オーケストラを聴き、パリのオーケストラ(パリ音楽院演奏協会や、コンセール・スピリテュエルなど)と異なる点を指摘しています1

    1. ひな壇が急。他の人たちのほとんど頭の上の位置で演奏する者も
    2. 指揮者が奏者ではなく聴衆のほうを向いている
    3. 全てのコントラバス奏者が最前列にいる。ただし、演奏する位置は他の楽器奏者よりも低い

1の高低差についてフェティスは、「自分の上や下で行われていることが、奏者にほとんど聴こえない」と批判。でも、3の「フランスの音楽家たちがきっとすごく驚く」であろうコントラバス配置は、「音響学の原理に反する」にもかかわらず、「思ったほど不快ではない」と認めています。理由は1と関連していて、おそらく後ろのヴァイオリン奏者たちがコントラバス奏者よりずっと高い位置で弾いているために、彼らの音がコントラバスの音に妨げられないからと分析しています。

コントラバス最前列の理由は、演奏の拠り所となる低音を目立たせるためでした2。指揮棒の普及とともに、良いアンサンブルを保つための低音重視の慣習は廃れていきます。コントラバスがステージ最前列を占めることもなくなり、前回 (260) 図1でご紹介したように、左右後方2か所に配置されることに。ただ、位置は完全には定まっていなかったようです。下の1843年のロンドンのオーケストラ((260) 図2を再掲)では、左端最前列に2台のコントラバスが見えます。

このオーケストラのイラスト、興味深いですね。歌い手がいなくても、指揮者は舞台の中央に位置していて、前にかなりの数の楽器奏者がいます。(141) どこを向いていたのか? 指揮者のお仕事図2のルイ・ジュリアンも、中央で指揮していました。ここが指揮しやすかったのでしょうか? それとも、1番手前に立つと何人もの奏者が聴衆から見えなくなるから?

フェティスの報告のように、指揮者はこちら=聴衆のほうを向いていますね。長い指揮棒を振っているので、指揮者の後ろ側の奏者がタイミングを合わせることは可能かも。でも、指揮者の手前でこちらを向いて座っている奏者はどうするの? 背中で指揮者の気配を感じる? 指揮者の鼻息に合わせる? 慣れないと(慣れても?!?)かなり難しそうですね。

図2:ロンドンのオーケストラ、1843年

ロンドンのオーケストラ、1843年

  1. Koury, Daniel J., Orchestral Performance Practices in the Nineteenth Century. Univ. of Rochester Press, 1988, p. 211 (source: Fétis, François-Joseph, Curiosités historiques de la musique, complément nécessaire de la musique mise à la portée de tout le monde, Paris, Janet et Cotelle, 1830, 186-88).
  2. Ibid., op.cit.
19. 6月 2013 · (138) 弦楽四重奏:不公平な編成はなぜ? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , , ,

各パートを1人で演奏する音楽である室内楽の中で、最も重要でレパートリーも多いのが、弦楽四重奏曲。ヴァイオリン2人にヴィオラとチェロが1人ずつ。弦楽五重奏やピアノ五重奏などと違って、弦楽四重奏の編成は必ずこの組み合わせと決まっています。

弦楽器って4種類あるのだから、4重奏ならヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス各1の方が自然ですよね。でもそうではなく、ヴァイオリンが2人。その分コントラバスは入れてもらえない。不公平! 以前書いたように、弦楽器の中でコントラバスだけがヴィオール属の血を色濃く残していますが((31) 仲間はずれはだれ?参照)、それが理由ではありません。

「弦楽四重奏の父」ハイドンがこの(不公平な)編成で作曲したいきさつについて、グリージンガーは伝記の中で以下のように述べています。「フュルンベルク男爵という人が、ときどきちょっとした音楽を演奏させるために、彼の主任司祭、管理人、ハイドン、そしてアルブレヒツベルガーを招いた。男爵はハイドンに、この4人のアマチュアが演奏出来るような曲を何か作るようにリクエストした。当時18歳だったハイドンはこれを受けて、彼の最初の弦楽四重奏曲 op. 1, no. 1 を考案した。それが世に出るや否や、世間一般に良く受け入れられたので、ハイドンは思い切ってこの形でさらに作曲した」1

えーっ、たまたまヴァイオリン2、ヴィオラ1、チェロ1が集まったから、このジャンルが生まれたということ?!? もしも集まった4人のうちの3人がチェリストだったら、ハイドン(とその後)の弦楽四重奏はヴァイオリン1、チェロ3の編成になっていたかもしれないの?!? まさか、そんなはずありませんよね。彼がこの編成のジャンルを「考案」したわけではありません。ちなみに、ハイドンが最初期の弦楽四重奏曲10曲を作ったのは、1757〜62年頃。20代後半です2。18歳なんて、グリージンガーさんサバ読み過ぎ!

