30. 7月 2014 · (196) 速度記号の(本当の)意味:アニマートとアニマンド (2) はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags:

(193) アニマートとアニマンドの脚注に書いたように、イギリスの音楽事典 The New Grove Dictionary of Music 第2版はアニマートを、発想(表情)記号だけではなく速度記号と定義しています(しかも「A mark of tempo and expression」で、速度の方が先)1。「活気をもって、生き生きと」がなぜ速度記号に?

アニマンドを多用したヴェルディ。《イル・トロヴァトーレ》でレオノーラが歌う〈静かな夜 Tacea la notte placida〉では、「animando un poco(少しアニマンド)」の4小節後に「poco più animato(少しもっとアニマート」と書かれています。アニマートの「生き生き」は変化しない状態なのに対し、アニマンドの「生き生き」は現在変化中でしたね((193) 参照)。直訳(!?)すると、少し「さらにもっと生き生きしてい」って、4小節後には少しもっと「生き生きし」て。意訳(つまりこれを音楽で表現しようと)すると、少し「速くしてい」って、4小節後からその少し「速い」状態で、とせざるを得ません2

本来は「生き生きと」という発想記号のアニマートが、「(生き生きと聞こえるように)速く」という速度記号としても使われるって、変?? いえいえと〜んでもない!! 私たちが速度記号ととらえているイタリア語って、よく考えるとほとんどが、表情をあらわす言葉です3

    • グラーヴェ grave:「重大な、重い」
    • ラルゴ largo:「幅のある、広い」
    • レント lento:「ゆっくりした、ゆるんだ」
    • アダージョ adagio:「静かに、慎重に」
    • アンダンテ andare:「行く」の現在分詞形
    • モデラート moderato :「ほどよい、温和な」
    • アレグロ allegro:「陽気な、楽しい」
    • ヴィヴァーチェ vivace:「活発な、(頭などが)鋭い」
    • プレスト presto:「すぐに、急いで」

速い遅いを意味しているのはレント(とプレスト)くらい。他は速度そのものではなく「音楽を感覚的に、あるいは質的に表現する言葉」であり、「彼ら [西洋人] の音楽に備わっている脈動(ビート)の感覚的表現」4。「遅く」のグラーヴェ、ラルゴ、レント、アダージョはそれぞれ「重い」感じ、「広い」感じ、「ゆるんだ」感じ、「静かな」感じで拍を打つというのが本来の意味。アニマートなら「生き生きと」拍を打つ、ですね。他にも、アジタート agitato(本来の意味は「揺れた、取り乱した」)、マエストーソ maestoso(「威厳に満ちた」)などの発想記号が、速度記号としても使われています。

  1. Fallows, David, ‘Animato,’ The New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 1, Macmillan, 2001, 686.
  2. チャイコフスキーも第5交響曲の第2楽章で、「animando」の後に「più animato」と書いています。間に ritenuto もありますが。第1&第4楽章には、「animando」無しの「più animato」や「meno animato」も。
  3. いずれも『伊和中辞典』小学館、1985。
  4. 石井宏『西洋音楽から見たニッポン』PHP研究所、2007、200-1 ページ。

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