14. 8月 2013 · (146) フルートは持ち替えだった:2管編成完成まで はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , ,

オーケストラで楽器の持ち替えと言えば、フルート奏者がピッコロ、オーボエ奏者がイングリッシュ・ホルン(コーラングレ)、クラリネット奏者が E♭クラやバス・クラ、ファゴット奏者がコントラファゴットという具合に、サイズ(→音域)が異る同族楽器の掛け持ちを思い浮かべると思います(ホルン奏者がワーグナーチューバを持ち替えるのは、少し事情が異なりますが)。フルートが持ち替えって、どういうこと??

盛期古典派とそれに続く時期の、標準的なオーケストラ編成の復習から始めましょう。管楽器(特に4種類の木管楽器、フルート・オーボエ・クラリネット・ファゴット)が2つずつなので、日本では専ら2管編成と呼ばれます。典型は:

フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、
ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦

ハイドンがこの編成を使ったのは、最後の第2期ザロモン交響曲群(1794〜95年作曲)だけ。さらに早い1788年に交響曲を書き終えたモーツァルトは、特殊な状況下で作った《パリ》と《ハフナー》交響曲だけしか、2管編成を使うことができませんでした((115) 愛の楽器? クラリネット(2)など参照)。

一方、第1番交響曲(1800年完成)からこの編成を使ったベートーヴェン(やスポンティーニ、メユール、ロッシーニら同時代の作曲家たち)は、変形を始めます。チェロと同じ旋律を演奏していたコントラバスに独自のパートを与え、弦楽4部から弦楽5部へ。また、ホルンを増やしたり(3つ:《エロイカ》、4つ:《第九》)、トロンボーンを加えたり(《運命》《田園》《第九》)しています。

それでは、この編成にたどり着く前はどのような編成だったのでしょうか。初期古典派(1740年代から80年ころ)の標準的なオーケストラ編成は:

オーボエ2、ホルン2、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ファゴット、
鍵盤楽器(チェンバロかオルガン)、オプションでトランペット&ティンパニ

ヴァイオリン1とオーボエ1、ヴァイオリン2とオーボエ2は、多くの場合、同じ旋律を演奏。チェロ、コントラバス、ファゴット、鍵盤楽器の左手は、同じ低音旋律を演奏(チェロとファゴットは、独自の旋律をもらう場合も)。鍵盤楽器の右手は、和音充填を担当((132) 楽譜どおりに演奏しても足りない場合参照)。

この編成は、ヨーロッパ中のイタリア・オペラ劇場、私的・公開コンサート、重要な礼拝、舞踏会などのオーケストラで使われました。特別な機会では弦の数を増やし、管を倍に。また、特殊効果のために例外的に加えられる楽器も(黄泉の国のシーンでトロンボーン、羊飼いのシーンでシャリュモーなど)。逆に低予算の場合、弦楽器は各パート2人、あるいは1人に減らされたそうです1。やがて

ファゴットが独自のパートをもらって独立、管はオーボエ2、ファゴット2、ホルン2に。
フルートが加わり、フルート1、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2に。
フルート2になり、フルート2、オーボエ2、ファゴット2、ホルン2に。
クラリネット2も加わって、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2に。トランペットやティンパニも必須の楽器になり、盛期古典派の編成が完成!2

初めの疑問に戻って。フルートはいったい何と持ち替えだったのでしょう? 答えはオーボエ。古典派の初期においてフルートは、しばしばオーボエ奏者によって演奏されたのです。この2つの楽器は交換可能で、同時に用いられないのが普通でした。モーツァルトのフルート協奏曲第1番第2楽章で、第1・3楽章のオーボエに代わって使われるフルート。現在ではフルート奏者が演奏しますが、当時はオーボエ奏者がここだけフルートを吹いたのです。交響曲にもこのような例があります(ハイドンの24番など)。

そういえば、エステルハージ公のオーケストラ奏者は、弦楽器と管楽器(と打楽器)など複数の楽器を担当していましたね((105) ハイドンの給料 (1) 表1の13や19参照)。今ではほとんど考えられないオーボエとフルートの持ち替えですが、当時は朝飯前だったのかな?!!