不公平な編成の理由は、バロック音楽の通奏低音の中に見つかります。低音旋律楽器と鍵盤楽器の左手が、低音旋律を演奏するのでしたね((132) 楽譜どおり演奏しても足りない場合参照)。前者にはチェロやファゴットだけではなく、コントラバスも含まれます。つまり、チェロとコントラバスは同じパートを演奏していたのです。だから、各パート1人の室内楽ではコントラバスはあぶれて(?!)しまいました。

それならなぜ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの弦楽3重奏が主流にならなかったのでしょうか。この理由もバロック音楽のトリオ・ソナタの中に見つかります。トリオとカルテットじゃ1人違う……のではなく、トリオ・ソナタの演奏者も4人でしたね((135) トリオはトリオじゃなかった?参照)。最も一般的だったのは、ヴァイオリン2つとチェロ、チェンバロという組み合わせ。

実はこのトリオ・ソナタは、弦楽四重奏の主要な先駆形態のうちの1つ。2パートのヴァイオリンのかけあいをチェロとチェンバロの通奏低音が支えていたのですが、このバロック時代の伴奏習慣は次第に廃れていきます。チェンバロ(の右手)に代わって、旋律と低音の間を埋めるために使われるようになったのが、ヴィオラ(ようやく登場! (37) ヴィオラはえらい?参照)。でも、ヴィオラ1つで和音充填するのはかなり難しい。そのため、ヴァイオリン1は旋律、2はヴィオラとともに伴奏という分業が普通に。

というわけで、弦楽四重奏の編成が不公平なのは、バロック時代のトリオ・ソナタがご先祖様の1つだったから。もう1つのご先祖様については、また改めて。

  1. Jones, David Wyn, “The Origins of the Quartet” The Cambridge Companion to the String Quartet. Cambridge University Press, 2003, p. 177(グリージンガーの『伝記』の英訳が引用されている)。大宮真琴はアルブレヒツベルガーを有名な対位法家本人と書いていますが(大宮真琴『ハイドン』音楽之友社、1981、44ページ)、Jonesはその兄弟のチェリストとしています。
  2. Jones, 前掲書、178。
13. 7月 2011 · (37) ヴィオラはえらい? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

「居なくてもきっとなにも変わらないさ」(槇原敬之「ビオラは歌う」)と歌われてしまったヴィオラ。以前、コメントをくださった生涯一中提琴さんとお約束した、「中提琴(中国語でヴィオラ)はえらい?」の立証にトライしてみましょう。以下の3つの理由でヴィオラはえらい……か?

1. 弦楽器のイタリア語名はヴィオラ viola に由来するからヴィオラはえらい?

  • ヴァイオリン violino = viola + イタリア語で縮小の意味を表す接尾辞 -ino = 小さなヴィオラ (Andante → Andantinoも同様)1
  • コントラバスのご祖先ヴィオローネ violone = viola + 増大の接尾辞 -one = 大きなヴィオラ(トロンボーン trombone は tromba らっぱ + -one で大きならっぱ)
  • チェロ violoncello =大きなヴィオラ violone + 縮小の接尾辞 -ello=小さな大きなヴィオラ

ここまではご存知の方も多いと思いますが、残念ながらこのヴィオラは中提琴ではありません。ヴィオラやヴィオールという言葉は、中世以来ヨーロッパで、弓で音を出す擦弦楽器の総称として使われました。16世紀の始めに、ヴィオラ・ダ・ガンバ属とヴィオラ・ダ・ブラッチオ属に分かれ、後者がヴァイオリン属を形成していきます((31) 仲間はずれはだれ?参照)。中提琴はえらい……わけではありませんでした。

2. 音響学的に不利だからヴィオラはえらい?

まず音域を考えてみましょう。単純に言うとヴィオラは、ヴァイオリンのE線を取り去ってあとの3本を残し、下にC線を加えたような楽器。ヴィオラの最低音はヴァイオリンより5度低くなります。一方チェロはヴィオラと同じ「どそれら」調弦。最低音はヴィオラよりも1オクターヴ、つまり8度低いのです。

次に楽器の大きさを思い浮かべてください。チェロはヴィオラに比べてずっーと大きいのに、ヴィオラとヴァイオリンの差はわずか。8度の音程差でチェロがヴィオラよりあれだけ大きいのなら、5度の音程差があるヴィオラだって、本当はヴァイオリンよりかなり大きいはずですよね。

ヴァイオリンと音響学的に同等のヴィオラを作るとすると、ネックを除く本体の長さが約 53cm 必要だそうです2。低音弦も豊かに美しく響くこの理想的なサイズは、しかしながら腕に対して長過ぎて演奏不可能。だから、現在の約40cmほどの大きさに押し込んでいるのです。楽器構造上の無理は、ヴィオラの音色や音量に影響します。それでも、本来の大きさの楽器から輝かしく力強い音色を奏でるヴァイオリンやチェロに、渋い音色で対抗しているのだから、ヴィオラはえらい!!……かも。

3. 重視されなかったバロック時代を生き抜いたからヴィオラはえらい?

