02. 9月 2015 · (250) 「フェルマータ」と呼ばない国 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags:

聖フィル♥コラムを2週お休みして資料研究に出かけたフィレンツェで、バス車内の電光掲示板に fermata の語を発見! フェルマータって「音符や休符を適当に延長する」ときに使われますが、止まる・止めるというイタリア語の動詞 フェルマーレ fermare に由来。「休止、停滞、停止」以外に「停留所」も意味します(ただし、あのフェルマータ記号が停留所に付いているわけではありません。学生時代にフェルマータ=停留所と知って、そう思い込んだ私。初めてのイタリアで誤解に気づき、がっかりしたものです)。

ここまではご存知の方も多いと思いますが、今回驚いたのが、フィレンツェ在住の友人に「イタリアでは、あの記号をフェルマータと呼ばない」と言われたこと1。イタリアでは「コローナ corona(「冠、花冠」の意味)」と呼ぶんですって!!  確かに形そのままですが、逆に意味を結び付けるのが難しい。友人はピアノのお弟子さんたちに、このマークを日本ではフェルマータと呼ぶんだよと補足するそうです。楽語の多くはイタリア語。当然フェルマータも、イタリアの使用法をそのまま日本に導入したと思ったのに!

そうかコローナかと感心(!?)していたら、他にもあまりフェルマータと呼ばない国に気づきました。イギリスの音楽事典でフェルマータを引いたら、10行足らずの記述しか載っていなかったのです2。この記号、延長以外にもいくつか意味がありますから(たとえば、音符や休符ではなく複縦線の上に付いていたら、ここで終わりの意味ですよね)、こんなに短いはずがないと思ったら……。イギリスではフェルマータ記号をポーズ pause と呼ぶんですって!!  「小休止、中断」ですから、イタリア語のフェルマータの直訳?!

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ややこしいのがフランス。同じ冠型の記号でも、音符についたときはポワン・ドルグ point d’orgue、休符についたときはポワン・ダレ point d’arrêt と呼び分けるんですって!!  ドイツでは、現在はフェルマータと呼ばれますが、古くはフランスの用語法の影響を受けていたそうです(詳しくはまた改めて)。ドイツ、日本以外にフェルマータと呼ぶのは、アメリカ。19世紀にこの名が使われるようになりました。

フェルマータ(コローナ)記号の歴史は長く、15世紀初めまでさかのぼるとみられています3。音楽理論家ティンクトーリス(c.1435〜1511)はこの記号をプンクトゥス・オルガニ punctus organi と呼び、「全声部が音を延ばすことを示す」と定義しました4。16世紀初めに筆写された譜例1の手写本でも、4声部の最後の音にこの記号が付けられていますね5

譜例1:ジョスカン・デ・プレ作曲《Missa de Beata Virgine》より第1キリエ

譜例1:ジョスカン・デ・プレ作曲《Missa de Beata Virgine》より第1キリエとクリステ

  1. Sayuyip さん、ありがとうございました。
  2. Fuller, David, ‘Fermata,’ The Grove Dictionary of Music, 2nd ed., 8, Macmillan, 2001, p.682.
  3. 「フェルマータ」『音楽大事典4』平凡社、1982、2077ページ(無記名)。
  4. 同上。
  5. Rome, Biblioteca Apostolica Vaticana, MS Cappella Sistina 45, 1v-2r.