10. 6月 2015 · (240) チェロはややこしい? はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , ,

チェロの本名ヴィオロンチェロ violoncello は、イタリア語で「小さな大きなヴィオラ」の意味。擦弦楽器の総称 viola に増大の接尾辞 -one で大きな、縮小の接尾辞 -ello で小さなという意味が加わるからでしたね((37) ヴィオラはえらい?参照)。なんともややこしい名前ですが、私はずっと、チェロがコントラバスのご先祖様ヴィオローネ violone(大きなヴィオラの意)よりも小さいので、小さなヴィオローネという名前で呼ばれるのだと納得していました。音楽事典でヴィオローネをひくと:

弦楽器の1種で、ヴィオラ・ダ・ガンバ蔟の最低音楽器。6弦で調弦はベース・ガンバと同じだが、(中略)実音は楽譜よりオクターヴ低い。(中略)ガンバ蔟の中で、ヴァイオリン蔟と併用された最後の楽器であり、コントラバスが一般化するまでオーケストラの最低音域を受け持った(後略)1

と書いてあるからです。でもこれは、現代の用語法。歴史的にみると、ヴィオローネは他にもさまざまな意味を持つ、すごくややこしい名称でした2

  1. 1530年代以降、すべてのサイズのガンバ(=ヴィオール)蔟を指していた。
  2. 1600年ころまでに、低音のヴィオラ・ダ・ガンバを指すようになった。1609年にバンキエーリは、ヴィオローネ・ダ・ガンバを G’-C-F-A-d-g、ヴィオローネ・デル・コントラバッソを D’- G’-C-E-A-d に調弦すると書いている。
  3. 同時に、(いつからかはっきりしないものの)ヴァイオリン蔟の低音楽器も指すようになった。バス・ドゥ・ヴィオロン、バッソ・ディ・ヴィオラ、バス・ヴィオール・デ・ブラッチョ、バッス・ドゥ・ヴィオロン、バッセット、バッセット・ディ・ヴィオラ、バッソ・ダ・ブラッチョ、バッソ・ヴィオラ・ダ・ブラッゾ、ヴィオラ、ヴィオラ・ダ・ブラッチョ、ヴィオラ・ダ・ブラッゾ、ヴィオレッタ、ヴィオロンチーノ、ヴィオローネ、ヴィオローネ・バッソ、ヴィオローネ・ダ・ブラッゾ、ヴィオローネ・ピッコロ、ヴィオロンジーノ、ヴィオロンゾーノ、ヴィヴォラ・ダ・ブラッゾなど、さまざまな名称が使われた3
  4. 例外的にヴェネツィアでは、1660年以降コントラバスを指した。

ガンバ(ヴィオール)蔟とヴァイオリン蔟は、似て非なる楽器。形(ガンバ蔟はなで肩)、弦の数(ガンバ蔟は多い)、調弦(ガンバ蔟は3、4度調弦)、フレットの有無(ガンバ蔟は有り)などが異なります((31) 仲間はずれはだれ?参照)。その両方の低音楽器をヴィオローネと呼んでいたとは……。ややこしすぎ!と文句を言いたくなりますが、ガンバ蔟もヴァイオリン蔟も、擦弦楽器つまりヴィオラ。大型のものをヴィオローネと呼ぶのは自然だったのでしょう。イタリアでヴィオローネがコントラバスを指していたのはヴェネツィアだけ。ヴィオローネより一回り小さいからヴィオロンチェロの名がついたわけではなかったのです。(続く)

図1:プレトリウス《シンタグマ・ムジクム》II(Theatrum instrumentorum, 1620, pp. 20-21)

図1:プレトリウス《シンタグマ・ムジクム》II(Theatrum instrumentorum, 1620, pp. 20-21)

  1. 高野紀子「ヴィオローネ」『音楽大事典1』平凡社、1981、182ページ。
  2. Bonta, Stephen, ‘Violoncello,’ New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 26. Macmillan, 2001, pp. 745-47.  Borgir, Tharald / Stephen Bonta, ‘Violone,’ op. cit., p. 765.
  3. bas de violon (Jambe de Fer, 1556), basso di viola (Zacconi, 1592), bass viol de braccio (Praetorius, 1619), basse de violon (Mersenne, 1637), bassetto, bassetto di viola, basso da brazzo, basso viola da brazzo, viola, viola da braccio, viola da brazzo, violetta, violoncino, violone, violone basso, violone da brazzo, violone piccolo, violonzino, violonzono, vivola da brazzo など。これらのうち -ino、-etto、-etta、piccoloは小さな、braccio、brazzoは腕の意味。

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