05. 3月 2014 · (175)《エロイカ》で始まるコンサート はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , ,

前回、前々回に引き続き、19世紀パリの音楽界シリーズ(?!)第3回。ベルリオーズがベートーヴェンの《英雄》と《運命》を聴いて大きな影響を受けた((173) 幻想交響曲の奇妙さ参照)、1828年パリ音楽院演奏協会のプログラムを見つけました1。設立初年の第1回演奏会(1828年3月9日(日)2:00、パリ音楽院コンサート・ホール、指揮はフランソワ=アントワーヌ・アブネック)の曲目は:

    1. ベートーヴェン:《英雄》交響曲
    2. ロッシーニ:オペラ《セミラミス》から2重唱
    3. メフレ:ヴァルブ付きホルン独奏(作曲者本人による演奏)
    4. ロッシーニ:アリア
    5. ローデ:ヴァイオリン・コンチェルト(新作)
    6. ケルビーニ:オペラ《プロヴィンスの白女》より合唱
    7. ケルビーニ:オペラ《アベンセラージュ》序曲
    8. ケルビーニ:荘厳ミサ曲よりキリエとグローリア

協奏曲や序曲などの器楽と、アリアや2重唱、合唱などの声楽が交互に並びます((150) 歌が不可欠?参照)。メフレ(1791〜1867)はヴァルブ付きホルンのパイオニア。パリ音楽院で教え、『ヴァルブ付き半音階ホルンのための教本』を出版しました2。前年に亡くなったベートーヴェン以外、ローデ(フランス人なので正確にはロード、1774〜1830)も、3曲も演奏されたケルビーニ(1760〜1842、1822年からパリ音楽院院長)も存命((151) 生きてる?参照)。この時代の公開演奏会の、典型的なプログラム構成です。

でも、《エロイカ》が最初?!  演奏会シリーズの記念すべき第1回オープニングに、若々しくかつ華々しい《エロイカ》はうってつけ。でも、長い! 重すぎる! 奏者はもちろん聴衆も、1曲目で疲れちゃう!

と驚いたものの、他に適当な場所がありません。開幕ベル代わりの「交響曲」から成長したとはいえ、交響曲の役割は演奏会の枠組みのまま。メインは、ソリストが活躍するアリアや協奏曲です。日常に戻ることを告げる演奏会最後の曲として使われることもありましたが、パリ音楽院演奏協会の初年度7回の演奏会では、この第1回のミサ曲のように、規模が大きい合唱曲で締めくくられる方が普通でした(次第に序曲や交響曲でも終わるようになりますが)。

そういえば、ベートーヴェンの《運命》が初演された演奏会の1曲目は、《田園》でしたね((22) 《運命》交響曲の初演参照)。《エロイカ》や《田園》で始めるなんて、想像できません。パリ音楽院演奏協会は、音楽院で学ぶプロやプロの卵たちから成るオーケストラで、よく訓練されていたそうですから、メインのアリアや合唱、協奏曲のために余力を残して《エロイカ》を弾いたのでしょうか。

初年度に取り上げられたベートーヴェンの交響曲は、《エロイカ》(この第1回と、好評により第2回演奏会でも。ベルリオーズはどちらを聴いたのか?)と《運命》(第3、5、6、7回。ちなみに第4回は、オール・モーツァルト・プロ)の2曲のみ。翌1829年に《田園》と7番、1830年に4、2、1番、1831年に《第九》、1832年に8番がレパートリーに加わりました。この中で、《第九》の扱われ方は、他と少し異なります。1831年3月27日の定期演奏会は「ベートーヴェンの合唱付き大交響曲初演」と銘打たれ、プログラムも4曲のみ(1:コリオラン序曲、2:アリア、3:バズーン(バソン)独奏、4:《第九》)。翌年の再演(1832年4月15日)では、《第九》がまっぷたつ!

    1. ベートーヴェン:《第九》第1 & 2楽章
    2. ケルビーニ:《アヴェ・マリア》(ソプラノとコーラングレのための)
    3. ベートーヴェン:弦楽四重奏曲作品18(弦楽器奏者全員による。何番か不明)
    4. ヴェーバー:《魔弾の射手》から〈狩人の合唱〉(16人のホルン奏者だけによる)
    5. ヴェーバー:《魔弾の射手》からアリア
    6. ベートーヴェン:《第九》第3 & 4楽章

1834年1月26日の再々演も、同様のプログラム構成でした。

  1. Holdman, D. Kern, The Société des Concerts du Conservatoire (1828-1967), http://hector.ucdavis.edu/sdc/.
  2. Joseph Meifred, Méthode pour le Cor Chromatique, ou à Pistons. Paris: S. Richault, 1840.  メジャーな演奏家による最初のメトードと言えます。Ericson, John, “Joseph Meifred and the Early Valved Horn in France: A Pioneer of the Valved Horn. Horn Article Online http://www.public.asu.edu/~jqerics/articles_online.htm 中の http://www.public.asu.edu/~jqerics/meifred.htm.
22. 6月 2011 · (34) ドイチュ番号について はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , ,

