30. 9月 2015 · (254) フリギア旋法とは何か はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , ,

ブラ4の解説には、第2楽章のフリギア旋法が必ず言及されていますね(私も既に (252) でそう書いてしまいました)。手っ取り早く言うと、フリギア旋法は「ミファソラシドレミ」。第2楽章はシャープが4つもついたホ長調なのに、ホルンが始める冒頭の旋律はミーミーファーソミーミーレード……ミーミーレードミー。ファドソレの♯が、全てキャンセルされています。これがフリギア旋法の部分。

フリギア旋法は、グレゴリオ聖歌を体系化する中で整えられた8種類の教会旋法のうちの1つ。中世やルネサンス時代の音楽は、教会旋法に基づいて作られました。その後に成立した長調や短調の音階と、共通する点・相違する点があります。

音域は同じ1オクターヴ。フリギア旋法なら、ミからミまでですね。でも、長短調とは異なりピアノの白鍵盤にあたる全音階の音だけで構成されます。長短調における主音のような中心音は、終止音(ラテン語でフィナーリス)と呼ばれます。フリギア旋法の終止音はミ。

主音1つに2種類の音階がある(たとえばハを主音にするハ長調とハ短調)ように、同じ終止音を持つ旋法も2種類。一方は、終止音から終止音までの音域を持つ正格旋法。フリギア旋法も正格旋法です。もう一方は、終止音の上下に1オクターヴの音域を持つ変格旋法。フリギア旋法と同じミを終止音にする変格旋法ヒポフリギア旋法は、シからシまでの音域を持ちます。

旋法と長短調の大きな違いは、音の並べ方。たとえば長調はオクターヴの7つの音の間隔が「全(=全音)・全・半(=半音)・全・全・全・半」と決まっていますが、教会旋法はこの間隔がそれぞれ異なるのです。たとえばフリギア旋法なら「半・全・全・全・半・全・全」ですし、レを終止音とする正格旋法ドリア旋法なら「全・半・全・全・全・半・全」(フリギア旋法の《かえるの歌》は「ド−レ♭−ミ♭−ファ−ミ♭−レ♭−ド ミ♭−ファ−ソ−ラ♭−ソ−ファ−ミ♭」、ドリア旋法では「ド−レ−ミ♭−ファ−ミ♭−レ−ド ミ♭−ファ−ソ−ラ−ソ−ファ−ミ♭」になります1)。

16世紀にスイスの音楽理論家グラレアヌス(1488〜1563)が4旋法を加え、教会旋法は12種類に。ただ、単旋律音楽(聖歌)のための理論を、ルネサンス時代の多声音楽に使うのは無理がありました。音域が広がり、半音階変化が多くなると、各旋法の特徴が曖昧になっていきます。結局、ラから1オクターヴのエオリア旋法と、ドから1オクターヴのイオニア旋法を元にする短音階と長音階2種類に集約されることに。

新しい調体系が確立すると、教会旋法はほとんど使われなくなりました。ところがその後、調性音楽の可能性が汲み尽くされてくると、作曲家たちは新しい素材として、教会旋法や民族音楽で使われる音階などに目を向けます。ブラームスも、ホ長調の楽章の最初の単旋律部分をフリギア旋法で作曲することで、ブラ4に古風な雰囲気と不思議な新しさを加えたのです。

  1. haryo12さん、ありがとうございました。
28. 1月 2015 · (222) ♯・♭・♮ の元 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

楽譜の中でいつもお世話になっている変化記号。♯(シャープ、嬰記号)は半音高く、♭(フラット、変記号)は半音低く、♮(ナチュラル、本位記号)は ♯ や♭を解除という意味ですね。五線の端で調号として使われたり、五線の途中で臨時記号として使われたり。

見慣れていて、いつも機械的に半音上げ下げするだけの ♯・♭・♮ ですが、起源をご存知でしょうか。次の3つのうち、正しくないものはどれでしょう?

