19. 7月 2012 · (90) 《新世界より》第1楽章の第2主題 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

《新世界》交響曲の第1楽章は、お約束どおり、ソナタ形式で作られています。ドヴォルジャークは、ベートーヴェン以降のソナタ形式の図式((88) さらに刺激的(!?)に:ソナタ形式の変遷図2参照)に当てはまるように作曲しているでしょうか。分析してみましょう。23小節間の序奏部(Adagio)の後、2/4拍子、Allegro molto に変わったところから繰り返しの2かっこまでが、提示部です。

弦楽器のトレモロの下で、ホルンが厳かに分散和音を吹き始める第1主題。第1楽章だけでなく曲のあちこちで戻って来る(=循環形式。近いうちに説明します、今度こそ絶対に!)とても重要な4小節を、クラリネットとファゴットが引き継ぎます。

第2主題は? 主調が短調の場合、ソナタ形式の第2主題は平行調で提示されるのでしたね。シャープ1つのホ短調の平行調は、ト長調((77) 近い調、遠い調参照)。あっ、ありました! フルート・ソロの落ち着いた旋律、ト長調です。旋律性が強いですし、静かに下行、その後上行し、後半はレガートに奏される8小節フレーズは、上行+下行+スタッカートの付点リズムが繰り返される第1主題と好対照。後に続く展開部でも、この旋律(の前半)が動機として多用されます。ということは、ソナタ形式の定型どおりの提示部。

……と分析している解説書も多いのです1。ただ、このト長調のメロディーが登場するのは、176小節目まで続く提示部の、149小節目。これが第2主題だとすると、ようやく出たと思ったら、しめくくりの旋律も無いまま提示部が終わってしまうという印象です。図1は、提示部153小節間の割合をあらわしたもの。1番上の棒グラフの、青い部分が第1主題部(82%)、赤い部分がフルート・ソロ以降の第2主題部(18%)2。第2主題が出るタイミングとしては、いくらなんでも遅すぎると思いませんか?

図1:《新世界より》第1楽章提示部

むしろ、フルートとオーボエが奏でる物悲しいメロディー(91小節〜)を第2主題と考えるべきでしょう3。ト短調ですから、典型的な調ではありません。そのため、第1主題とのコントラストはそれほど大きくないのですが、レのドローン(持続低音)を伴奏に登場するこの旋律も、印象的です。図1の2は、この旋律が現れる前後を、第1主題部(青)と第2主題部(赤)としたもの。図1の3は、さきほどのフルート・ソロのト長調の旋律を、提示部をしめくくる(=コデッタの)旋律(緑)とみなした場合のグラフ。なかなかのバランスです。

「第2主題の候補になる旋律が2つあって、後に出る旋律は本来の調、先に出る旋律はその同主調で提示されるが、本来の調ではない先の方が本物」というパターンは、ベートーヴェンも、ピアノ・ソナタ《悲愴》第1楽章などで使っています(この曲の第2主題は、平行調である変ホ長調の同音反復のメロディーではなく、腕の交差を交えながら演奏する変ホ短調のメロディーの方)。典型から多少はずれていますが、想定内。序奏部:提示部:展開部:再現部:コーダのバランスも、23:153:96:123:53(小節数)でごくオーソドックス。

でも、再現部を見ると、やはり20世紀近くになって(1893年)作られた曲と感じさせられます。第1主題は主調であるホ短調で再現されますが、第2主題はシャープ5つ(!!)の嬰ト短調(312小節〜)、コデッタの旋律(370小節〜)は、その同名異音からの長調である変イ長調(フラット4つ!!)で再現されるのですから。いずれも、提示部の調より半音高く、主調・同主調どころか近親調にも含まれない遠い調です。ドヴォルジャークは、ソナタ形式という古い枠組を、さりげなく「さらにさらに刺激的に(!?)」変形して使っていますね。

  1. 門馬直衛によるミニチュア・スコアの解説(全音、1956)、田村和紀夫『クラシック音楽の世界』(新星出版社、2011)など。
  2. それぞれの主題以外に、確保とか推移主題なども含みます。
  3. 牛山充『名曲解説全集2』(音楽之友社、1979)や伊東信宏によるミニチュア・スコアの解説(音楽之友社、2004)など。