24. 6月 2015 · (242) 真夏じゃなかった!?《真夏の夜の夢》 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

1826年に作曲された、メンデルスゾーンの演奏会用序曲《真夏の夜の夢》((167) 演奏会用序曲と交響詩参照)。序曲のお約束であるソナタ形式の枠組みの中で、シェイクスピアの喜劇の世界、森のざわめきや楽し気な妖精たちなどを描いています。完成時、メンデルスゾーンは17歳でした。結婚行進曲を含む12曲の劇付随音楽は、16年後の1843年にプロイセン王の依頼で作られたもの。

ところで、メンデルスゾーンがこの序曲に付けたタイトルは《Ein Sommernachtstraum》。直訳すると「1つの夏の夜の夢」。真夏という言葉は使われていないことをご存知ですか? 作曲のきっかけとなったのは、1826年に彼が読んだ、シュレーゲルとティークによるシェイクスピアのドイツ語訳1。そのタイトルが《Ein Sommernachtstraum》。真夏ではなくただの(!?)夏。

もちろんシェイクスピアの戯曲のタイトルは《A Midsummer Night’s Dream》ですから、こちらは真夏!と言いたいところですが……。midsummer には真夏、盛夏という意味だけではなく、夏至のころという意味も。Midsummer(’s) Dayと大文字なら、今日6月24日の、洗礼者ヨハネの誕生日の祝日のこと。ヴァーグナーの《ニュルンベルクのマイスタージンガー》第3幕で歌合戦が行われる、あのヨハネ祭です。

ヨーロッパ各地で古くから行われた、季節を祝う異教の祭、夏至祭。その前夜には、跋扈する悪魔や魔女たちから身を守るためにかがり火が焚かれました。聖人と結びつけられてキリスト教の祝日になった後も、祝日前夜に採取した薬草には特別な薬効があると信じられるなど、超自然なことと結びつけられています2。妖精たちが活躍する戯曲の背景として、夏至前夜はうってつけ。

ただ、夏至を意味するタイトルにも関わらず、夏至ではなく5月1日の五月祭を背景にしているという説も古くからあります3。理由は「5月の祭典 the Rites of May を祝うために起きた」というシーシアスの台詞。五月祭前夜は「ヴァルプルギスの夜」。魔女たちが宴(サバト)を開くとされた夜(ベルリオーズの《幻想交響曲》終楽章の舞台)ですから、こちらも妖精たちがいたずらするお芝居に合います。

いつのことか劇中に記されていないため、6月末か5月初めか、研究者たちの結論は出ていません。でも、いずれにしろ真夏のストーリーではないことは確か。少なくともメンデルスゾーンの序曲は、彼が付けたタイトルである《夏の夜の夢》と呼ぶべきですね。でも、習慣でつい《真夏の……》と言いかけてしまう私。反省。

  1. ウィッタカー、W. ギリス、「メンデルスゾーン:《真夏の夜の夢》序曲 作品21」オイレンブルク・ポケット・スコア(1974)解説、沼野雄司訳、全音楽譜出版、2005、iiiページ。
  2. 八木谷涼子『キリスト教歳時記』平凡社新書、2003、166ページ。
  3. 上記スコア解説で、ウィッタカーは「春の五月祭を背景にしている」と書いています。

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