以前、ピアノ協奏曲や三大バレエを練習したときにも感じましたが、チャイコフスキーの音楽って、演奏していて・聴いていて気持ち良いですよね。なぜでしょうか?

チャイコフスキーの音楽の特徴と言えば、まず何よりもメロディー。甘く切なく泣かせてくれます。でも、よく見ると彼のメロディーって音階ばかり!? ほとんどが、上か下の隣の音に進む順次進行でできています。フレーズの変わり目で、ちょっと遠くに跳ぶ(跳躍進行)くらい。

たとえば、交響居曲第5番冒頭の「運命の動機』((202) 循環形式の到達点?! 参照) 。同じ高さの反復音を省くと、「ソ-ラ-ソ-ファ-ソ–ミ シ-ド-シ-ラ-シ–ソ ミ-レ-ド-シ-ラ-ソ」(実音。ファはファ♯。以下同)。「ソ–ミ」と「シ–ソ」以外、お隣に進むだけです。この動機から生まれた第1主題も、反復音やタイ、休符、スラーなどで複雑に見えますが、追加された最初の「ド」以外、順番に上がって下りています(ド–ミ-ファ-ソ-ラ-ソ-ファ-ミ ド–ソ-ファ-ミ)。

主旋律だけではありません。弦楽器がこの第1主題を受け持つ、57小節からの対旋律。それまで主題を吹いていたクラリネットとファゴットによる16分音符も、上がって下りる順次進行です。また、第1主題が fff で奏される108小節からの低音旋律。オクターヴの折り返しをしながら「ミ-レ-ド-シ-ラ♯-ラ-ソ-ファ……」とずんずん下りていきます。ただの(?!)順次進行ですが、いったいどこまで下がるのかと、思わず低音に集中してしまいます。シンプル・イズ・ベスト!

この「ずんずん下り」を「そろそろ上り」と組み合わせたのが、提示部の締めくくり(コデッタ)に向かう部分(譜例1)。主旋律は、第2主題のシンコペーションの音型で「ミ-ファ-ソ-ソ♯-ラ……」と半音を多用しながら上ります(188小節)。低音部も「レ-ド-シ-シ♭-ラ-ソ-ファ-ファ♮……」とずんずん下降(186小節)。ストリンジェンド(次第に急き込んで。イタリア語の動詞 stringere 「締め付ける」のジェルンディオ形 (193) アニマートとアニマンド参照)とクレッシェンドしながら音域を拡げ、前半の頂点へ。

「そろそろ上り」の主旋律はフルート、オーボエ、クラリネット、ヴァイオリン1と2、ヴィオラ、チェロが担当。「ずんずん下り」の低音旋律はファゴット、トロンボーン3番、チューバ、コントラバス。これだけ演奏するパートが多いのに、どちらにも和音を構成する下の音はついていません。上り下りとも、全員で同じ旋律(ユニゾン)を演奏します。チャイコフスキーはこのユニゾンの使い方が絶妙! ヴァイオリン1と2、あるいはヴィオラとチェロが同じ旋律を弾くことはよくありますが、チャイコフスキーは、コントラバス以外の全弦楽器にユニゾンさせるのです。

ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロはそれぞれ音域が異なるので、「そろそろ上り」は同じ音とはいえ3オクターヴの幅で進みます。頂上にたどり着いた194小節からは、なんと4オクターヴ幅に。コントラバス以外の弦楽器が全て同じメロディーを fff で弾いているだけでも大迫力なのに、4オクターヴの厚みは圧倒的。しかも、同属楽器ですから楽器同士で互いに共鳴し合い倍音も鳴って、オーケストラ全体がより豊かな響きに。シンプル・イズ・ベスト!

演奏していて・聴いていて気持ち良いのは、このようなチャイコフスキーならではのしかけ(シンプルさ)のおかげなのですね。

譜例1:チャイコフスキー作曲交響曲第5番第1楽章 183〜95 小節 弦楽器

譜例1:チャイコフスキーの交響曲第5番第1楽章 183〜95小節 弦楽器