15. 10月 2014 · (207) 6/8拍子で始まる交響曲 はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , ,

そもそもの発端は、田部井先生の「ブラームスの拍子の選択は変わっている」というご指摘でした。ブラームスのヴァイオリン協奏曲のように3拍子で始まる曲を調べて((199) 3拍子で始まる協奏曲)気づいたのが、6/8拍子の協奏曲の少なさ。(199) 註3に書いたように、名曲解説全集9 協奏曲 II(音楽之友社)に収められたC. シュターミツからヴォーン=ウィリアムズまでの113の協奏曲中、6/8拍子で始まるのは1曲だけ。その6/8拍子を、ブラームスは最初の交響曲の第1楽章に使いました。これはどれくらい「変わっている」のでしょう。

交響曲の拍子は古典派でも、協奏曲のように4拍子が圧倒的というわけではありません。たとえばベートーヴェン。9つの交響曲の冒頭部(序奏の有無にかかわらず)の拍子は:

4/4:第1番(以下数字のみ)、7
3/4:2、3、8
2/4:5、6、9
2/2:4

ハイドンは3拍子で始まる曲が多く、モーツァルトは4拍子が多いものの、3拍子2拍子も。

でも協奏曲と同様、6/8拍子で始まる曲はほとんどありません。1876年完成のブラームス第1番より前に6/8拍子で作られた交響曲は、メンデルスゾーンの4番(《イタリア》1833)とドヴォルザークの3番(1873)くらい。これより後も、サン=サーンスの3番《オルガン付き》(1886)やドヴォルザークの7番(1885)など、稀。ハイドンの94番《驚愕》、101番《時計》、103番《太鼓連打》、ベートーヴェンの7番などソナタ形式の主部が6/8の曲はありますが、違う拍子の序奏で始まります。

理由は明らか。(199) に書いたように、3/8、6/8、9/8などは終楽章で使われる拍子だったからでしょう。交響曲の最大のルーツ、シンフォニーア(イタリア風序曲)において急―緩―急の2つ目の急の部分は、速いメヌエットやジーグのような舞曲風に作られました1。つまり、3/8や6/8拍子だったということ。「赤ちゃん交響曲」が成長しても、この伝統が受け継がれたのですね。各楽章がなるべく多様な方が(聴くのも演奏するのも)良いですから、終楽章に使うべき拍子や性格を第1楽章に避けるのは、当然。

6/8で交響曲を書き始めたブラームス、確かにかなり「変わって」います。完成までに20年以上かかった曲ですから、偶然、レアな拍子を選んで作っちゃったわけでは無いでしょう。しかも、メンデルスゾーンの第4番第1楽章は舞曲的(終楽章は本物の舞曲)ですが、ブラームスの第1番第1楽章は、序奏も主部も6/8拍子ながら舞曲とは似ても似つかないシリアスな音楽です。今までほとんど使われなかった拍子を意識的に選び、伝統的な(舞曲風ではない)交響曲第1楽章を書いたブラームス。交響曲の遺産を受け継ぎ、それ(特にベートーヴェンの9曲)を越える曲を作ろうという彼の意気込みが、拍子からも静かに伝わって来るようです。

  1. Fisher, Stephen C., ‘Italian Overture,’ The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 12, Macmillan, 2001, 637.

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