19. 1月 2012 · (64) 『のだめカンタービレ』ありがとう! はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: ,

音大ピアノ科の学生「のだめ」こと野田恵と、指揮者を目指す千秋真一の成長を描いた漫画、二ノ宮知子『のだめカンタービレ』(講談社)。2007〜10年に作られたテレビ・ドラマやアニメ、映画をご記憶の方も多いのではないかとと思います。クラシック・ブームを巻き起こし、音楽ファンの裾野を広げた音楽漫画。聖フィルも第1回定演で、ドラマのテーマとして使われたベートーヴェンの第7番交響曲を取り上げるなど、何かとお世話に(?)なりました。

さて、完結して早1年半の今頃になってなぜ『のだめ』なのか。それはこの漫画、クラシック好きを増やしたのみならず、音楽や音楽史理解のためにも役立ってくれるからです。私はドラマやアニメ、映画を見たことはありませんが、大学で音楽史を教える時にコミックを活用しています。

様々なピアノ曲、オーケストラ曲、室内楽が取り上げられていますし、アンコール編は《魔笛》を上演するストーリー。バラエティーに富んでいるので、「『のだめカンタービレ』でたどる西洋音楽史」なんていう講座もできます(いわゆる一般教養の音楽として企画。『のだめ』で使われた曲を中心にした普通の音楽史ですが、資料として漫画のシーンを紹介し、意図を説明)。

音楽は目に見えません。作曲家や楽曲の背景を説明してから曲をかけても、音の流れの中でこの瞬間にいったい何が行われているのか——たとえば何という楽器が何を表現しようと演奏しているのか——を理解するのは、(専門的に勉強した人以外にとって)容易ではありません。『のだめ』の演奏シーンは音楽を視覚化する試み。曲に対する作者のイメージを見ることが、自分自身のイメージを作る助けになり得ると思うのです。ちなみに、『のだめ』の音楽描写はかなり正確。ブラ1の演奏シーンで気づいたのですが、独奏楽器の受け渡しなど、きちんと曲に沿って描かれています。

何よりもありがたいのは、前回の(63) 音楽は数学だった ?! で扱った中世の音楽理論が『のだめ』に登場すること(図1参照)。西洋音楽史の最初の時間に、クヮドリヴィウムとかムジカ・ムンダーナとか、現在と遠く隔たった考えを説明するのは、あまりうれしいものではありません(教えられる側も同様でしょう)。でも、漫画のシーンを見せると場がなごみますし、コマを追って説明すると、難しい印象が(少しは)薄れるようです。

というわけで、クラシック音楽ファンを増やしたのみならず、音楽鑑賞の手引きとして、また音楽史を学ぶ(教える)際も役立ってくれる漫画『のだめカンタービレ』に、心から感謝!です。

図1 二ノ宮知子『のだめカンタービレ⑯』(講談社、2006)、115ページ

図1 二ノ宮知子『のだめカンタービレ⑯』(講談社、2006)、115ページ(クリックで拡大します)