05. 10月 2016 · (292) エニグマ変奏曲の謎?! はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags:

聖フィル第15回定期演奏会を聴きに来てくださった方々、どうもありがとうございました。エルガーのチェロ協奏曲と、ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」、いかがでしたでしょうか? ソリストの森田啓佑さんから、私たちは大きな刺激を受けました。少しずつでも、音楽的に成長していきたいと思います。今回のアンコールは、エルガーのエニグマ変奏曲作品36から、第9変奏「ニムロッド」でしたので、コラム恒例のアンコール・シリーズはエニグマ変奏曲の謎について。

エニグマenigmaとは「神秘的、あるいは不可解な人や物」のこと。14の変奏曲にはそれぞれ「C.A.E.」とか「 E.D.U.」など、エルガーの知り合いたちを示す意味ありげなイニシャルやニックネームが付けられ、彼らに献呈されています。「C.A.E.」は、妻のキャロライン・アリス・エルガー(第1変奏)、「E.D.U.」は自分自身(エドワードのエドゥ。第14変奏=終曲)を指すなど、多くの謎(エニグマ)は解かれていますが、第13変奏に付けられたアステリスク3つ「***」は誰??

自筆譜のタイトルベージには、「エドワード・エルガーによって作られたオーケストラのための変奏曲作品36」としか書かれていません。Enigmaという語は、この変奏曲のスコアを出版するロンドンの Novello 社に勤めていたイェーガー(デュッセルドルフ出身)によって、楽譜の主題の上に書かれました。おそらく、出版までにエルガーの依頼で書き加えられたのでしょう。ということは、エニグマは作品のタイトルではなく、主題のこと!?1  エルガーは、主題をエニグマとした理由を明らかにしなかったため、謎を解こうとする試み(主題の元の旋律、あるいは隠された旋律などを見つけること)も行われています2

ところで、第9変奏に付けられた「ニムロッド」は、旧約聖書に登場するノアの息子ハムの子孫クシュが生んだニムロデのこと。「ニムロデは地上で最初の権力者となった。彼は主のおかげで、力ある猟師になったので『主のおかげで、力ある猟師ニムロデのようだ。』と言われるようになった」(創世記10章)3。イェーガーという苗字は、ドイツ語で狩人という意味。「ニムロッド」は上述のイェーガーなのです。

この第9変奏は、自分を支えアドバイスしてくれたイェーガーへの、エルガーの感謝の気持ちに基づいています。エルガー自身はこの変奏について「長い夏の夕べのおしゃべりの記録で、そのとき友人はベートーヴェンの緩徐楽章について雄弁に語った。冒頭の数小節が第8番ソナタ(《悲愴》)の緩徐楽章をほのめかして作られていることに気づくだろう」としか述べていません。一方、次の第10変奏でドラベッラとして描かれるパウエルによると、イェーガーはベートーヴェンの例も引きながら、エルガーが憂鬱な状態にいるのをやめさせようとしました。この変奏の雰囲気は、その出来事によるのかもしれません4

余談ですが、ウィキペディア日本語版の「ニムロッド」変奏には、「イェーガーの気高い人柄を自分が感じたままに描き出そうとしただけでなく、2人で散策しながらベートーヴェンについて論じ合った一夜の雰囲気をも描き出そうとしたらしい。」と書かれています。Rushton の研究書には「散策しながら」なんてどこにもありませんでしたよ。エニグマです。来週のコラム更新はお休みさせていただきます。

  1. Rushton, Julian, Elgar: ‘Enigma’ Variations, Cambridge Univ. Press, 1999, p. 1.
  2. Rushtonも前掲書第5章をこの謎に割いています。
  3. 『聖書新改訳』日本聖書刊行会、1973年、13ページ。
  4. Rushton, Julian, op. cit., p. 46.

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