30. 9月 2015 · (254) フリギア旋法とは何か はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , ,

ブラ4の解説には、第2楽章のフリギア旋法が必ず言及されていますね(私も既に (252) でそう書いてしまいました)。手っ取り早く言うと、フリギア旋法は「ミファソラシドレミ」。第2楽章はシャープが4つもついたホ長調なのに、ホルンが始める冒頭の旋律はミーミーファーソミーミーレード……ミーミーレードミー。ファドソレの♯が、全てキャンセルされています。これがフリギア旋法の部分。

フリギア旋法は、グレゴリオ聖歌を体系化する中で整えられた8種類の教会旋法のうちの1つ。中世やルネサンス時代の音楽は、教会旋法に基づいて作られました。その後に成立した長調や短調の音階と、共通する点・相違する点があります。

音域は同じ1オクターヴ。フリギア旋法なら、ミからミまでですね。でも、長短調とは異なりピアノの白鍵盤にあたる全音階の音だけで構成されます。長短調における主音のような中心音は、終止音(ラテン語でフィナーリス)と呼ばれます。フリギア旋法の終止音はミ。

主音1つに2種類の音階がある(たとえばハを主音にするハ長調とハ短調)ように、同じ終止音を持つ旋法も2種類。一方は、終止音から終止音までの音域を持つ正格旋法。フリギア旋法も正格旋法です。もう一方は、終止音の上下に1オクターヴの音域を持つ変格旋法。フリギア旋法と同じミを終止音にする変格旋法ヒポフリギア旋法は、シからシまでの音域を持ちます。

旋法と長短調の大きな違いは、音の並べ方。たとえば長調はオクターヴの7つの音の間隔が「全(=全音)・全・半(=半音)・全・全・全・半」と決まっていますが、教会旋法はこの間隔がそれぞれ異なるのです。たとえばフリギア旋法なら「半・全・全・全・半・全・全」ですし、レを終止音とする正格旋法ドリア旋法なら「全・半・全・全・全・半・全」(フリギア旋法の《かえるの歌》は「ド−レ♭−ミ♭−ファ−ミ♭−レ♭−ド ミ♭−ファ−ソ−ラ♭−ソ−ファ−ミ♭」、ドリア旋法では「ド−レ−ミ♭−ファ−ミ♭−レ−ド ミ♭−ファ−ソ−ラ−ソ−ファ−ミ♭」になります1)。

16世紀にスイスの音楽理論家グラレアヌス(1488〜1563)が4旋法を加え、教会旋法は12種類に。ただ、単旋律音楽(聖歌)のための理論を、ルネサンス時代の多声音楽に使うのは無理がありました。音域が広がり、半音階変化が多くなると、各旋法の特徴が曖昧になっていきます。結局、ラから1オクターヴのエオリア旋法と、ドから1オクターヴのイオニア旋法を元にする短音階と長音階2種類に集約されることに。

新しい調体系が確立すると、教会旋法はほとんど使われなくなりました。ところがその後、調性音楽の可能性が汲み尽くされてくると、作曲家たちは新しい素材として、教会旋法や民族音楽で使われる音階などに目を向けます。ブラームスも、ホ長調の楽章の最初の単旋律部分をフリギア旋法で作曲することで、ブラ4に古風な雰囲気と不思議な新しさを加えたのです。

  1. haryo12さん、ありがとうございました。
23. 9月 2015 · (253) パッサカリア主題 in 第1楽章 ブラ4の秘密3 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

構築型の作曲家ブラームス。彼が交響曲第4番に「わかる人だけわかる」ように組み込んだ「しかけ」を見つけるのは、わくわくします。バロック時代の形式パッサカリアで作られた終楽章は、実はソナタ形式とも考えられますし((251) ただのパッサカリアではない!参照)、第1楽章第1主題の冒頭を第4楽章の最後の方で使って、全体をまとめています((252) 第1楽章第1主題 in パッサカリア参照)。そのままの形ではなく変形して(むしろ、オリジナルの形と言うべきか)嵌め込んでいるので、すぐには気づきません。

