31. 8月 2011 · (44) 神の楽器? トロンボーン part 2 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

均質で柔らかな音色を持ち、すべての音高を出すことができるため、ルネサンス時代に聖歌隊の支えや教会での奏楽に使われたトロンボーン((42) part 1参照)。今回は「トロンボーンは神聖な楽器なので、17、18世紀にはオペラで使用できなかった」が、◯か×か考えます。

トロンボーンは、オラトリオには使用されます。オラトリオはオペラと同様「独唱・合唱+オーケストラ」で構成されますが、題材が宗教的・道徳的だからです((7) クリスマスに聴きたい音楽 part 1参照)。旧約聖書を題材にした、ヘンデルの《エジプトのイスラエル人》やハイドンの《天地創造》などがその例です(《メサイア》には使われませんが)。

一方オペラは、愛や嫉妬、裏切りなどが描かれる上、政争や豪奢とも結び付きやすい究極の世俗音楽ジャンル。神聖なトロンボーンを使うなんてもってのほか!のはずですが……。「《魔笛》にトロンボーンが使われているよ」というあなたは鋭い! そのとおりです。

オペラでトロンボーンを使うことが許された理由は、2つあると思います。1つは、複数のトロンボーンが作り出す深く厚い響きによって、この楽器が、死や地下の(=死者の)世界と結びつけられていたこと。もう1つは、トロンボーンをまさにその(=死や闇の世界の)象徴として使ったオペラが、ごく早い時期に作られ、前例になったことです。

1607年に初演されたモンテヴェルディ作曲のオペラ《オルフェオ》では、トロンボーンがレガール(金属リードにより、少し耳障りな音を出す小型オルガン。リーガルとも)などとともに、地下の世界を表す楽器として使われます1。そして、妻エウリディーチェを生き返らせてくれるように懇願する主人公を伴奏する、ハープ(ギリシア神話のオルフェウスは、竪琴の名手です)や木管オルガンの音色と、大きなコントラストを作り出します2

17世紀の末以降、トロンボーンは多くの国で使われなくなってしまいました。しかし、オーストリアとドイツでは、教会と劇場用の楽器として生き残ります3。モーツァルトもこの伝統を受け継ぎ、宗教曲(中でも、レクイエム《トゥーバ・ミルム》のソロが有名)とオペラだけにトロンボーンを使いました。もちろん、宗教的な、あるいは超自然的な力が登場するシーンや、地下や闇の世界に限定して。

オペラ《ドン・ジョヴァンニ》では、動かないはずの石像が晩餐に登場し、悔い改めようとしないドン・ジョヴァンニ(イタリア語でドン・ファンのこと)が地獄に堕ちるまでの部分に、3本のトロンボーンが使われます4。しかも、3人の掛け合いの中、石像が歌う小節だけという念の入れよう(後半は、石像が沈黙した後もずっと使われますが)。《魔笛》での使用箇所が多いのは、夜の女王やザラストロ、僧侶たちといった、超自然的、あるいは神聖な登場人物が多いからでは? 興味深いのは《魔笛》序曲でのトロンボーン使用。モーツァルトも序曲を、オペラの筋を予示するというほどではないものの((41) 涼しくなる (?!) 音楽参照)、全体を概観するものと考えたということでしょうか5

というわけで、今回の結論も×。むしろ、「トロンボーンは神聖な楽器なので、17、18世紀にもオペラに用いられた」と言うべきかもしれません。

  1. 2年後に出版されたスコア冒頭の楽器リストには、トロンボーン4本と書かれていますが、第3幕の霊たちの合唱のページには、トロンボーン5本と指定されています。
  2. 楽譜が現存する最古のオペラに遅れること7年((27) 音楽史の時代区分参照)。《オルフェオ》の成熟した音楽表現は、後のオペラに大きな影響を与えました。
  3. Herbert, Trevor “Trombone” in The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 25 (Macmillan, 2001), p. 771.
  4. 12/02/03追記:石像が突然口をきく場面にも、3本のトロンボーンが使われます。
  5. しかし、《ドン・ジョヴァンニ》の序曲はこの石像シーンの音楽で始まるにもかかわらず、トロンボーンは使われていません。この他にモーツァルトは、《イドメネオ》にもトロンボーンを用いました。