08. 4月 2015 · (232) 《マイスタージンガー》:序曲と前奏曲 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: ,

4月の聖フィル第12回定演のオープニングは、リヒャルト・ヴァーグナーの《ニュルンベルクのマイスタージンガー》第1幕への前奏曲。オペラの最初の音楽なのに、序曲じゃないのはなぜ?! 序曲と前奏曲、どこが違うのでしょうか?

オペラ誕生後、その幕開けの音楽として、リュリにより緩―急―緩のウヴェルチュール(フランス風序曲)が成立。少し遅れて A. スカルラッティにより、急―緩―急のシンフォニーア(イタリア風序曲)が生まれたのでしたね((18) 赤ちゃん交響曲誕生まで参照)。序曲は、これらの定型に従って作るもの。オペラの内容とは関係ありませんでした。シンフォニーアが交響曲のルーツの1つになる一方、モーツァルト以降の序曲は、ソナタ形式で作曲されるように。19世紀には、オペラやオラトリオなど大規模な曲に先立たない、独立した序曲(演奏会用序曲)も作られます((167) 演奏会用序曲と交響詩 (1) など参照)。

一方の前奏曲はもともと、後に続く音楽の旋法や調性を示すために、即興的に奏された器楽曲。ラテン語で前奏曲を意味する praeambulum という語には、聴衆の注意を引きつけ、トピックを提示するという修辞学的な意味も 1。楽譜に残る最も古い前奏曲は、教会で声楽曲に先だって演奏されたオルガン曲。歌い出しの音を示したのですね。

前奏曲は、組曲や多楽章楽曲の第1曲として置かれたり、フーガの前にそれと対を成す曲として置かれたりしました。後者の場合、途切れなくフーガに続く「序奏」とは異なり、完結します。コラール前奏曲のような単独曲もありますが、礼拝の前などに奏され、導入のための音楽という性格は共通しています。

19世紀になると、ショパンの《雨だれ》の前奏曲のような、前奏とか導入の意味をもたない前奏曲も作られるようになりました。とはいうものの、《雨だれ》も含まれるショパンの前奏曲集作品28は、全ての長短調(24種類)の前奏曲とフーガを収めた J. S. バッハの《平均律クラヴィーア曲集》の、前奏曲だけヴァージョンなのですが。スクリャービンやショスタコーヴィチなど多くの作曲家が、ピアノのための24の前奏曲集を書いています。

話をヴァーグナーに戻して。彼は《ローエングリン》(1848年)以降、前奏曲 Vorspiel という語を使うようになりました。オペラ全体の導入曲である序曲とは異なり、各幕を導く音楽です2。続く幕の概念や、そこで起こる音楽的・劇的な出来事を、より限定的に明確に示すことができます。たとえば 《ローエングリン》第1幕への Vorspiel はグラールの聖杯を描く荘厳な、同じく第3幕への Vorspiel は結婚の喜びを描く祝祭的な曲です。

《マイスタージンガー》前奏曲では、オペラで使われる旋律素材が次々に登場。ヴァーグナーは、ときには複数の旋律を組み合わせながら、ソナタ形式の枠組みにとらわれることなく自由に曲を構成しました。オペラに先立って演奏される場合は完結せず、最後の和音が第1幕冒頭のコラールの開始音になります。オペラ本体の内容を(ある程度)示しながら、前奏曲をドラマと一体化させ、歌い出しの音を示すという前奏曲のもともとの目的も果たしていますね。

  1. Ledbetter, David, ‘Prelude,’ New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 20. Macmillan, 2001, p. 291.
  2. 同じ傾向は、ヴェルディやビゼーにも見られます。

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