第1楽章の主題が終楽章に登場するなら、終楽章の旋律も第1楽章に予示されているのではと考えるのが自然。8小節構造を厳格に守ったまま変奏が進む終楽章は、この交響曲最大の呼び物ですから。ところが、パッサカリア主題ミ−ファ♯−ソ−ラ−ラ♯−シ−シ−ミの予示が指摘されたのは、1998年(つい最近!!)になってから。クリスティアン・マルティン・シュミットによると、第1楽章の開始早々10小節目から、コントラバスとヴァイオリンによって示されます(譜例1参照)1

うーん……。半音進行の無視(13小節目後半のソ♯はともかく、11小節目のファと9小節目のレ♯が問題では??)や、途中でパートが移ることなど、どう考えるべきでしょうか??   予示が明らかになり過ぎないように、わざと半音を加えてカモフラージュしたのかな??  シ−シのオクターヴ進行もわざと逆に変えた??  いずれにしろ構築型ブラームスですから、偶然ではないことは確かでしょうが……2

第1楽章におけるパッサカリア主題の影響について、長い間研究されなかったのには、理由がありました。パッサカリアの元になったバッハのカンタータ150番《主よ、わが魂は汝を求め》((221) パッサカリアについて参照)が旧バッハ全集第33巻として出版されたのは、ブラームスが既に第1楽章を完成した後、1884年秋だったからです3。このため、旧全集刊行前からブラームスがこの曲を手稿譜の形で知っていた可能性が示唆されています。

譜例1:ブラームス作曲交響曲第4番第1楽章(第8〜21小節)

譜例1:パッサカリア主題 in 第1楽章(ブラームス作曲 交響曲第4番 第1楽章 第7〜20小節)

  1. 三宅幸夫『Brahms: Symphonie Nr.4 ミニチュア・スコア解説』音楽之友社、2004、viiiページ。
  2. 同上によると、Schmidt, Christian Martin, ‘Johannes Brahms: Sinfonie Nr. 4 eMoll op. 98,’ Johannes Brahms: Die SInfonien, ed. by Schubert, Giselher, Floros, Constantin, and Schmidt, Mainz, 1998, pp. 213-272.  私が務める音大の図書館には所蔵されておらず、現時点で原書を確認していません。
  3. 三宅、同上。
16. 9月 2015 · (252) 第1楽章第1主題 in パッサカリア ブラ4の秘密2 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

バロック時代の古めかしい変奏形式パッサカリアで作られた、ブラームスの交響曲第4番終楽章。でもこの楽章、ソナタ形式とも考えられるのでしたね((251) ただのパッサカリアではない!参照)。終楽章には、実は同じ交響曲の第1楽章第1主題が登場します。ただし、すぐにわかる形で引用されているわけではありません。変形されています。

「3度下がって6度上がる」で始まる、第1楽章第1主題。ヴァイオリンのオクターヴ・ユニゾンが、切なく響きます。冒頭4小節の中の、上行した音(2小節目のドなど)をオクターヴ下の同じ音に入れ替えると……。シ−ソ−ミ−ド−ラ−ファ♯−レ♯(−シ)と、3度下降が連続する形になります(同じリズムで同じように演奏されても、これでは切なさはあまり感じられませんね)。

終楽章パッサカリアに出て来る第1楽章第1主題は、「下がって上がる」切ない旋律ではなく、3度下降の変形バージョン。そう、最後の2つの変奏です。第29変奏では弦楽器がピッツィカートの後打ちで(譜例1参照)、第30変奏ではチェロと1拍遅れのヴァイオリンが、ミ−ド−ラ−ファ♯−レ♯−シ−ソ−ミ−ド−ラ−ファ♯−レ♯ の3度下降型を弾いています。交響曲の1番初めに聴いた旋律が、最後の最後(コーダの前ですが)に回帰。しかも、わかる人にだけわかる形で。「構築型」ブラームス、お見事!