  1. ♯・♭・♮ の原型は、1000年くらい前から存在する
  2. 3つとも同じ記号に由来する
  3. ♯ と♭は、元は同じ意味で使われた

♯・♭・♮ は、グイード・ダレッツォが理論書『ミクロロゴス』(c. 1030)などで用いた記号が起源。グイード・ダレッツォは、グレゴリオ聖歌の旋律を歌うための「ソルミゼーション」シラブル、ウト–レ–ミ–ファ–ソル–ラを考案した11世紀の僧でしたね((78) ドレミの元参照)。

四角い b

図1:四角い b

彼は、当時置換え(=ムタツィオ。(78) 参照)のために使われていた2種類のロ音を区別するために、通常のロ音を「四角い(またはかたい)b」、変ロ音を「丸い(または柔らかい)b」と呼びました。そして、後者をb、前者を角張ったb(図1参照)の形で記したのです。異なる記号で2つのロ音を区別したのは、グイード・ダレッツォが最初ではありません。b の逆である q や、他のアルファベットで記した資料もあります1。でも、グイードの記号がスタンダードに。

12世紀には ♮記号、13世紀には ♯ 記号が「四角いb」として登場。♯・♮ の2つに意味の違いは無く、写譜者や出版業者が自分の習慣で使っていました。♮ が、 ♯ や♭の解除だけを意味するようになったのは、18世紀。

というわけで、最初の3つの質問のうち間違っているのは3。♯ と♭ではなく、♯ と♮ が同じ意味でした。16世紀ドイツでは、出版業者たちが四角い b として h を使用2。現在のドイツ音名(B が変ロ音、H がロ音)に引き継がれています。

  1. Hilly, David, ‘Accidental,’ The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 1, Macmillan, 2001, p. 51.
  2. 同上。
16. 7月 2014 · (194) セルパンってどんな音? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , ,

フランス語で「蛇」の名前を持つ楽器セルパン(図1)。1度見たら忘れられない形ですね。英語では(同じ綴りで)サーペント。円錐管の内径は、およそ1.3cm〜10.2cm。金属製クルック部分も加えると、全長約2.44m! 楽器部分は木製(クルミ)で、孔が6つ(見える側だけで、親指用の孔が無いのが特徴)。でも、唇の振動で音を作る金管楽器の仲間です。孔は3つずつ2カ所に分かれていて、両手で上から押さえます(図1左)が、右手は下から押さえることも(図1右)。

図1:セルパン(右はロンドン、セント・ジェームス・パレスの衛兵交代図より、1790年頃)

図1:セルパン(右はロンドン、セント・ジェームス・パレスの衛兵交代図より、1790年頃)

1590年頃の発明とされ、フランスで聖歌隊(特に定旋律=グレゴリオ聖歌を歌うテノール声部。(85) アルトは高い参照)の補強に用いられました。低音域の楽器で、指孔のおかげで自然倍音以外の音も出せるからですね((42) 神の楽器? トロンボーン参照)。ドイツやイギリスでは、軍楽隊の楽器として使われ始めました(図1右)。ヴァーグナーは《リエンツィ〉でコントラファゴットの代わりに用いています。

図2:メルセンヌ、セルパン(1777)

図2:メルセンヌ、セルパン(1636)

図2は、メルセンヌによるセルパンの楽器図解と音域表(Harmonie universelle、1636-7)。最低音はヘ音記号の下に加線1本のミ(クリックで拡大すると音域表の真ん中あたりのヘ音記号がわかりますから、ファ、レ、シ、と線を下に数えていきましょう)。音域は2オクターヴ以上。リコーダーのように穴を半分開けて半音を出しました。後に孔が増え、音域も拡大します。

いったいどんな音がするのでしょう? テオルボとアーチリュートの伴奏でセルパンがソロをしている動画を見つけました。曲は、ヴェネツィアで活躍した木管楽器奏者ジョヴァンニ・バッサーノ(1560/61〜1617)による、無原罪の御宿りを歌ったパレストリーナの5声モテット〈Tota pluchra es(あなたは全て美しい)〉の器楽用アレンジ(1591、ヴェネツィア)。

素朴で柔らかい音色ですね。聖歌隊の補強に使われたのもうなずけます。テューバのご先祖様(のご先祖様)ですが、それほど低い感じではありません。この動画では1分過ぎくらいから演奏風景になります(が、セルパンがよく見えないのは残念)。テオルボとアーチリュートは、よく似たリュート属の撥弦楽器。向かって左がテオルボで、本来はネックはいずれも左側です。

12. 3月 2014 · (176) 「音楽の悪魔」in《死の舞踏》 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

あとひと月あまりに迫った第10回記念定期演奏会は、オール・フランス・プログラム。19世紀後半に作られた3人の作曲家による4曲を演奏します。聖フィルがフランス人の作品を取り上げるのは、これが初めて。今回は、サン=サーンスの交響詩《死の舞踏》について書きます。