  1. J. Spitzer & N. Zaslaw, ‘Orchestra,’The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 18, Macmillan, 2001, p. 533.
  2. 鍵盤楽器が用いられた時期に関しては、様々な説があります。
02. 1月 2013 · (114) ヨシとアシ はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , ,

明けましておめでとうございます。今年も、聖フィル♥コラムをよろしくお願いいたします。

新年と言えば日本音楽(というのも変なのですが。(9) 新年の音楽参照)。今回は、雅楽で主旋律を担当する縦笛、篳篥(ひちりき)についてです((52) なぜ管弦打楽と呼ばないのか参照)。長さ18cmほどの竹製(下図左)で、オーボエのようなダブル・リード属。リードはヨシで作ります。ヨシは、沼や川岸などの湿地に茂るイネ科の多年草(図中)。2〜3mも伸びる軽くて丈夫な茎は、よしずの材料です。

以前、大阪府高槻市に住んでいた時、篳篥奏者の友人が、東京からヨシを取りに来たことがあったので、高槻の淀川河川敷にある鵜殿(うどの)に自生するヨシが、篳篥のリード(盧舌)としてベストであることは知っていました。この鵜殿のヨシ原の上を横断する高速道路の着工が決定されたと聞き、雅楽の伝承の危機!と計画見直しの署名集めに協力したのですが、考えてみたら、篳篥のリードがどういうものでヨシからどうやって作るのか、全くわかりません。この機会にと、友人に聞いてみました1

篳篥に使うヨシは、外径11.5mmくらい。節の間を6cmほどの長さに鋸で切り(図右A)、吹き口になる方の外皮を繰り小刀で削ります(B)。そして、割れないように和紙を張りつけて(C)水に濡らし、炭火の上で温めながら鉄のこてでひしぐ(=押しつけてつぶす。D)。丸くて堅いヨシを水蒸気で柔らかくし、形を変えるのです。それをさらに薄く削って調整します(E)。平らにした部分は丸く戻ろうとするので、ちょうどよい形に保つために、真ん中あたりに「セメ」をはめます(F)。

図1左:篳篥、中:ヨシ、右:盧舌製作の過程(クリックで拡大します)

図左:篳篥  中:ヨシ  右:盧舌製作の過程(クリックで拡大します)

ダブル・リード属でも、篳篥のリードは(つぶされていますが)単体2。よい音を出すためには良いリードが不可欠であることは、オーボエやクラリネット、ファゴットなどと同じ。篳篥のリードとして使用するためには、ヨシの繊維の密度、茎の太さ、肉の厚みなど、微妙な条件を満たさなければなりません。雅楽を伝承する宮内庁式部職楽部では、鵜殿のヨシのみを使用。琵琶湖や利根川などのヨシも試したものの、鵜殿のヨシに叶う品質ではなかったのだそうです3。高速道路を作ってみて、やはり環境に影響があった、ヨシが減ってしまった、ヨシの質が落ちて良い音が出なくなった、では遅すぎますね。

さて、署名集めに協力していただく中で出た素朴な疑問:オーボエのリードもヨシ?

オーボエ奏者さんに「いいえ、ヨシではなく葦(アシ)です!」と言われて、そうかー、篳篥とは違うのねーと、皆といっしょに納得した私。そもそもリード reed って、英語で葦のことだし。

でも! アシとヨシは同じもの。アシは「悪し」に通じるため、「良し」と呼び替えられたのです。さきほど触れた「よしず」は漢字で「葦簀」あるいは「葭簀」、いずれもアシ。篳篥用リードである盧舌の盧もアシですね。

ただ、オーボエやファゴット、クラリネット用リードのアシ=ヨシ材(Arundo donax)は、篳篥用リードのヨシ=アシ(Phragmites communis または Phragmites australis)と異なります。日本語で暖竹(ダンチク)と呼ばれ、径が2〜4cmにも達するイネ科多年草。関東以西から中国、インドなどに広く分布していますが、地中海沿岸に自生しているものがリードとして使われるのだそうです。

  1. このコラムを書くために詳しい情報をくださった htm3nkmrさん、どうもありがとうございました。また、yu-tontonさんにも感謝いたします。
  2. 13/1/17追記:一方、たとえばオーボエのリードは、丸いアシをうすい舟形にし、水につけて半分に折り、裏表両側を削って加工。さらに、折った先端をカットして微調整するというプロセスで作るそうです。したがって、もとは単体ですが、最終的に2枚は離れています。IsaMorimさん、ありがとうございました。
  3. 東儀兼彦の言葉。「SAVE THE 鵜殿ヨシ原:雅楽を未来につなぐ」パンフレットより。図の写真もすべて同パンフレットより(http://www.save-udono.com/)。