譜例1:ブラームス作曲 交響曲第4番 終楽章 229〜36小節

譜例1:ブラームス作曲 交響曲第4番 終楽章 230〜36小節

ところで、第1楽章冒頭4小節の3度下降形 シ−ソ−ミ−ド−ラ−ファ♯−レ♯(譜例2b)、順番を入れ替えてみてください。ホ短調の音階になります(譜例2c)。つまりこの第1主題、主調の音階の7つの音をすべて1回ずつ使って構成されているのです。「和声的短音階のすべての音を重複することなく使いきる……これはシェーンベルクが提唱した『12音技法』に、あと一歩のところまで近づいている」1

うーん、十二音技法まではまだちょっと遠い気もしますが((97) ドレミが平等社会だったら:十二音技法参照)、ブラームスが意図的に作ったことは確か。「良い旋律を思いついたら、それが偶然、音階の7音を1回ずつ使っていた」なんて、有り得ません。その後(5〜8小節)、同じ音のオクターヴ跳躍をはさみながらミ−ソ−シ−レ−ファ−ラ−ドと進みます。3度進行の上行型ですから、1〜4小節の下降型と対。さらに!!  こちらは入れ替えると、レもファも ♯ 無しのミ−ファ−ソ−ラ−シ−ド−レ−ミ。これは、第2楽章冒頭で使われるフリギア旋法ですね(第3楽章のハ長調の7音全てを1回ずつ使ったと考えることもできますが、ミから始まっています。2015/09/23 追記)。交響曲が始まったばかりのところで、さりげなく予示。ブラームスって本当に「構築型」の作曲家です。

譜例2:同第1楽章第1主題とその変形

譜例2:同第1楽章第1主題とその変形

  1. 三宅幸夫『Brahms: Symphonie Nr.4 ミニチュア・スコア解説』音楽之友社、2004、viiページ。譜例2も同ページ。
09. 9月 2015 · (251) ただのパッサカリアではない! ブラ4の秘密 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

第13回定期演奏会まで、1ヶ月足らず。今回のメイン・プログラムは、ブラームスの交響曲第4番(1884〜85年作曲)。彼のような構築型の作曲家の作品は、演奏するのも分析するのも楽しいものです。

この交響曲終楽章の出発点である J. S. バッハのカンタータは、既に(221) パッサカリアについてでご紹介しました(これを書いたときは、まさかすぐにこの曲を演奏できるとは思いませんでした〜)。ブラームスはバッハ(とは限りませんが)のバス旋律を19世紀風に変形しつつ、8小節パターンを堅持。パターンが崩れるのは、最後の第30変奏だけです(4小節拡大されて、Più Allegro のコーダに突入)。

この曲が面白いのは、これだけ律儀にパッサカリアの形を守りながら、実はソナタ形式の枠組みを取り入れているところ。主題と30の変奏は、提示部・展開部・再現部に分けられます。と書くと、ゆっくりした長調部分からテンポが戻り、短調のパッサカリア主題が再登場する第16変奏(129小節)が再現部!と思う方が多いと思います(ミ−ファ♯−ソ−ラと上がって行く主題に、ラ−ソ−ファ♯と下りてくる対旋律が加わるところ、ゾクゾクしますね!)。でも、これはひっかけ。同じ形ですが、ここは展開部の開始部分です。

じゃあ再現部はどこから? それは第24変奏(193小節)。展開部の開始のように区切りがはっきりわからない??! そんなことはありませんよ。前の小節の3拍目は、全ての楽器が休むゲネラル・パウゼ。展開部ではずーっと、何かしら音が鳴っていました。完全な空白はこのs1拍だけです。

それに、毎回異なる変奏のように聴こえますが、ここではちゃんと提示部が再現されていますよ。わかりやすいのは、第25変奏のオーボエとヴァイオリン(とファゴット)。mpff に変わっているものの、第2変奏の木管メロディーの再現です(譜例1左ページ参照)。第26変奏のホルンも、第3変奏の木管の再現(でスタッカート→ でレガート。譜例1右ページ参照。E管なので実音はミ−レ♯−ミ−ファ♯ー)。第24変奏でも第1変奏のホルンのリズムなどが再現されていますし、第27、28変奏の低音のオクターヴ跳躍は第4変奏の低音と関係していますね。第1変奏に先立つ主題は第23変奏に反映されていますが、これだけ先走って(??)展開部に食い込んでいるのも芸が細かいところ。区分をあいまいにするのもロマン派風なのです。