毎年、ハロウィーンの日の真夜中に死神が現れ、墓から死者(→骸骨)たちを呼び出してダンスを踊らせるという言い伝えに基づく音楽。もとは、フランスの医師・象徴派の詩人アンリ・カザリス(1840〜1909)の詩を歌詞とした、ピアノ伴奏付き歌曲でした。2年後の1874年、交響詩(正確には音詩)に改訂。夜中の12時の鐘をあらわすハープ、レクイエム(死者のためのミサ曲)で用いられるグレゴリオ聖歌(セクエンツィアという種類)の一部「ディエス・イレ(怒りの日)」の引用(長調に変えられているので、それらしくありませんが)、骨が擦れる音をあらわすシロフォンなど、描写的。踊りの興奮が高まりますが、雄鶏が夜明けを告げると(フランスの鶏の鳴き方、コケコッコーとは微妙に異なります。オーボエに注意!)、みな、あわてて墓に戻っていきます。

死神が弾くフィドルをあらわす独奏ヴァイオリンの不協和音は、ラとミ♭。この減5度(=増4度)音程は、3つの全音から成る「音楽における悪魔 diabolus in musica」でしたね((122)「音楽の悪魔」in《白鳥の湖》参照」。横の動き(旋律)としても縦の響き(和声)としても、古くから使用が避けられてきた音程です。死神をあらわすのにぴったり。

《死の舞踏》ではこの「音楽の悪魔」の音程にスコルダトゥーラが使われることをご存知の方も多いと思います。(楽器の)調子を狂わすという意味のイタリア語 scordare に由来するスコルダトゥーラは、弦楽器を通常と違う音に調弦すること。バロック時代によく使われました。ハインリヒ・ビーバー(1644〜1704)の《ロザリオのソナタ》では、ヴァイオリン・ソナタ15曲と終曲パッサカリアの全16曲のうち、通常のソレラミのチューニングを使用するのは最初と最後の2曲のみ。他の14曲は、ソレラレとかソドソレとか、すべて異なった組み合わせでスコルダトゥーラされます。弾いていて頭が混乱するのは間違いなし。

《死の舞踏》では、1番細い弦(E線)を半音下げるスコルダトゥーラ(ソレラミ♭)。こうするとラとミ♭の減5度が、高い方の開放弦2つの重音で出せるのです。開放弦は、ヴィブラートを(基本的に)使えないなど、指で押さえて出す他の音とは異質の響き(しかも2本分)を作ります。この減5度と一緒に使われるもう1つの和音レとラも、開放弦2つの重音です。不協和音ではありませんが、真ん中の音を欠く空虚5度で、やはり落ち着きが悪い。これらの「普通じゃない」響きが、「普通じゃない」登場人(?!)物を効果的にあらわしています。

13. 6月 2012 · (85) アルトは高い はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , ,

女声の低いパートをアルトと呼びますね。でも、アルトはイタリア語で「高い」という意味です。矛盾している? いえいえ、「テノールよりも高い」声部です。現在、高い男声を指すテノールは、中世以来、とても重要な役割を持つパートでした。アマ・オケ奏者のための音楽史第7回は、中世の音楽が私たちに馴染みのある音楽に少しずつ近づいて来た約500年間についてです。

グレゴリオ聖歌は、メロディー1本だけのモノフォニー。バス・ラインも和音もありませんでしたが、やがて、より豊かな響きを求めて対旋律が加えられるようになります。2つ以上の旋律から成るポリフォニー(多声音楽)の誕生です。9世紀末の理論書には、聖歌の各音の下に新しい音を1つずつ加えるシンプルな方法が書かれています。12世紀になると、聖歌より高い音域に、自由で装飾的な対旋律が作られるようになりました。ひとつの母音でたくさんの音を歌う新旋律の下で、聖歌の1つ1つの音は長く引き伸ばして歌われます。聖歌のような既存の旋律を「定旋律」、それを受け持つ声部をテノール(ラテン語の tenere 「保持する」から)、上声を「ディスカントゥス」(ラテン語で「別々に歌う」の意)と呼ぶようになりました。

対旋律をもう1つ加えて、3声のポリフォニーも作られました。14世紀、3つ目の声部はコントラテノール(「テノールに対する」)と呼ばれます。テノールと同じ音域で旋律が作られたからです。でも、音域は同じでも中身は対照的。コントラテノールや、カントゥス(ラテン語で「歌」)とかスペリウス(ラテン語で「最上の」)とも呼ばれた上声が自由に細かく動くのに対し、テノールは相変わらず、定旋律を長い音符で歌っていました。

