27. 9月 2011 · (48) アクセントか、デクレッシェンドか? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

譜例1の自筆譜をご覧ください。1小節目から2小節目にかけて、クレッシェンドとデクレッシェンドがペアで書かれています(*1)1。6小節目はどうでしょう? 記号Aは長いのでデクレッシェンドで、その下のBは短いからアクセントかな? ずーっと下の記号CはAとBの中間の大きさですが、これはアクセント? それともデクレッシェンド?

譜例1 シューベルトの自筆譜(《未完成》交響曲第2楽章冒頭)
譜例1 シューベルトの自筆譜(《未完成》交響曲第2楽章冒頭)

この自筆譜は、シューベルトの《未完成》交響曲第2楽章 Andante (Andte と略記されています) con mote の最初のページ。ファゴットとホルンの和音の後、3小節目から弦楽器が主旋律を奏するところです。楽器名をスコアに書き入れておきました2

名誉会員資格の返礼としての浄書スコアなので非常にクリアに美しく書かれていて、演奏に迷う箇所はありません((32)《未完成交響曲》はなぜ未完成か?参照)。ただ、シューベルトの自筆譜に特有の問題が、このページにも存在します。コラムのタイトルを見てピンと来た方も多いと思いますが、彼が書いたアクセント記号とデクレッシェンド記号は見分けがつきにくく、校訂者の悩みの種なのです。

上で述べたA、B、Cの3つのくさび形が好例ですが、さらに状況を複雑にするのは、この6小節目と同じパターンが繰り返される12小節目の記号。一番上の記号Dは大きいですが、今度はEとFの大きさが同じくらいです。これはアクセント? それともクレッシェンド?

どのパートに付けられた記号なのかも問題。記号CとFは(上下のパートが休みなので)チェロ用に間違いありません。でも、それ以外の記号はどうでしょうか。6小節目と12小節目では、記号が書き付けられた位置が微妙に異なります。

記号AとDでは、Aは下のセカンド寄り、Dは上のファースト寄りに書かれています。一方、BとEでは、Bは下のヴィオラ寄り、Eは上のセカンド寄り(位置としては、ヴィオラのシャープの真上)。記号の大きさの違いから、AとDをデクレッシェンド、BとEをアクセントと判断したとしても、それぞれ上下どちらのパートに付けられた記号なのか、解釈が難しいのです。本来、パート毎に1つずつ、アクセントやデクレッシェンドの記号を書くのですが、シューベルトの場合、上下両方のパート用に1つの記号で間に合わせる場合もあります。

自筆譜1ページだけで、これだけの謎が出て来ます。彼の《グレート》交響曲にはアクセントが1000個も書かれているそうですが、デクレッシェンドと見分けがつかないほど大きいものが少なくありません。最も有名なのが、終楽章の最後の和音に付けられた、2小節に渡る長いくさび形。どう見てもデクレッシェンド以外には見えませんが、ここまで来てだんだん弱くするのか?3

ちなみに、聖フィル指揮者の高橋隆元先生は「『アクセントとデクレッシェンドは現象としては同じ。そして前後の関係によって決まる』と考えれば、さほど混乱は無い」と言われます。譜例1のA〜Eは大きさに関わらず「1小節をかけた柔らかいアクセント」、AとBで上下3つのパートに作用すると解釈され、私たちはそのように練習しています。

  1. 追記 (11/10/05):その次の小節から2小節間、大きなデクレッシェンドがありますが (*2)、これは上下のパートそれぞれに付けられたスラーが合体したものでした。訂正いたします。高橋先生、ご指摘ありがとうございました。
  2. この時代の典型的な並べ方です((35)モーツァルトのホルン協奏曲参照)。クラリネットはA管。ホルン、トランペット、ティンパニは E 管なので調号無しで書かれています。トロンボーン1と2の段では、最初に書いた音部記号を消して、ヴィオラと同じアルト記号に書き直していますね。
  3. 多くの指揮者は、これをアクセントと解釈しています。オイレンブルク・スコア《グレート》の解説 xv ページにある自筆スコア最終ページのファクシミリで、大きさをご覧ください(全音出版社、2005)。