というわけで、この終楽章は第2主題の再現を欠くソナタ形式とみなすことが可能。バロック時代の変奏形式パッサカリアの形で作曲しつつ、古典派時代(以降)に使われたソナタ形式にも嵌め込んで、二重の意味を持たせているのです。構築型の作曲家ブラームスならではの終楽章! さらに……(つづく)。

譜例1:ブラームス作曲交響曲第4番終楽章(200〜14小節)

譜例1:ブラームス作曲 交響曲第4番 終楽章(200〜14小節)

21. 1月 2015 · (221) パッサカリアについて:バッハとブラームス はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , ,

パッサカリアと言われると、ブラームスの交響曲第4番を思い浮べるオケ奏者やオケ・ファンの方が多いと思います。CD解説などに、この曲の第4楽章がシャコンヌまたはパッサカリアの形で作られていると、書いてありますよね。どういうことか、ご存知ですか。

ブラームスは、ヨハン・ゼバスティアン・バッハのカンタータ150番《主よ、わが魂は汝を求め Nach dir, Herr, verlanget mich》第7曲〈わたしの苦難の日々を Meine Tage in dem Leide〉の低音旋律をモデルにしました。この曲はチャッコーナ。イタリア語でシャコンヌのことです。シャコンヌは、3拍子の緩やかなテンポの舞曲。低音旋律に基づく変奏曲で、バロック時代にはパッサカリアとほぼ同義に使われました 1

ロ短調の主音シから順番に5度上行しオクターヴ下がる、シ−シ−ド♯−ド♯−レ−レ−ミ−ファ♯−ファ♯。低声部はこの4小節パターンを何度も繰り返しながら、ニ長調、嬰ヘ短調、イ長調、ホ長調に転調します。ロ短調に戻り、最後はミ−ファ♯−ファ♯の後に主音シが続いて終了。このしつこく繰り返される低音、バッソ・オスティナート(イタリア語で「がんこな低音」の意)の上で、旋律や和声、リズムが変わっていきます。

ブラームスはこの低音旋律の最後に主音を付け加えて、1回毎に完結する形にしました。さらに、ロマン派的にアレンジ。オクターヴ跳躍の前に1音加えてラ−ラ♯−シの半音進行に。この8音1フレーズを、バスだけではなく旋律や和音の中で繰り返します。変奏主題として最初に上声で提示されるときも、主和音で始まらないなど19世紀的。メロディーやハーモニー、リズムやオーケストレーション、時にはテンポも変わっていきますが、8小節パターンを律儀に繰り返すのはバッハのチャッコーナと同じです。

バッハの音源をあげます2。バッソ・オスティナートが何回繰り返されるか、数えてみてください。嬰ヘ短調に転調するあたりで急にメロディーが半音下がり、違和感をおぼえる部分があります(0:56くらい)。歌詞「茨(いばら)」の不快さを、音楽で表現しているのです。その前のニ長調部分で、細かく動くたくさん音をひとつのシラブルで歌う(0:33くらいから)部分は、歌詞「喜び」のうれしさの表現でしょう。バッハは、歌詞の言葉と音楽を密接に結びつけて作曲しています。ロ短調よりもピッチが高いのは、彼らがコーアトーンを使っているということですね((104) a’=440になるまで(1):コーアトーン参照)。

  1. 金沢正剛「パッサカリア」『音楽大事典4』音楽之友社、1982、1863−64。
  2. 歌詞:わたしの苦難の日々を神は喜びに変えて終わらせてくださる、茨の道を歩むキリストの者たちを天の御力と祝福が導かれる。神がわたしの真の守りであられるかぎり、人に逆らわれることなど気にしない。キリストはわれらをかたわらで支えられ、日々、わたしの戦いの勝利を助けられる。