27. 5月 2015 · (238) 「塔の音楽」 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: ,

留学中にティーチング・アシスタントとして使った、アメリカの一般教養の音楽の教科書(厚さ3cm、付録CDが8枚!!)。最近、楽書購読(音楽について書かれた英文を読む講座)のテキストとして読んで(読ませて)いたら、「楽器は情報伝達のためにも使われて来た。(中略)音楽家は塔から金管楽器を鳴らすことで時を伝えてきた」という記述がありました1。初期の合奏形態の1つ、「塔の音楽」ですね。ドイツ語で Turmmusik、英語では tower music。いつ、どんな音楽が奏されたのでしょうか。

教会や市庁舎の塔からの奏楽は、ドイツでは16世紀終わりころから18世紀初めころまで、ごく普通の習慣でした2。初めは塔守の、のちには町楽士と市参事会楽士の仕事3。信号、ファンファーレ、コラール(ルター派プロテスタントの賛美歌)、舞曲や、もう少し規模が大きい「塔のソナタ」と呼ばれる器楽曲が、毎日定まった時刻に奏されました。たとえばハレでは3時、11時、19時、土曜日には13時(1571。日の出前の3時を知らせたのはなぜでしょうね??)。4声か5声が一般的で、管楽器、特にコルネット、トランペット、トロンボーンが使われました。

出版された「塔の音楽」もあります。ヴァイオリニストでトランペット奏者であったヨハン・クリストフ・ペーツェル(1639〜94)の《10時の音楽》(1670)もその1つ。ルター派プロテスタント信者だったペーツェルは、1661年から81年までライプツィヒ市の楽士として雇われていました。彼のそのものズバリのタイトルのおかげで、1670年ころライプツィヒでは、10時に「塔の音楽」が奏されたことがわかりますね。2つのコルネットと、アルト、テノール、バスの3つのトロンボーン、あるいは2つのヴァイオリンと2つのヴィオラ、ヴィオローネのための5重奏曲集です。下の動画は、40曲収められた中の第3番。

時を知らせる「塔の音楽」とは異なりますが、ベートーヴェンも塔楽士のために、4つのトロンボーンのための《3つのエクヴァーレ WoO 30》を作曲しました4。ラテン語の aequale (等しい)に由来するエクヴァーレは、同じ種類の楽器あるいは声のための曲。18〜19世紀のオーストリアでは、特にトロンボーン合奏による葬儀用音楽でした5。トロンボーンが古くから教会で用いられていたからですね((42) 神の楽器トロンボーン参照)。1812年10〜11月に、ベートーヴェンが弟を訪ねてリンツに滞在したときに、リンツ大聖堂楽長グレッグルに依頼された作品で、「万霊節(11月2日)のため」という記述も。なお、3曲のうちの第1、3番(3:33〜)は、男声4重唱を加えて1827年3月29日のベートーヴェン自身の葬儀で、また第2番(2:00〜)は男声合唱の形で、1年後のベートーヴェンの墓石除幕式で演奏されたそうです。

  1. Kamien, Roger, Music: An Appreciation, 6th edition, McGraw-Hill College, 1996, p. 13.
  2. Rastall, Richard, ‘Turmmusik,’ New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 25. Macmillan, 2001, p. 928.
  3. 以下、「塔の音楽」『図解音楽事典』、U. ミヒェルス編、白水社、1989、319ページ。
  4. 同上。
  5. 以下、土田英三郎 「管楽器のための室内楽曲」『ベートーヴェン事典』、1999年、185−86ページ。

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