17. 6月 2015 · (241) ややこしくなかったチェロ はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: ,

チェロの本名「ヴィオロンチェロ Violoncello」(小さなヴィオローネ)。ヴィオローネはコントラバスのご先祖様。チェロはそれより一回り小さいからついた名前だと思っていたら……。実はこれ、さまざまな意味で使われた楽器名でした((240) チェロはややこしい?参照)。現在のチェロなどに相当する楽器(英語でバス・ヴァイオリンと呼ばれます)は、名称だけではなくサイズも多種多様だったようです。

図1:フェッラーリ『奏楽の天使部分』(1534〜36)

図1:フェッラーリ『奏楽の天使部分』(1534〜36)

図1は、この楽器を描いた最古の図像と考えられる、フェッラーリの『天使の奏楽』の一部(フレスコ画、1534〜36。サロンノ、奇蹟の聖母礼拝堂)1。左側のリュートなどに較べると小振りですね(なんとなく変だなあと思ったら、f 字孔が逆! ガンバ蔟の C 字孔でないのは明らかですが)。一方、図2はクルースの「楽器のある静物」(1623)2。テールピース(緒止め板)のデザインがおしゃれ。良く見ると5弦です。左側にカメがいる!?(図1、2ともクリックで拡大します)。

図2:クルース『楽器のある静物』(1623)

図2:クルース『楽器のある静物』(1623)

「ヴィオロンチェロ Violoncello」の語が最初に登場する出版譜は、ヴェネツィアで1665年に出されたG. C. アッレスティの『ソナタ集 op. 4』。この新しい名前、ヴィオローネの変化を反映しています。この時期、以前よりも楽器が小さくなったのです。理由は、弦の改良。

当時の弦楽器には、羊の腸から作られたガット(カットグット、腸線)が使われていました。低い音を出すためには長い弦が必要ですが、左手で音程を決める弦楽器は鍵盤楽器と違って、長過ぎると指が届かない。長さを切り詰めるために太い弦が使われましたが、音質が悪く大きな音が出ませんでした。

この問題を解決したのが、ガットや絹糸の周りに細い針金を巻く新技術。17世紀半ばにボローニャで発明されたことが、ほぼ確実です3。弦の密度が増したため、低い音でもそれまでよりもずっと細く短い弦ですむようになりました。響きが良く、音量も豊かに。

弦が短くなった分、楽器本体も短縮。そのために「(前より)小さなヴィオローネ」ヴィオロンチェロと呼ばれるように。現存する古いタイプの楽器から、弦の改良前は楽器本体と弦の長さが4、5cmほど長かったことがわかります。現在のチェロの標準サイズ(本体が75〜76cm)は、18世紀初めにストラディヴァリによって確立されたもの4

わかってみると、「小さな大きなヴィオラ」violoncello という名前がついた理由、別にややこしいわけではありませんでした。でも、楽器のサイズが途中で変わった(しかも小さくなった)なんて、普通は考えつきませんよね。

  1. Ferrari, Gaudenzio, “Angel Concert,” on the dome of the sanctuary of the Madonna dei Miracoli in Saronno, 1534-36.
  2. Claesz, Pieter, “Stil-life with Musical Instruments,” 1623.
  3. Bonta, Stephen & Richard Partridge, ‘String,’ New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 24, Macmillan, 2001, p. 582.
  4. Bonta, Stephen, ‘Violoncello,’ New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 26, Macmillan, 2001, p. 747.

Comments closed