19. 4月 2012 · (77) 近い調、遠い調 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , ,

「アマ・オケ奏者のための音楽史」はまだ中世をうろうろしているというのに(すみません、もうすぐ再開します)、新シリーズ「アマ・オケ奏者のための楽典」開始! 第1回目は調について。《レ・プレ》を弾きながら、調号(=調の記号。五線譜の左端のシャープやフラット)を見るだけで、新しい性格の曲と見当がつくなと考えていました。16分ほどの曲の中で調号が、無し→♯4→無し→♯4→無し→♯3→無しと変わります。変わる回数が多いだけが理由ではありません。

調は全部で24あります。長調が12、短調が12。ピアノの鍵盤を思い浮べてください。1オクターヴの中にある12の音(ドレミファソラシだけでなく、黒鍵もお忘れなく!)それぞれを主音として、長調と短調が始まります。たとえば、ハニホヘトイロのハであるドの音からはハ長調とハ短調、レの音からはニ長調とニ短調という具合1

この中には、互いに近い調と遠い調があります。2つの調の音階に共通した音が多ければ近く、少なければ遠いと考えます。近い調を近親調、遠い調を遠隔調と呼びます。近親調は:

  • 属調:ある調の主音から5度上の音(=属音)を主音とする調。たとえば、ハ長調に対してハニホヘトと5つ上がったト長調、ハ短調に対してト短調(その音から数えるんですよね。(62) 新年と音程参照)
  • 下属調:ある調の主音から5度下の音(=下属音)を主調とする調。たとえば、ハ長調に対してハロイトへと5つ下がったヘ長調、ハ短調に対してヘ短調
  • 同主調:同じ主音から始まる長調と短調。たとえばハ長調とハ短調、ニ短調とニ長調
  • 平行調:同じ調号をもつ長調と短調。短調は長調の3度下から始まります。たとえば、ハ長調とイ短調(調号無し)、ニ長調とロ短調(♯1つ)

    24の調

    譜例1:24の調(久保田慶一編『音楽通論』、アルテス、2009、97ページ)

属調は、元の調に較べて調号の♯が1つ増え(♭の場合は1つ減り)ます。調号無しのハ長調の属調ト長調の調号は、♯1つですね。逆に下属調は、調号の♭が1つ増え(♯の場合は1つ減り)ます。調号無しのハ長調の下属調ヘ長調の調号は、♭1つです(譜例1参照。クリックで拡大します。各調の属調は右隣、下属調は左隣)。

属調や下属調に転調しても、元の調と違うのは増えた(減った)調号の音1つだけ。他の6つの音はそのままです。だから近い調なのです。逆に、《レ・プレ》の転調のような、調号無しのハ長調と♯3つのイ長調や♯4つのホ長調は、共通する音が少ない遠い関係。遠隔調です。

(72) 第2主題はようこその気持ちでのソナタ形式の表を思い出してください。第2主題は、主調が長調のときは5度上の調(=属調)へ、主調が短調のときに3度上の長調(=平行調)で提示されます。属調も平行調も近親調。無理無く自然に転調できますし、調号を変えなくても、変化した音に臨時記号を付ければ済みます。

最も近い属調や平行調へ転調させるのが自然すぎてつまらなくなると、《レ・プレ》のように、主調がハ長調なのに第2主題を遠いホ長調で提示したりするようになります((75) 《レ・プレ》とソナタ形式参照)。その代表的な作曲家は……というお話は、また改めて。

  1. ファとソの間の黒鍵を主音とする長調は、嬰へ長調と変ト長調の2つありますが、このような異名同音調は1つと考えます。
27. 7月 2011 · (39) アウフタクトの3つの意味 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

専門用語を説明無しに使うのは良くないと思いつつ、既にコラムで何度もアウフタクトという言葉を使いました。他の言葉で短く言い換えられなかったからです。今回、このアウフタクトについて考えてみたのですが、3つの意味で使われ得ることに気づきました。

まず第1は、言葉通りの意味。ドイツ語のアウフタクト Auftakt を直訳すると「上拍」。英語のアップビート upbeat です。2拍子や3拍子などの拍節を持つ音楽において、1拍目は下に向けて打ち降ろす強拍、つまり下拍です(指揮者の手の動きを思い浮かべてください)。それに対して上拍=アウフタクトは、1拍目以外の拍を指すのです。ただ、日本では普通これを、アウフタクトではなく「弱拍」と呼びますね。

第2の意味は「弱起」のこと。旋律が第1拍以外から始まる音楽を「弱起」と呼びますが、アウフタクトと呼ぶと書いてある本もあります1。私自身はこの意味で使うことはありませんが、弱拍(=アウフタクト)で始まるからでしょうか。

そして第3は、弱起の曲の冒頭で強拍に先立つ弱拍部分の意味です。音符が1個でも複数でもかまいませんし、1拍分でもそれより長くても短くてもかまいません。このアウフタクトの小節は1小節よりも短くて不完全ですが、最後の小節をこのアウフタクト分、短くして、つじつまを合わせます。

曲の途中においても、フレーズが上拍=弱拍から始まる場合にその部分をアウフタクトと呼ぶのが普通です(厳密にはこれを第4の意味とすべきかもしれません)。譜例1は、我が聖光学院の校歌(関脩作詞、牧野敏成作曲)第7、第8フレーズです。第7フレーズ(せいなる〜)は強拍からですが、最終第8フレーズ(せいこう〜)は第4拍目つまり弱拍から始まっていますね。こういう場合、第8フレーズは譜例1の「4小節目から始まる」とは言わず、「5小節目アウフタクトから始まる」と言うのです。

譜例1 聖光学院校歌(第7&第8フレーズ)

譜例1 聖光学院校歌 第7&第8フレーズ(クリックすると拡大します)

個人的にアウフタクトで思い出すのが、ハッピー・バースデーの曲。この音楽は3拍子で、最初の Happy の部分がアウフタクト。太字部分が強拍で、

Happy / birth-day to  / you,   Happy / birth-day to  / you
——   / ぶんちゃっちゃ / ぶんちゃっちゃ / ぶんちゃっちゃ / ぶんちゃっ…

なのですが、アメリカに住んでいたときに中国人の友達の家で聞いた録音は、アウフタクト無しの3拍子でした2。つまり最初の Happy が強拍になって、

Happy birth-day / to  you,      / Happy birth-day / to  you…
ぶん ちゃっちゃ / ぶんちゃっちゃ / ぶん ちゃっちゃ / ぶんちゃっ…

だったのです! 3拍子は3拍子ですから、これでもちゃんと歌えます。でも、聞いたときの衝撃と混乱は、10年以上経っても忘れられません。

  1. 『音楽通論』(久保田慶一編、アルテス、2009年)の「楽曲がその拍子の第1拍以外から始まっている場合、それを弱起(アウフタクト)という」が一例(117ページ)。
  2. CDだったのかテープだったのか。中国語の歌詞だったはずですが、覚えていません。ピアノではなくバンドの伴奏だったように思います。