27. 4月 2016 · (278) モーツァルトとアマデウス はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: ,

モーツァルトのフルネームはヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。でも、ピーター・シェーファーのお芝居でもおなじみの「アマデウス」は、洗礼名に含まれません。ザルツブルグ大聖堂で受けた洗礼の記録(図1参照)に記されているのは、左から:

図1:モーツァルトの洗礼記録

図1:モーツァルトの洗礼記録

  1. (モーツァルトは1756年1月)28日午前10時30分に洗礼を受け、前夜8時に生まれた。
  2. (洗礼名は)ヨハネス・クリュソストムス・ヴォルフガングス・テオフィルス Joannes Chrysost[omus] / Wolfgangus / Theophilus、嫡出子
  3. (両親は)宮廷音楽家レオポルト・モーツァルトとアンナ・マリア・ペルトル
  4. (名付け親は)ザルツブルク市評議委員で商人のヨハネス・テオフィルス・ぺルグマイヤー
  5. (記録者は)同上(ザルツブルク市の司祭レオポルト・ランプレヒト1

ヨハネス・クリュソストムス・ヴォルフガングス・テオフィルス・モーツァルト。長〜い名前のうちの最初の2つは、カトリック教会の慣習に従って付けられたもの。ヨハネス・クリュソストムスは「黄金の口を持つヨハネ」という意味。モーツァルトが生まれた1月27日は、説教がうまい聖ヨハネ(c.349〜407)の祝日でした。モーツァルト自身は、この最初の2つの名前を日常生活で使うことはありませんでしたが。

ヴォルフガングスは、ヴォルフガングのラテン語形。ラテン語で記録されたからですね。「走る狼」という意味で、母方の祖父の名前です。聖ヴォルフガング(c.934〜994)にちなみ、病気になっても死なないようにという願いが込められていたとも2。一方、テオフィルスは洗礼式にも立ち会ったモーツァルトの名付け親の名前。ギリシア語で「神に愛される」という意味。ドイツ語ではゴットリープ Gottlieb、ラテン語ではアマデウス Amadeus になります。

父レオポルトは、息子の誕生を知らせる手紙(Johann Jakob Lotter 宛て)の中で名前をヨハネス・クリュソストムス・ヴォルフガング・ゴットリープと書きました。ご本人はイタリアで、1770年にはヴォルフガンゴ・アマデオ Wolfgango Amadeo、1777年以降はヴォルフガング・アマデ Wolfgang Amadè と名乗っていました。このイタリア語形を気に入っていたらしく、1782年8月3日付のコンスタンツェ・ヴェーバーとの結婚契約書も、ヴォルフガンク・アマデ・モーツァルト Wolfgang Amade Mozart とサインしています。

自分の名前を各国語で使い分けるのは、モーツァルトに限ったことではありません。楽譜出版の際にベートーヴェンも、ルートヴィヒの代わりにイタリア語のルイージ Luigi やフランス語のルイ Louis を使っています。モーツァルトはイタリア語やフランス語のアクセントの書き方に無頓著で、自分の名前も Amadé、Amadè、アクセント無しの Amade が見られるそうです。一方、アマデウス Amadeus は3通の手紙のサインに使われました。ただそれは、彼がふざけてラテン語風に全部に us を付け、ヴォルフガングス・アマデウス・モーツァルトゥス Wolfgangus Amadeus Mozartus と書いたときです3

この「アマデウス」、モーツァルトの死後に使われるようになります。死亡当日(1791年12月5日)、ウィーンの行政官が死亡記録にヴォルフガング・アマデウスと記入。経済的に困窮したコンスタンツェは、皇帝への年金の嘆願書(12月11日付)に故ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの未亡人と記入。役人からの返事にも、同じ名前が使われます(彼女の願いは聞き届けられました!!)。初期の伝記作家たちは、ゴッドリープの名を使っていたのですが、1798年にブライトコプフ&ヘルテル社がアマデウスの名前で全集出版を開始。1810年頃にはアマデウスが支配的に。

ラテン語形の「アマデウス」の方が、イタリア語やフランス語のアマデオやアマデより偉そう?!?  ふざけて使っただけのアマデウスが死後200年間、自分の正式な名前として使われているのを知ったら……。モーツァルト、驚くより喜ぶかもしれませんね(来週はコラムをお休みします。皆さま、良いゴールデン・ウィークをお過ごしください)。

  1. 同上のIdemしか読めませんが、2行目はサイン(か名前の略記)ではないかと思います。
  2. 海老澤敏『モーツァルトの名曲』ナツメ社、2006年、112ページ。
  3. 例えば Steinberg, Michael, ‘Another Word for Mozart,’ For The Love of Music, by Michael Steinberg; Larry Rothe, Oxford University Press, 2006, p.21.

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