バロック時代、アンサンブルにおいてヴィオラがソロとして扱われるのは(フーガを除くと)非常に稀でした。また、17世紀以降、数えきれないほどのヴァイオリン協奏曲やたくさんのチェロ協奏曲が作られた一方で、最初のヴィオラ協奏曲がテレマンによって作られたのは1740年頃。しかもこの時代のヴィオラ協奏曲は、他にわずか3曲だけなのだそうです3

バロック時代には、同じ音域の楽器2つによる独奏のかけあいを、通奏低音(この時代特有の伴奏体系)で支えるトリオ・ソナタと、独奏+通奏低音のソロ・ソナタが流行します。ヴァイオリンはしばしば独奏楽器として、チェロは通奏低音を担う楽器として重要でしたが、ヴィオラには出番がありませんでした4。ヴィオラの個性が求められるようになったのは、ハイドンやモーツァルトによって、弦楽四重奏曲が声部均等に(部分的にせよ)作られるようになってから。長い間、廃れず地味に存続し、「誰かの為の旋律」(槙原)を歌うようになったヴィオラはえらい……。

というわけで生涯一提琴さん、「ヴィオラはえらい」ではなく「ヴィオラは健気!!」という結論になってしまいました。どうぞご了承ください。

  1. 女性形は -ina。他に -etto(女性形 -etta)も縮小の接尾語。Allegro → Allegretto など。
  2. Boyden & Woodward, “Viola” in The New Grove Dictionary of Music, vol.26 (Macmillan, 2001), p. 687.
  3. 同 p. 691。他の3曲は、J. M. Dömming、A. H. Gehra、G.Graun の作(実はグラウン以外は初めて見た名前です)。この4曲以外のほとんどは、他の楽器のための協奏曲のアレンジ。以前ヘンデル作とされたロ短調の協奏曲のように、後世の人(この場合はヴィオラ奏者アンリ・カサドシュ)がバロック風に作ってしまった作品もありました。
  4. 場合によってはヴィオローネやコントラバスも、通奏低音楽器としてソナタに参加しました。

オーケストラで使われる弦楽器は、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの4種類1。この中の仲間はずれはどれでしょう?

答えは……コントラバス!

形を見ると一目瞭然ですね。コントラバスだけがなで肩です。弓の持ち方も逆。ヴァイオリンなどは弓を上から持ちますが、コントラバスでは逆に、手のひらを上に向けて持つ奏者が多いはずです(ヴァイオリンのように持つ方法もありますが)。もう一つの大きな違いは調弦の仕方。ヴァイオリンの弦は低い方から「そ れ ら み」、ヴィオラとチェロは「ど そ れ ら」と5度間隔に合わせますが、コントラバスは「み ら れ そ」。4度間隔です。

図1 ヴィオラ・ダ・ガンバ(ヴィオール)

なで肩や筆記具と同じような弓の持ち方、4度調弦は、弦楽器のご先祖様のひとつであるヴィオラ・ダ・ガンバ属の特徴です。ヴィオラ・ダ・ガンバはイタリア語で「脚のヴィオラ」、つまり現在のチェロのように脚で支える擦弦楽器で、ヴィオールとも呼ばれます(図1参照)。リコーダーのように、アルトやテナーなどいろいろなサイズがありますが、4度(一部3度)間隔で調弦する6弦が基本で、細いガット弦を結びつけたフレットが7つ。16世紀からバロック時代にかけて、特に上流階級の楽器として愛好されました。でも、弦楽器のもうひとつのご先祖様であるヴィオラ・ダ・ブラッチオ属(「腕のヴィオラ」つまりヴァイオリン属)に比べて音色が渋く音量が小さかったために、音楽文化の担い手が王侯貴族から都市市民に代わり、彼らのために広い会場で演奏会が開かれるようになると、廃れてしまいました。

コントラバスの外見は、ヴィオラ・ダ・ガンバ属の最低音域を受け持っていたヴィオローネと、ほとんどそっくり(このサイズだけは、脚で支えません)。ヴィオローネは、ガンバ属の中でヴァイオリン属と併用された最後の楽器です。この直接のご先祖様の特徴をいくつかしっかり保ちつつ、C字響孔を f 字形に変える、4弦にしてフレットを無くすなど、ヴァイオリン属の特徴を取り入れて改良されました。弦楽器ファミリーの頼れるお父さん役 (?) をこなしてくれています。

ちなみに、コントラバスが仲間はずれだから弦楽四重奏に入れてもらえない……というわけではありませんので、念のため。

  1. もちろん、ハープも弦楽器です。