15世紀(ルネサンス時代!)には4声部がスタンダードに。声部名も4つ必要になりました。1450年頃、コントラテノールがコントラテノール・バッスス(「テノールに対して低い」声部)とコントラテノール・アルトゥス(「テノールに対して高い」声部)に分かれます。長い名前の一部が省略されて、4つの声部は

  • ラテン語:スペリウス(カントゥス、ディスカントゥス)、アルトゥス、テノール、バッスス
  • イタリア語:ソプラノ(カント、ディスカント)、アルト、テノーレ、バッソ

と呼ばれるようになりました。4声部は、豊かな響きを得るための最少の単位。この組み合わせは、1450年頃から現在に至るまで使い続けられています(図1参照)。

図1:4声書法の発展

名前が揃っただけではありません。構成のし方も変わって来ました。初めの頃、テノールの定旋律に合わせてそれぞれの対旋律が作られたため、対旋律同士の音がぶつかることも(大目にみられました)。複数の旋律で構成されるポリフォニーは、横の音楽。縦の響きは、声部間の音の重なりによってその瞬間に偶然生じるものでした。

しかし、最低声部がテノールからバッススに変わったために、現在、私たちが親しんでいる縦の音楽(ホモフォニー)にぐっと近づきました。テノール声部が受け持つ既存の旋律の動きにしばられず、自分で作った低音の上に意図的に音を重ね、縦の響きをコントロールできるようになったのです。もちろん、この間にも作曲家たちは、内声(になってしまった)テノールでは聴き取れないから、定旋律を1番上のカントゥスに歌わせちゃおうとか、逆にテノールならあまり聴こえないから(!?)、流行歌や、恋愛を歌った世俗曲の旋律を宗教曲の定旋律として使っちゃおうとか、ポリフォニーならではのさまざまな試みも続けているのですが。

主旋律とも言える定旋律を担っていたため、別格扱いだったテノール。長い間、音符を長く保持しながら歌うから「tenere 保つ」→テノールと呼ばれたと考えられてきましたが、最近では、ポリフォニーの構造を「しっかりと支える」声部だからと考えられるようになったそうです1

  1. D. Fallows & O. Jander, “Tenor”, New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol.25, Macmillan, 2001, 284. 図1は、ミヒェルス編『図解音楽事典』日本語版監修 角倉一朗、白水社、1989、230ページを参考にしました。
24. 5月 2012 · (82) 1000年前の楽譜、ネウマ譜 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

アマ・オケ奏者のための音楽史第6回は質問から。約1000年前の楽譜に存在しなかったものは?

  1. 小節線
  2. 音部記号(ト音記号など)
  3. 譜線(五線など)

    譜例1:ネウマ譜(イタリア、15世紀)

1000年前は11世紀、中世。クラシック音楽のルーツ、グレゴリオ聖歌が整えられていった時代です((65) グレゴリオ聖歌はいくつあるのか参照)。聖歌が、譜例1のような黒くて四角い「ネウマ」で書かれていたことをご存知の方もおられるでしょう。譜線は4本。聖書の言葉をぼそぼそ唱えているよりも、節をつけて歌った方が神様にも喜ばれるだろうと生まれたグレゴリオ聖歌ですから、歌と言っても音域が狭いのです。4線譜で十分でした。現代でも、グレゴリオ聖歌集はネウマで記されます。

音部記号もありますね。譜例1(クリックで拡大します)の中のAは、ヘ音記号。現在と同様、右側の2つの点に挟まれた線がファですから、右隣のネウマはラ。主の降誕のシーンが細密画で描かれた、大きなPのイニシャルの右側には、現在、ヴィオラの記譜に使われるハ音記号のCが書かれています(B)。Cに挟まれた線がドですから、白い楕円が重なった右隣のネウマはレ(ヘ音記号もハ音記号も、4線のどれにでも付けられます。聖歌の歌い手は男性だったので、ト音記号はありませんでした)。ということは、上の3つのうちで1000年前に存在しなかったのは、小節線だけ?