前回のシューベルトの未完成交響曲たち を読んで、混乱しているナンバリングだけではなく、ドイッチュ番号とやらも省いてシンプルにしちゃったら?とか、ラテン語で「作品」を意味する opus(オープス、英語読みではオーパス、複数形は opera)の略の op. なら知っているけれど、Dって何?と考えた方、いませんでしたか? たしかにアマ・オケの普通のレパートリーなら、「シューベルト:交響曲ロ短調《未完成》」方式で、曲を区別できます1。でも、不可能な場合もあるのです。

たとえばヴィヴァルディの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」は、現存するものだけでも30曲以上。作曲家本人がつけた番号……なんて、ありゃしません。ジャンル別番号は、大作曲家の中ではベートーヴェンが《エロイカ》出版の際、交響曲だけの通し番号である第3番と記したのが最初(彼にとって、交響曲というジャンルが特別なものであったことの現れですね)2。ヴィヴァルディの約100年後の話です。

これらのニ長調協奏曲の中には、op. 3, no. 9 という番号をもつ曲もあります。これは、1711年に出版された、ヴァイオリン協奏曲集作品3『調和の霊感』の9曲目ということです3。17、18世紀にソナタなどの器楽曲を6曲、あるいは12曲まとめて出版する際には、op. 1 のような作品番号がつけられました。

ただ、出版社が番号をつけることが多かったため、同じ曲なのに出版社によって異なる番号がつけられたり、違う曲に同じ番号がつけられるような混乱も生じました。出版されなかった曲(こちらの方が大多数です)には、当然ながら番号がありません。ベートーヴェン以降の作曲家が自作に番号をつけるようになってからも、出版順にすることが多く、作曲の順序が反映されないことと、全ての作品が網羅されないという問題点は、変わりませんでした。

話をシューベルトに戻しましょう。彼が短い生涯で作った1,000近い曲を研究して作曲年代順に並べ、ドイッチュ番号(D)を与えた主題総目録(1951)を作ってくれたのが、オーストリアの音楽学者ドイッチュ。「全作品」を「一定の規則に従って」並べたというのがポイントです。シューベルトの場合、ピアノのための4つの即興曲op. 90や《魔王》op. 1のような、出版されて作品番号を持つ曲はごくごくわずかです(しかも、作曲年代と作品番号は一致しません)から、特定の曲を探したりある曲を同定するときに、D番号は欠かせません。また、数字から、だいたいの作曲時期を類推することもできます。膨大なデータを手作業で整理してくれたドイッチュさんに感謝! 演奏会のチラシやプログラムなどには、正式名称の一部としてD番号もお忘れなく。

このような番号は、作品番号ではなく作品目録番号と呼ばれます。表1に、主な作品目録番号の略号をまとめました4

[表1 主な作品目録番号の略号]
作曲家 略号 編纂者 番号のつけ方
ヴィヴァルディ RV リオム ジャンル別、調性順、通し番号
J. S. バッハ BWV シュミーダー ジャンル別、通し番号(宗教→世俗)
ヘンデル HWV バーゼルト ジャンル別、通し番号(舞台→声楽→器楽)
ハイドン Hob. ホーボーケン ジャンル別、それぞれ1から
モーツァルト K. またはKV ケッヘル 年代順、通し番号(K6版まで改訂)
シューベルト D ドイッチュ 年代順、通し番号
リスト S. サール ジャンル別、通し番号(舞台→声楽→器楽)
  1. 実は聖フィルでも、「誰も作品番号で識別しないから必要無し」と、第2回定演までのチラシやプログラムの曲目表記は、この方式でした。在京のプロ・オケの中にも、この方式を採用しているところがあります。
  2. 石多正男『交響曲の生涯』東京書籍、2006年、276ページ。
  3.  J. S. バッハは、後にこの曲をチェンバロ協奏曲(という名のチェンバロ独奏曲。BWV 972)に編曲しながら、最新のイタリア音楽書法を学びました。(26) クラシック音楽ファンの常識 ? 参照
  4. ベートーヴェンの作品整理には、op. 以外に2種類の略号が使われます。本人が op.番号を付けなかった曲に、キンスキーとハルムがつけた、WoO(Werk ohne Opuszahl 作品番号無しの作品)番号と、op. も WoO も持たない作品や断片・スケッチなどに、ヘスがつけた Hess 番号です。また、ドヴォルジャークの作品はブルクハウゼルによるB.番号(年代順、通し番号)で整理されていて、チェロ協奏曲 op. 104 は B. 191 だそうですが、まだ使われているのを見たことがありません。