05. 2月 2014 · (171) いろいろなシンフォニーア はコメントを受け付けていません。 · Categories: 聖フィル♥コラム · Tags: , , , , , ,

先日、「シンフォニーアという語は意味が2種類あってわかりづらい、バロック・オペラの序曲(急―緩―急のイタリア風序曲)も、それが元になって交響曲が成立するまでの初期交響曲もシンフォニーアだから、混乱する」と指摘されました(このコラムでは、前者をシンフォニーア、後者を「交響曲」または「赤ちゃん交響曲」と書き分け……ようとしつつ、やはり後者もシンフォニーアと書いていますね)。大人の交響曲もイタリア語ではシンフォニーアですから、意味は3種類。

これは、「日本では、この(=交響曲)訳語が生まれたころにはまだシンフォニーの成立史についての理解が不足していたために、交響曲という言葉は、もっぱらヨーロッパ音楽の中で最も大きく中心的な曲種であったハイドン以降のシンフォニーを指す言葉として用いられてきた」から1。赤ちゃんでも交響曲は交響曲なのに、違う用語で呼ぶ慣習が続いているのです。

でもこの言葉は昔から、3種類どころではなくもっといろいろなものを指してきたんですよ。シンフォニーやシンフォニーアは、ギリシア語で「共に」をあらわす syn と「響き」をあらわす phonia に由来する言葉。音楽って、複数の音が鳴り響くことが多いですから。

シンフォニーアは、出版楽譜のタイトルとして使われました。ジョヴァンニ・ガブリエーリの《Sacrae symphoniae》(1597)は、器楽曲も含まれますが(〈弱と強のソナタSonata pian e forte a 8〉など)、メインはラテン語の歌詞を持つ無伴奏の多声声楽曲。少し時代が下がると、ガブリエーリの弟子ハインリヒ・シュッツの〈Symphoniae sacrae〉(1629)のように、器楽伴奏付きの宗教声楽曲集に使われます。

器楽曲という意味もありました2。器楽アンサンブルの中のプレリュード的性格を持つ曲や、宗教声楽曲の前に置かれて歌い出しの音を示す鍵盤楽器用プレリュードのいくつかが、シンフォニーアと名付けられています。1650年以降、舞曲の第1曲としてシンフォニーアが置かれ始めました。

声楽曲の中の器楽曲を指す言葉としても使われました。16世紀以来、劇作品の導入曲や、舞台転換の際に出る雑音を隠すために演奏される器楽曲が、シンフォニーアとも呼ばれていました。17世紀初めころ、声楽曲集に含まれる器楽曲シンフォニーアは、必ずしも演奏しなくても良かったようです。17世紀のオペラにおいては、シンフォニーアは独唱や合唱の前や間、後に置かれる器楽曲でした。

特定の形式を持つわけではなく、器楽曲を指す他の用語(たとえばソナタ)と取り替え可能だったシンフォニーア。急—緩—急の3楽章形式の序曲をこの名で最初に(1681)作ったのは、アレッサンドロ・スカルラッティです。18世紀初め以降、次第にシンフォニーアはこの形のオペラ序曲を指すようになりました。単独で演奏されたり、演奏会用に独立曲として作られるようにもなり、やがて(大人の)交響曲へ。

ただ、ヨハン・ゼバスティアン・バッハが長男の学習用に書いた《インヴェンションとシンフォニア》のような例もあります。教会カンタータやパルティータの冒頭曲をシンフォニーアと呼ぶ、より一般的な使い方もしているバッハ。修辞学で「第1段階」を意味するラテン語インヴェンツィオに由来するインヴェンションはともかく、3声用がシンフォニーアなのは??3 やはり一筋縄ではいかない用語です。

  1. 大崎滋生「交響曲」『音楽大事典2』平凡社、1982、889。
  2. Cusick, Suzanne G., “Sinfonia (i)” New Grove Dictionary of Music, 2nd ed., vol. 23. Macmillan, 2001, p. 419-20.
  3. 久保田慶一「インヴェンション」『バッハ キーワード事典』春秋社、2012、162。

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