この黒く四角いネウマは、13世紀ころから一般的になった新しいタイプ。それ以前は、地域によってネウマの形や書き方が異なっていました。譜例2は、1030年頃に南フランスで作られたネウマ譜(聖パウロの日のための聖歌)。ラテン語の祈りの言葉(=歌詞)が小さく書かれた上の、茶色っぽい点々がネウマです。小節線はもちろん、音部記号もありません。だいたい、音部記号を書くにも線が無いし……。

譜例2:ネウマ譜(アクィタニア式記譜法、1030年頃)

あれれ、歌詞と歌詞の間に白っぽい線が見えます(拡大して見てください)。これが、ファを表す譜線。先が尖ったもので、羊皮紙を傷つけてあるのです。よく見ると、まるでこの線の上下に等間隔に線が引かれているかのように、音符の高さが揃っています。これなら、歌うことができますね。というわけで、1000年前の楽譜に存在しなかったのは、小節線と音部記号。もちろん、さらに古い時代には、譜線もありませんでした(譜例3参照)1

私たちが日頃お世話になっている楽譜は、数えきれないほどあるグレゴリオ聖歌の覚え書きとして始まりました。聖歌の歌詞の上に、旋律線を示すような簡単な印(ネウマ)を記し、メロディーを思い出せるようにしたのです。11世紀初めに、譜例2のようにファの譜線が刻まれるようになり、その後、ファの線が赤インクで書かれる→色違いのドの線が加わる→音部記号の導入と進み、正確な音高表記が可能に。四線譜の発明は、グイード・ダレッツィオ((78) ドレミの元参照)に帰せられています。小節線が加わるのは、まだまだ先です。

譜例3:ネウマ譜(ザンクト・ガレン式記譜法、950〜975年)

  1. 譜例1と3に書かれた聖歌は、両方とも、降誕祭のためのアンティフォナ《Puer natus est nobis 我らに幼な子が生まれ給えり》です。
26. 4月 2012 · (78) ドレミの元 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

「アマ・オケ奏者のための音楽史」第5回はドレミについて。いつも何気なく使っていますが、どうしてディン ドン デン ドゥン ダンとか、クン シャン チャオ チュ ユとかではなく、ド レ ミ ファ ソ ラ シなのか、これが何に由来するのかご存知ですか? 話は中世まで遡ります。

11世紀の僧グイード・ダレッツィオ(991-2頃〜1033後)が起源((64)『のだめカンタービレ』ありがとう!の図1で、千秋がこの名前もあげていますよ)。グイードは、音の高さとシラブルを対応させて歌う「ソルミゼーション」を考案しました。洗礼者ヨハネの誕生の祝日(6月24日)に用いられる、賛歌という種類のグレゴリオ聖歌《Ut queant laxis(貴方の僕たちが)》は、6つの句の初めの音が1つずつ高くなっていきます(譜例1の◯で囲まれた音参照)。そこで、グイードは各句の最初のシラブルをそれぞれの音の名前にしたのです。この ut re mi fa sol la ウト–レ–ミ–ファ–ソル–ラの6つが、ドレミの元の形です。

譜例1:《Et queant laxit(貴方の僕たちが)》(クリックで拡大します)

グレゴリオ聖歌はたくさんあり((65) グレゴリオ聖歌はいくつあるのか参照)、1年に1日しか歌わない聖歌も(たとえば、上の洗礼者ヨハネの誕生の祝日に使う聖歌は、同じ洗礼者ヨハネ殉教日や、福音書家ヨハネの祝日には使えません)。しかも、ほぼ口伝の時代ですから、大変! でも、この6つのシラブルとそれぞれの音の関係を覚えておくと:

図1:グイードの手(15世紀終わりの写本より)

  • 知らない旋律を聞いたとき、ウト–レ–ミで書き取ることができる
  • 読めない記号で書き付けられた知らない旋律を、ウト–レ–ミに対応させて覚えることができる

6つの音のうち、ミとファだけが半音の関係。下から全音–全音–半音–全音–全音です。ドから始まる6音だけではありません。シドの半音をミファと考えると、ソから始まる6音もウト–レ–ミ–ファ–ソル–ラ。シ♭を使うときは、ラとシ♭の半音がミファで、ファから始まる6音もウト–レ–ミ–ファ–ソル–ラ。6音を越える音域を持つ旋律は、この3種類を置換え(ムタツィオ)しながら歌いました。音によっては3種類に置換えられるものもあり(たとえばドの音は、ウト、ファ、ソル)、手の関節を使った早見表が使われました。グイードの手と呼ばれます(実際には、グイードの死後100年ほどしてから考案されたようです)。

