今回の聖フィル♥コラムは、弦楽器奏者の皆さんの「聞き捨てならない!」という声が聞こえてきそうなタイトルにしてみました。図1は、ドイツに生まれ、フランドル地方ブリュージュで活動したハンス・メムリンク(c. 1430〜1494)の「奏楽の天使」。スペイン北部ナヘラにあるサンタ・マリア・ラ・レアル教会の委嘱で描かれました。165cm x 230cmとかなり大きな油彩画で、少し高い位置にあるオルガン席用3枚のうちの1枚です。
彼の時代(15世紀)に使われていた楽器が描かれています。左側の2つの楽器は不思議な形をしていますが、左端は弦をはじいて、その隣は弓で擦っています(名前などは、次回のコラムをお楽しみに)。真ん中はリュート、その右がトランペットですね。右端も管楽器。コルネット、あるいはツィンクと呼ばれる、指で穴を塞いで音程を作る木管の楽器です。
対になるパネルにも、5人の天使が描かれています(図2)。こちらは、左側2人が管楽器(2人目は、左パネルにも描かれたトランペットを吹いています)、真ん中がポルタティヴ・オルガン(持ち運びができるパイプ・オルガン)、その右にハープとフィドル。
この左右対称の配置を見ると、もうお分かりですね。キリスト像を中央に、彼に近い側に管楽器、遠い側に弦楽器。楽器のヒエラルキーが表現されているのです。神に近い方が高位ですから、管楽器は、弦楽器よりも高位。トランペットは最後の審判と結びつく楽器ですし、ツィンクはトロンボーンとともに、教会で用いられました。
ただ、弦楽器よりも高位の管楽器よりも、さらに高位の音楽がありました。中央のパネルから一目瞭然です。キリストの両脇には、聖歌を歌う天使が3人ずつ。そうです。器楽よりも声楽の方が、より「神聖」。道具を必要とせず、最も純粋に生み出される人の声が、音楽の最高位を占めていたのです。