ややこしい置換えなしに使えるように、17世紀初めに7つ目のシが加えられました(賛歌の最後の「聖ヨハネ Sancte Ioannes」の頭文字からと言われています。ラテン語に J はありませんでした)。歌いにくいウトをドに変えて、ドレミファソラシが完成。私たちも中世の僧たちと同じように、新しい旋律を歌ったり、覚えたりするときにお世話になっています。

ut re mi fa sol la は、5種類すべての母音と、それぞれ異なる6種類の子音の組み合わせ。このバラエティーに富んだ6つのシラブルから始まる《貴方の僕たちが》の各句の最初の音が、ちょうど1音ずつ高くなっていたなんて、素晴らしい偶然だなと思ったあなたは鋭い! 実はこの賛歌、歌詞は9世紀まで遡ることができるのですが、旋律はグイードより古い時代の記録が無いのです。そのため、グイードがソルミゼーションのために自分で作曲したか、あるいは現在は失われた既存の旋律を、作り直したのだろうと考えられています。

26. 1月 2012 · (65) グレゴリオ聖歌はいくつあるのか はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

「アマ・オケ奏者のための音楽史」第4回は、中世の音楽実践についてです。すべてがキリスト教によって支配されていたこの時代。音楽が、ムジカ・フマーナとかムンダーナとか((63) 音楽は数学だった ?! 参照)、理論ばかりだったわけではありません。教育機関では、神に捧げる音楽であるグレゴリオ聖歌を歌ったり作ったりする訓練も行われていました。

グレゴリオ聖歌は、カトリック教会の強化と典礼改革を行った教皇グレゴリウス1世(在位590〜604)にちなむ、いわばニックネーム。正式名称は「ローマ聖歌(カントゥス・ロマーヌス)」といいます。ヨーロッパ各地で用いられていた異なる聖歌の中で、8世紀にローマ教皇によって正式に認められた聖歌という意味です。特徴は:

  • 主旋律のみ(単旋律、あるいはモノフォニーと呼ばれる)
  • 伴奏:無し
  • 歌い手:男性(女子修道院などは例外)
  • 歌詞:ラテン語(多くは聖書から)
  • 8種類の教会旋法(モード)に分類されている
  • 現在も使われている

グレゴリオ聖歌は全部でいくつあるのか、私にはわかりません(ご存知の方がいらしたら、教えてください)。でも、膨大な数であることは確かです。

たとえば、クリスマスとイースターはどちらもキリスト教徒にとってとてもうれしい日ですが、主の降誕と復活では、喜び祝う内容が全く異なります。同じ聖歌を捧げるわけにいかないのは明らか。それぞれに固有な式文(歌詞)を持つ聖歌が必要になります。教会暦ではほとんど毎日のように、クリスマスやイースターのようなイエス本人に関する祝祭日や、聖人を記念する日などが定められていますから、それぞれにふさわしい式文の聖歌が必要です。

また、歌われるのは1日1曲ではありません。主日(日曜日)や重要な祝祭日に行われるミサ以外に、日々の務めである「聖務日課」でも聖歌が歌われます。これは、修道院などで毎日8回(!)決まった時刻に捧げる祈り。毎回、異なる複数の聖歌が必要です。

20世紀の実用版グレゴリオ聖歌集とも言うべき『リーベル・ウズアリス』(ソレーム修道院編纂、1961年)を数えてみました。全1900ページの中で、クリスマスのミサと聖務日課のための聖歌に、50ページ近くが費やされています。そのうち「朝課」(聖務日課の中の、夜明け前の祈り)用に、20ページ1。巻末の索引には、タイトルがおよそ2300……2

以前は、膨大な数の聖歌がグレゴリウス1世によって集大成されたとか、一部は彼自身が精霊に満たされて作曲したと伝えられていました。現在では、アルプス以北で歌われていたガリア聖歌をもとに、長い年月をかけて整えられていったと考えられています。そして、このグレゴリオ聖歌がクラシック音楽のルーツになるのです。

  1. 私も持っている『グレゴリオ聖歌集大成』(キングレコード、20枚組、非常に詳しい解説書付き)の中の「CD 2:クリスマスの朝課」は、そのごく一部を収めています。
  2. この索引には、ミサ曲に使われる5部分((7) クリスマスに聴きたい音楽 part 2参照)などは含まれていません。インターネットで聖歌を検索できる Global Chant Datebase には、各種の変形版も含めて25000曲近い聖歌が収められているそうです。